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【桜見る旅】上越高田に行って来た

■一日目 落花盛ん

高田城址公園の夜桜は、この世の物とも思われぬほど美しい。

2021年3月13日のSWAクリエイティブツアーで知ったことである。
SWAとは春風亭昇太、柳家喬太郎、三遊亭白鳥、林家彦いち等四人が一つのテーマで新作落語を作って語る会である。
この時のテーマも白鳥師匠の新作「桜の夜」も、しかと覚えてはいない。
ひとつだけはっきり記憶しているのは故郷、上越高田の桜を讃える言葉である。

以来、毎年「そうだ高田、行こう」と思う頃には春は終わっていた。
今年は思いつくのが少しばかり早かった。
いよいよ「そうだ高田、行こう」である。

上野駅から上越新幹線はくたか557号に乗る。
上越妙高駅に到着後えちごトキめき鉄道に乗り換え高田駅に到着。
空は家を出る頃から薄曇りだった。
そして目的地の高田城址公園に着く頃には、小雨が降り始めていた。

落花盛ん

2023年4月7日(金)午後。
ここに高田城址公園の桜は立派な花筏になったことをご報告申し上げます。

いや、実は予約の時点で気づいてはいた。
上越観光Naviの〝高田城址公園観桜会 本日の開花状況とライトアップ〟
によれば〝4月6日 落花盛ん〟である。
翌日はもっと落花盛んであった。
到着するなり目的は果たされてしまった。後は上越妙高のホテルに行くだけである。

が、私には新たな目的が出来ていた。
食べログで調べたカレー店に行くのだ。

小林古径&食べログ頼り

昼食には同じく食べログで調べた寿司屋〝軍ちゃん〟に駅から直行した。
握りずしの松を奢った。松竹梅の松である。
って、寿司を食べ慣れていない人の自慢丸出しだな。
通はきっとお好みでネタを注文するんだろうな。

軍ちゃんの松!
ネタのメモが添えられている

通ではない私は、寿司に添付されたメモ書きのネタを見てもピンと来なかった。
マトウダイ、アジ、ホウボウ、タイ、イシモチ、ヒラメ、甘エビ、イクラ。
魚は全部、白身である。
赤がない。マグロの赤身は?
しっくり来ない気分で完食したが、寿司慣れない私に「マグロの赤身」と口にする勇気はなかった。

そして城址公園に向かって歩いて行くうちに、見つけてしまったのだ。
〝かれえはうす壱番館〟
こちらも食べログのおすすめに載っていた店である。

店の外には食欲をそそるカレーの香り。
寿司だけでは満腹にならない。まだ何か入る余地はある。
けれど妙齢の婦人が寿司に次いでカレーを食べるのは如何なものか。
観桜の後、改めていただくとしよう。

こうしてカレー目指して城址公園を出た。
そこでうっかり小林古径記念美術館に入ったのが、方向音痴には覿面だった。
私は親代々の由緒正しき方向音痴である。
これでよく一人旅をするものだが、友達がいないんだから仕方がない。
恋人もいないぞザマーミロ!
いや、そういう話ではない。

小林古径の屋敷
ここに泊まりたい

小林古径とは何者なのか?
Wikipedia先生によると、1883年(明治16年)~1957年(昭和32年)の大正から昭和にかけて活躍した日本画家だそうです。本名、茂。

こじんまりとした美術館だった。
そして古径画伯のお屋敷が良かった!
二階建て家屋はシンプルながら機能的に出来ており、窓からは和風庭園。
ああ、いいなあ。
こんなお家に住みたいなあ。
何なら泊まってみたいなあ。

うっとりしながら小林古径記念美術館を出たところで道に迷った。
高田の街は碁盤の目に出来ており、城址公園までの道はわかりやすかった。
だが公園敷地内は碁盤の目ではない。

来る時には見なかった道、お堀から続く池の周りを歩いているのだった。
散歩中の地元の方に尋ねれば、ずっと歩いて行けば碁盤の目の街に出られるらしい。
ただひたすらに歩き続ける。
池の周りには住宅街が広がっている。

三遊亭白鳥師匠をイメージして
デザインされたマンホール!

