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コラム

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いつものこと、仕事のこと、未来のこと、そしてnoteのこと。軽い読みものとしてどうぞ。
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#エッセイ

愛の香り。シャネルの19番をめぐる

少し濃い臙脂色の、まるで開けてはいけないかのようなドレッサーが母の寝室にあって、そこに大事そうに婚約指輪と一緒にしまわれていたのがこれだ。 シャネルの19番。1970年に世に出たそれは、まるで斬新でこれからの新しい社会を連想させるもので、鎧のように身に纏う時代の象徴なのにいつの間にか消えてしまう儚いものだった。香りは、いつだって力を持っているのに儚くて、すぐにかき消されてしまうのだ。 おそらく誰もが「爽やか」「ポジティブ」なんて印象を持ちそうなそのグリーンに満ち満ちた香り

コーヒーが私と繋いでいるもの

「スターバックスってすごい教育されてるんだよね」 「何が?」 「だって、働いてるひとみんな優しいじゃん」 働き始めた頃こんなことをよく言われるようになったのだけれど、正直そんなことは知らなかった。ただ、何となくすれてなくて治安の良さそうな職場だなとは思っていて、正直なところサービスは普通レベルだ。 ただ、働いている側の「普通」のレベル感が異常に高いのかもしれない。 だから、教育は「普通」なのだ。 常連さまのことは誰もが覚えているし、どのポジションにいても手を振ったり会釈を

私の髪とこころに触れるあのひとのこと

この人すごい人じゃないの。 なんだか圧倒されてしまった。 彼はもう半年近く、私の髪を扱ってくれている人だ。もう若くない私にとっては人に髪を触らせるだなんてそうそうしたくないもので、それを恥ずかしいと思わずにいさせてくれるのは、おそらく世界中で彼ただひとり。 見た目がちょっとロックなだけにおそらく勘違いされてしまうこともあるような気もするのだけれど、ものすごく丁寧で語り口が穏やかで、こちらを伺うようにじっと見つめる仕草にいつの間にか惹かれてしまった。だって、椅子からシャワー

二度と会えなくても、愛しています。

ようやく日常は、私にとっても日常として感じられるまでに戻ってきました。 それを思い知らされるのは苦しいことではありますが、愛しいと感じることは何と素晴らしいことなのだろうとも思い知らされます。 その日、私は仕事仲間とワインを飲みながら仕事談義に耽っていました。最近以前にも増して仕事が順調に進み、少しゆったりとした気持ちで取り組むことが出来るようになった頃です。その日はやや疲れていたこともあり、嗜むにはちょっと時間の早いワインは、香りを強く感じました。 18時15分。

母にもらったものと、これからの私のこと

実家を離れてからはや10年ほど。私は「自分の理念と共に仕事をする」なんてことを仕事にしていて、(まぁそれが普通だと思っている方々と一緒に過ごすことが出来ているというのも奇跡のようなことなのですが)自分と向き合う時間を持つということが非常に多いのです。 それはクリスチャンとして生きていた幼い頃からの習慣でもあるのですが、自分の感情なんて曖昧なもので、自分に対して嘘をついていたり、つこうとしていたり、そして誰かに助けを乞うような感情がとめどなく溢れ出したり、全く厄介なものです。

世界最古の本を読んだことはありますか?聖書に感じる、愛と美しいもの

「聖書で面白い章ってありますか?」 突然の質問に驚いてしまった。この時代に、私の身近に聖書に興味がある方なんていたのね。久しぶりすぎてちょっと思い出すのに時間がかかってしまい、彼は質問を変えてくれました。 「どの辺が面白いですか?」 「物語的なのが好き?」 「ヨブ記が好きです」 「私はキリストが無くなる前後が好きかな、マリアマグダレネっていう女性がいるんやけど、あの人が好きなん」 マリアは、キリストがただひとりそばにいることを許した女性でした。 彼女はもともと娼