漫才 犬のお巡りさん
「あのー、ちょっと聞いて欲しいんだけど」
『ハイハイ』
「どうにもスッキリしないことがあってさ、歌なんだけど……なんつったかなぁ」
『歌?』
「えっとなんだっけ。いーぬーのー おいなりさん♪」
『お巡りさんね』
「え?」
『お巡りさんね、そこ、おいなりさんじゃなく。何が悲しくて犬のキンタマ見なきゃなんないんだよ』
「あー、お巡りさん」
『うん、お巡りさん』
「え、待って、ちょっと最初から歌うわ」
『え、ああ、うん、聞くわ』
「まいごのまいごの 子猫ちゃん♪」
『うん』
「あなたの値打ちはどこですか♪ 値打ちーをきいても」
『おうちおうちおうち! 子猫に聞くにはちょっと酷じゃないかなその質問』
「あ、おうち」
『大人でも相当難しい質問よ、それ』
「おっけおっけ。あなたのおうちはどこですか♪ おうちーをきいても わからない♪ なまえーをきいても わからない♪」
『そこはあってんだ』
「…………」
『……ん?』
「いや、ここ思い出せないな……」
『え、なんか難しいところあった?』
「や、僕、歌詞って意味と結び付けて覚えるタイプなんだけどさ」
『あ、じゃあ難しいかもしれないわ。そこあんま意味ないのよ』
「えっ、意味ないの?」
『うん、まあ無いっつーとアレなんだけど』
「え、それって歌詞としてどうなの?」
『急に批判してくるじゃん。やめてよ、角が立つから。そこは、ニャンニャンニャニャーン♪ ニャンニャンニャニャーン♪ って、子猫が泣いちゃうのよ』
「それは、時には自身を縛り付ける意味の鎖から解き放たれて心のままに泣こうっていう」
『違うね。童謡に込めるにはメッセージが重すぎるから』
「あ、違う?」
『うん、単純に心細くて泣いてるだけだと思うわ』
「そっか、じゃあ、ニャンニャンニャニャーン♪ ニャンニャンニャニャーン♪ ……ニャニャーンってなに?」
『それはマジでわからん。ここだけは受け入れるしかない』
「あ、そうなんだ。えっと、ニャンニャンニャニャーン♪ ニャンニャンニャニャーン♪ なーいてばかりいる 子猫ちゃん♪ いーぬーのー おいなりさん♪」
『違ぇって』
「えっ?」
『さっきやったとこよ。まあ、子猫の前でおいなりさん出してたら、それはそれでお巡りさん来るけどね』
「あ、お巡りさんね」
『そう、お巡りさん』
「そっかそっか。いーぬーの お巡りさん♪ 困ってしまって…………」
『あー、そこはさっきの応用で解けるわ』
「さっきの?」
『あの、子猫が泣いてたところと同じ、うん』
「…………びょうびょう?」
『なんで江戸時代の鳴き方なんだよ。ワンワンワワーン♪ ワンワンワワーン♪ ね』
「ワワーンってなに?」
『それもマジでわからん。ここも受け入れるしかない』
「あー、そうなんだ。ワンワンワワーン♪ ワンワンワワーン♪」
『そう。それが正しい歌詞ね』
「あー、そっかわかった。ありがとう」
『うん、スッキリした?』
「ああ、いや、それがまだスッキリしなくてさ」
『あれ、おかしいな、全部正しい歌詞なはずなんだけど』
「いや、この物語の主人公って、結局子猫と犬どっちなの?」
『いや、歌詞思い出せなくて悩んでたんじゃないんかい。もういいよ』
「「ありがとうございましたー!」」
「おー、面白いじゃねーか。一杯奢ってやるよ」 くらいのテンションでサポート頂ければ飛び上がって喜びます。 いつか何かの形で皆様にお返しします。 願わくは、文章で。