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研究と教育の両立をめざして

山口信夫

研究者の世界では研究と教育の間にはトレードオフの関係があるといわれています。研究に集中すればするほど教育がおろそかになり、教育に力を入れれば入れるほど研究が進まなくなる。実際、学生をフィールドに連れ出せば、事前の根回し、当日の引率、事後の振り返りも含めて、かなりの時間的リソースが費やされます。がんばらない方が楽。

それは間違いない。フィールド教育の成果を『地域と連携する大学教育の挑戦』(ぺりかん社、2016年)という本にまとめたところ、同業者から「ただただ大変そうですね」と言われたことも。誉め言葉ではないだろうな...。

しかし、これまでの経験からは、研究者・実践者・学生の三者関係の中でこそ到達できる議論の地平のようなものが、やはりあるような気もしています。学生の口から僕の思いつかない質問が飛び出したり、学生たちとイベントをお手伝いする中で見えてくるものがあったり、学生たちの「やらかし」についての「苦情」をお聞きする中で実践者たちのホンネに気づかされたり。学生たちのおかげで僕自身も現場の実践者たちと厚みのある関係性を築くことができ、そうであるがゆえに聞き出すことのできた話も多々あります。

2019年に『マーケティングジャーナル』に発表した「衰退商業地における新規開業事例に関する研究」という論文は、「厚みある関係性」の中で抽出することのできた論点がなければ書き上げることができませんでした。大学の営みは現場の実践者の方々にとって何がしかのプラスになっているのか? 正直言って自信はありません。

ただし、地域において何が起こっているのかを「分厚い」記録として残すことには、それなりの意義があるのではいか、それは商業誌ではなかなか難しいことなのではないかという、ささやかな自負はあります。学会誌であれ大学の紀要であれ、学術的な記録は商業誌よりも紙幅を割きやすい分だけ分析的で、過去の実践者たちがどのような問題に直面し、それをどのように乗り越えようとしたのかを考えるうえで参考になることも多いです。50年以上前の論文が役に立ったことも...。

大学における研究と教育は、同時代を生きる住民・実践者たちだけでなく、未来の住民・実践者たちとの「対話」でもあります。研究と教育をマリアージュさせた方が、上記のような「対話」の有効性は高まるのではないか。そんなことを考える研究者生活11年目。


山口信夫

愛媛大学社会共創学部准教授。地域商業とまちづくりの研究者。2012年より愛媛大学でフィールドワークを重視する研究・教育に力を入れています。2022年よりゼミ生と一緒に『えひめこうち食べる通信』の編集にも参加。

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