ではないと思う

白鳥師匠の噺で私は上越高田が壮絶なド田舎の雪国と思い込んでいた。
駅前は舗装道路もなくただ土埃が舞っているような。
とんでもない!
高田は立派に都会だった。
住宅街も藁葺き屋根で庭先で焚き火をしている……なんてことはなく普通に都会の住宅地だった。

ただひとつ、田舎の証明は人影がないことである。
駅を降りた直後など、人っ子一人出会わなかった。
電車内(ディーゼル車内?)は始業式帰りらしい女子高生で満員だったのに。
みんなどこに消えた?
今にも彼女らがゾンビになって現れるに違いない。
そんな恐怖を振り払いつつ城址公園まで歩いたのだ。
公園に入ってやっと観光客の姿を見つけて胸を撫でおろしたものだった。

かれえはうす壱番館

この店は、かの有名なCoCo壱番屋とは全く関係がない。
地元に根付いた小さなカレー屋である。
お城からまっすぐ歩けば十五分程の道のりを、方向音痴ゆえ一時間以上かけて辿り着いた。

ほらね?
町のカレー屋さん

店内にはカウンターの内と外に主人夫婦がいるだけである。
おお、小上がりもあるではないか。テーブルが三つ並んでいる。
思わず靴を脱いで畳に上がっていた。
常ならばカウンター席を選ぶのがおひとりさまの慎みだが、今日ばかりは足を伸ばしたかった。

とりあえずチキンカレーを注文して店内を見回す。
店内には「大盛り」「学生さんサービス」などの貼り紙が目立つ。
なるほどそういう店なのね。
トッピングの貼り紙を見つけてうきうきと生卵を頼む。
これをまぜまぜしたら美味しいに違いない。
後で気づいたけど、初めて食べるカレーにいきなり生卵まぜまぜはダメでしょう。いや、美味しかったけど。

ただのチキンカレーなのに、鶏を揚げているような音がする。
ただのチキンカレーにしては提供に時間がかかる。
ただのチキンカレーがやっと出て来た。
一口食べて「あれ?」と思った。
「あれ?」「あれ?」と思いながら口に入れるスプーンの動きが止まらない。

ただのチキンカレー&生卵

強いて言うなら「優しいお味」
いや、林家きく麿師匠の新作落語ではない。
あの落語を知っている人は忘れてください。

本当に優しいお味で手が止まらなくなる。
添えられたコールスローサラダも美味しい。
カレーもご飯も生卵もサラダも一緒くたに混ぜて食べる。
インド人か私は?
でも美味しいのよ!

こんなことならカツカレーを頼めばよかった。
おそらく揚げ物のカリカリ感と、この優しいカレーライスのハーモニーにうっとりしたことだろう。
明日また来ようと誓う。
会計の時、奥さんが「これはいらないでしょう?」と遠慮がちに差し出したスタンプカードを力強く受け取るのだった。
来る。きっとまた来る!

これがスタンプカードだ!

結論から言えば、翌日私は高田に戻ることなく帰京してしまった。
かれえはうす壱番館を再訪することは叶わなかった。

◼️二日目 直江津

4月8日(土)
宿泊地の上越妙高駅からえちごトキめき鉄道で直江津駅に向かう。
朝市と水族館が目的だった。
けれど朝から曇天で風がとてつもなく強かった。
通りには何台かのワゴン車が店を広げ始めたばかり。
朝早過ぎたのか、朝市と呼ぶにはあまりに寂しい風景だった。
そこを通り抜けて上越市立水族博物館うみがたりを目指して歩く。

しかし風が強い。
海沿いのハイウェイなど前傾姿勢にならないと、たたらを踏んで進めない程である。
上空では風が鳴っている。
ひゅるりーひゅるりららー♪ という演歌「越冬つばめ」の歌詞が決して誇張ではなく事実なのだと思い知るのだった。

上越市水族博物館うみがたり
イルカスタジアム!

風よけに家と家の間の路地を縫って歩いて徒歩十五分のはずの道を三十分以上かけて歩く。
迷子になったわけでもないのに。
辿り着く頃には強風に加えて雨まで降り始めていた。暴風雨……。

そして何と水族博物館うみがたりでは、鳥インフルエンザの影響でペンギンの展示は中止しているのだった。
実は私は海中だけで生きる魚たちにはそれほど興味はない。
ペンギン、イルカ、アシカなど海と陸とを行き来する生き物が好きなのだ。
というわけで一通り展示を見るとタクシーを呼んで駅に向かった。
そして家に直帰した。

ちなみに上越妙高駅で購入した昼食はこれである。

サンドパン&笹だんごパン
高校生が休み時間に早弁するパン
(※イメージです)

なかなか地方色豊かなパンである。
いつの間にか桜を見る優雅な旅が、B級グルメ旅になってしまった。
日本海の暴風雨でボワボワになった天然パーマで新幹線に乗り込む私であった。

かれえはうす壱番館……。
いつかまた訪れてカツカレーを食べてやる。
それまでスタンプカードは大切に保管しておこみう。


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