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広げよう、想像力の翼

「文章に必要なのは想像力だ。自由な想像力は、やがて君をどこまででも連れて行ってくれる翼になる」

先生は僕にそう教えてくれた。
その言葉を信じ、僕は自由な想像力をもって文章を書き続けた。毎日、毎日、晴れの日も、雨の日も。僕は文章を書き続けた。
上手く書けない時もあった、辞めようかと思った時もあった。
それでも僕は、文章を書く手を止めなかった。毎日、毎日。僕は文章を書き続けた。

そうして十数年の時が経った頃、僕の背中には、立派な翼が生えていた。
それは真っ白で、美しい翼だった。本当に、僕をこの世界のどこへだって連れて行ってくれるような気がした。

僕の背中に翼が生えて何日か経ったある日。僕は久しぶりに先生に会いに行った。先生に、僕の成長した姿を見て欲しかった。
背中の翼を見て、先生は言った。

「え、え、何これ?どうなってんの?え、何これキメぇっ!うわ、動いたっ!え、キショっ!」

僕は先生の半月板を叩き割ると、わき目もふらず窓から飛び出した。
初めて飛んだ空は快晴だったが、心は晴れなかった。


それからというもの、僕はこの翼をもっと自由に動かすトレーニングをする日々を送った。毎日、毎日、晴れの日も、雨の日も。
何日も何日もトレーニングを重ね、やがて僕はこの地球上のどこへでも飛んでいけるようになった。それでも、この心のもやが晴れることはなかった。

僕は、僕を縛り付けるこの重力から解放されたかった。
だから僕は決意した。
この地球を出て、宇宙へと旅立とう。


その日の天気は晴れだった。
奇しくも、あの日先生を訪ねた時と同じような、雲一つない晴天だった。
僕は東京スカイツリーのてっぺんを、勢いよく蹴った。

僕の翼は、僕の身体を力強く空へと運んでくれた。
ぐんぐんと遠くなっていく地上。
産まれて初めて自由を手にしたような気がした。

空は孤独だった。
空気が薄く、心臓が張り裂けそうな程脈打っていた。
冷気は容赦なく身体に噛みつき、激痛に何度も気を失いそうになった。
それでも僕は、上へ、上へと翼を羽ばたかせた。
いや、その表現は正確ではない。僕にはもう、上も下も、右も左もわからない。
もはや僕を突き動かしているものは、翼でも僕の身体でもなく、僕が本当に自由になれるどこかを目指そうとする想いだけだった。


突然視界が開けた。もしかしたら、気を失っていたのかもしれない。
僕の身体も、翼も、もう意味をなさなかった。
僕を縛り付ける重力はもう、どこにもなくなっていたからだ。

宇宙だ。

僕は自由になったんだ。
星の光がまぶしい。僕は目を細めながら、その冷たく美しい光の粒子を見回した。
孤独で力強い星々は、まるで自分のようだった。

ふと、ひときわ輝く大きな星を見つけた。
その光は他の星々のそれと違い、暖かく、柔らかで、優しい光だった。
その光は、青い、青い光だった。
どこまでも青い…あの日飛んだ空よりも、ずっとずっと……。

地球。もう戻ることはない、僕の故郷。


広げよう、想像力の翼
京都アニメーション

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