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笑点お立ち台

2023年4月12日(水)
めぐろパーシモンホールに「気になる三人かい……」を聞きに行った。

下総の国から目黒区の都立大学駅はなかなかの遠出である。
しかし三遊亭萬橘・春風亭一之輔・桂宮治の(私の贔屓順に書いている。悪しからず)三人会なのだから行かねばなるまい。
笑点メンバー二人に挟まれた萬橘師匠の奮闘を見に行かねば!

私は宮治師匠や一之輔師匠が笑点メンバーになった後にそれぞれの独演会は見たけれど、二人が顔を揃える会は初めてなのだ。

その感想を述べる前にまず大前提として、二人が落語家として非常に優れた実力者であることを確認しておく。
もちろん萬橘師匠も同様である。
なんて、わざわざ言うことでもないけどね。

この会は実力が伯仲している落語家三人の競演なのだった。
とはいえ、笑点メンバーでない萬橘師匠はまことに不利である。
開口一番の後に登場した萬橘師匠に会場の空気は「誰この人?」だった。
観客が待ち受けているのは、ただひたすらに笑点メンバーなのである。
その中で萬橘師匠は鉄板のマクラをやや長めにふって、客をぐいぐい引き寄せるのだった。
笑いと拍手が出たところで、安定の「熊の皮」である。
お客さん大爆笑である。

けれど萬橘贔屓の私でも、宮治師匠が登場した途端に会場の空気が変わったことを認めざるを得ない。
拍手の分厚さが比べ物にならない。
掛け声こそなかったけれど「待ってました!」と言ってるかのような手の打ちようだった。

「笑点の人だ!」と、それだけで客は笑う準備が出来るのだ。
それこそ、箸が転げても笑うような状況である。
萬橘師匠は散々にマクラをふって、ようやく爆笑を手に入れたというのに。

言ってみれば笑点メンバーは、それだけ高いお立ち台に立っているのだ。
萬橘師匠のようなテレビに出ていない落語家は地べたから、そのお立ち台に這い上がるしかないのだ。

落語会の前の一杯
ほうじ茶ラテ

以前、一之輔師匠が独演会でぼやいていた。
地方落語会のチケットが売れ残っていたのに、笑点出演が発表された途端に売り切れた、と。
それまで自分が地道にあちこちで落語会を開いた努力の積み重ねより、笑点というテレビ番組出演の方が宣伝効果があるなんて納得いかない、と。
もっともそれも承知の上で出演を決めたのだろうが。
ぼかやずにはいられない程の激変だったのだろう。

笑点というのは、落語家にとってそういうお立ち台なのだ。
だから少しばかり油断して、落語の稽古をしなくとも、落語がつまらなくなっても、客は爆笑してくれるだろう。
ある意味、非常に危険なお立ち台である。
今回の一之輔師匠は殆どマクラをふらずに「柳田格之進」に入った。
そして1,200人の観客をぐっと引き寄せ、集中させたのだ。

激変を覚悟の上で笑点メンバーになった一之輔師匠が、お立ち台の存在を忘れて稽古を怠るはずもない。
それは宮治師匠も同様だろう。
一之輔師匠より若干サービス精神旺盛な宮治師匠だから、笑点メンバーに関して「黄色い着物」だの「紫色」だのに触れたが、落語は以前と変わらぬ爆笑落語だった。

この際何の関係もない
五代目江戸家猫八の昇進披露手拭い
強いて理屈をつけるなら猫八先生ほど真摯な努力家はいない
仮に笑点メンバーになってもその努力が減ることはなかろう

萬橘師匠は私などには理解不能な信念で(ただの偏屈者?)配信動画にも出演していない。
テレビの笑点出演オファーがあっても断るに違いない。
あるいは、配信嫌いの偏屈さは、笑点お立ち台の原理を知っているからこそかも知れない。
って、買いかぶり過ぎ?
贔屓の引き倒し?

まあね……。
そんなことを考えさせる、めぐろパーシモンホールの夜だった。
ちなみに〝パーシモン〟とは英語Persimmon、柿の意味だそうな。
建物に到る道〝柿の木坂〟にちなんだ名前だそうである。
地元の方々には周知の事実のようだったが……。


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