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いつでもそばに

おはようございます。
昨夜はゆっくりお眠りになられましたか?
暖かい紅茶やスープなどはいかがですか?
…ええ、心配なさらずとも、いつもおそばにおりますよ。どこにも行きはしません。
え? 心配などしていない? 左様でございますか。

ええ、ええ、私はいつだってあなたのおそばにおります。
片時も離れず。病める時も、健やかなる時も……これだと婚姻の儀式でございますね。
いえ、軽いジョークです。お気になさらず。

それだというのに、あなたは私のことをお嫌いなようで、いつも私などはまるで存在していないかのように振舞われますね。
私とて、あなたが私をお嫌いなことを知っているので、いつもはまるで存在していないかのように振舞うのですが。
そうしてふと目が合った瞬間、あなたはそれはそれは恐ろしいような、しかしどこか安堵してもいるような、不思議な表情をされるのですね。
ええ、ちょうど、今のように。


そういえば、あなたは一度私の手を取ろうとしたことがありましたね。
あれは…そう、今日のように静かな朝のことでした。
あなたはたいそう疲れたような表情で、しかし目だけはしっかりと私を見据えておられました。
私、あのようにまっすぐに見つめられたことなどなかったゆえ…いえ、軽いジョークです。お気になさらず。
あなたはそうして、私に向かってゆっくりと手を伸ばし、私とあなたの指先が触れ合って…。
忘れてしまわれましたか? いいえ、私は覚えていますよ。

あなたは結局、私の手を取ることが出来なかったんでしたね。
ええ、だから今、あなたはそこにいるのですから。
あの時の、目が覚めたあなたの表情といったら……。
おや、ご気分を害されましたか? これは失礼致しました。
お茶うけにクッキーなどいかがでしょう?


ええ、ええ、私はいつだってあなたのおそばにおります。
あなたが紅茶やスープを飲み、クッキーを食べている時も。
静かな部屋で本を読んでいる時も。
慣れない言葉づかいでラブレターを書かれている時も。
嫌々ながら仕事に出かける時も。
笑っている時も、怒っている時も、泣いている時も。
幸せな時も、不幸な時も。
仕事が変わっても、住む場所が変わっても、名前が変わっても、顔が変わっても。
生まれてから、今まで、そしてこれからも。

ええ、勿論。あなただけじゃありません。
あなたのご両親やご家族のそばにも。あなたが嫌うあの男のそばにも。あなたが愛するあの娘のそばにも。
子供も、若者も、老人も。過去に存在していた者も、未来に存在するだろう者も。
人だけではありません。犬や猫、鳥、獣、草木に花。
見方を変えれば、岩や水、家や橋にだって。


だからご安心ください。私はいつだっておそばにおります。
あなたが私の手を取る、その日まで。

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