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幻痒

 今朝から身体中痒くて痒くて仕方がない。内臓の一つ一つに至るまで激しい痒みが止まらないのだ。妻に話をしようにも、まるで梅雨時期の今の天気に呼応しているかのようにさめざめと泣くだけで、私の声はてんで耳に届かないらしい。
 この痒みをどうにか止めないことには居ても立っても居られないので、裏庭の物置に身体を見に行くことにした。
「ああ、やっぱりだ」
もう使わない家具や日焼けした本や使い古した掃除用具の間に打ち捨てられた私の身体には、びっしりと蛆が沸いている。もはや人の身体というより赤黒い蛆の塊と言った方が表現としては正しい。なるほど、こいつがこの耐えがたい痒みの原因だったのか。そういえば、彼女は昔から後片付けが下手くそだったのを思い出した。

 ああ、早く焼いてくれないだろうか。妻はまだ、泣いている。

「おー、面白いじゃねーか。一杯奢ってやるよ」 くらいのテンションでサポート頂ければ飛び上がって喜びます。 いつか何かの形で皆様にお返しします。 願わくは、文章で。