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目指す未来が一緒の森ノオトと、地に根ざしたSDGsを発信したい|山川勇一郎さん(取材協力先、NPO正会員)

森ノオトにかかわる人たちの声を聞きながら、ローカルメディアのあるまちの現在地を描くインタビュー企画。13人目の登場人物は、神奈川県相模原市緑区で、太陽光発電の下でブルーベリーの観光農園を営む株式会社さがみこファームの山川勇一郎さん。環境問題やSDGsといった社会の課題をやわらかく伝える森ノオトを、正会員として支えてくださっています。10年来の盟友、森ノオト理事長の北原まどかが、山川さんから見た森ノオトに迫りました。

水や食べ物やエネルギー、当たり前に享受しているものを意識するきっかけづくり


——山川さんが森ノオトに初めて登場したのは、2014年2月の記事です。福島県で開催された「コミュニティパワー国際会議」で、お互いに登壇者として出会ったんですよね。

 当時の僕は、東日本大震災、東電福島原発事故をきっかけに、東京都多摩市にUターンして地域の仲間と一緒に多摩電力合同会社を立ち上げ、同時に地元団体の多摩循環型エネルギー協会による大学生を対象にした「次世代リーダー育成プログラム」を実施していました。自然エネルギーの普及って、どうしても固くなりがちなテーマなんですが、その時に登壇した北原さんが「エネルギーの世界を、可愛く、おいしく、楽しく発信したい」と言っていたのが、とても異色に見えて(笑)、興味を持ちました。森ノオトって、言っていることはやわらかいのに、エネルギーの講座の講師として呼んでもらうなどしてだんだん関わりが深くなっていくと、やっていることは割とガチ目で、そのギャップも面白いなと思っていました。

 ——その後、山川さんはいくつかのエネルギー会社を立ち上げられて、私もさまざまな接点を持ちながら、さがみこファームではアンバサダーとして結構ガッツリ関わることになりました。お互いに、とにかく現場を持ちながら、地元で必死に汗をかいていますよね。

 そうですね、さがみこファームはまさに耕作放棄地の開墾から始まり、農地に太陽光発電を建てるための農地転用やら、地元の農家さんへの理解促進など、本当に時間をかけて、泥臭く活動してきました。さがみこファームがある相模原市緑区は、道志川沿いにある神奈川県の水瓶で、横浜市の水源にもなっています。降った雨が森の地面に滲みこんで、川になって湖に流れて、神奈川県の人たちに届いていくのですが、これは山を維持する人がいないと成り立たないわけです。食べ物も同じで、農地をどのように耕し、農作物を育てて、出荷して、と地道に農業を営んでいる人たちの存在があって、はじめて食べ物が手に届きます。普段はこうしたことを意識しないでも生活できますが、さがみこファームでは普段当たり前に享受しているものを意識するきっかけをつくりたいと思っています。ここならば、水、緑、農業だけでなく、エネルギーがどうやって作られているか、野生動物の現状なども知ることができます。 

さがみこファームは7haのサイトで36種類のブルーベリー栽培、3種類のソーラーシェアリング設備、養蜂、ワーケーションなど、さまざまなプログラムを体験できる

——まさに、生活を支える基盤を知る「きっかけづくり」をされていますね。森ノオトも暮らしの足元から一歩を踏み出すきっかけづくりをしているメディアなので、そんなところも山川さんの活動と通じるのかもしれません。

「いつか伝わるんだ」と信じる気持ち

 

——でも、エネルギーのことをガチで語ったり、農業の現状や社会課題を真正面から伝えようとすると、ドン引きされることもしばしば……。へこむこともありません?

 僕たち情報量多いですからね(笑)。
さがみこファームで取り組んでいるのは「ソーラーシェアリング」という、屋根のように高いところで太陽光発電をして、その下で農業をするという新しいダブルインカムの仕組みです。でも、エネルギーのことを全面に押し出しても興味を持つ人は限られますし、だったら太陽光発電の下で「36種類のブルーベリーを食べ比べられる」というキャッチーな側面に関心をもってもらって、そこから少しずつ関心がひらいていくようなきっかけづくりをできればいいな、と。最初のフックは気軽に楽しめるものにして、でも興味を持った先には自然エネルギーや地域再生、耕作放棄地や水源保全など、その先にどんどん行けるようなサイトのデザインにして、その人の興味がフッと広がった瞬間に、ここで伝えられるメニューがこんなにありますよ、と、いろいろ用意しています。

 ただ、簡単に伝わるわけではないし、今の環境問題とか、社会課題に対しては、正直そんなに楽観視はしていません。日本人は現実を直視せずに、物事の本質に行きつかないまま、目先の楽な方に流れがちなのは、見ていてよくわかりますからね。だけど諦めたらそこでおしまいなので、結局やり続けるしかない。そんな時に、森ノオトのような志を共有する仲間の存在に助けられます。 

6〜8月のブルーベリーシーズンでは、時期によって異なる種類のベリーを食べ比べることができ、ブルーベリースムージーやタルトづくりなどのアクティビティもあり、何度訪れても楽しめる

——待つことって大事ですよね。いつか伝わるんだと信じて、社会に対して諦めずに、発信を続けているのは、森ノオトも同じで。

 森ノオトは一見ふわっと軽やかに見えるんだけど、記事をよく読んでいくと、身近なところから社会課題もしっかり吸い上げていて、上辺だけの情報じゃない、地に根ざしたものを感じている人たちが自然と森ノオト界隈に集まってきている感じですよね。実は森ノオトのサポーターさんが何人もさがみこファームに遊びにきてくださっているんですが、社会に対して感度の高い人たちなので、ブルーベリーはもちろん、その背景にあるエネルギーや野生動物の問題や、水源地域の地域創生にも関心を持ってくださっている。森ノオトとさがみこファームは、なんとなく合うんですよね。

 ——コミュニティが重なることで、自分たちだけではできないことも、変えていけるパワーになるような気がします。 

地元の猟師さんと連携し、野生動物の現状を伝え、皮革を活かしたものづくりワークショップも行っている

今だからこそ、SDGsを発信したい


——森ノオトは創刊して14年になるんですが、SDGsが世にうたわれる前から一貫して、ローカルに根ざしたサスティナビリティを発信してきています。だけど2015年にSDGsが出てきて以降、うわーっと周りがそれ一色になって、あのロゴを出しそびれちゃった(笑)。さがみこファームでもSDGsをあまり喧伝していないように見受けられるのですが、何か意図があるんですか?

うちがやっていることはSDGsそのもので、あえて言っていなかった部分もあったんです。だけど、世の中でSDGsがまあまあ当たり前になってきて、今こそ発信しないといけないな、と。相模原市はSDGs未来都市なので、さがみこファームは相模原市の「さがみはらSDGsパートナー」になったり、市が主催するSDGsをテーマにしたツアーの受け入れを行うなど、さまざまな取り組みをしています。これらの活動が評価され、つい先日は「さがみはらSDGsアワード2023」で相模原市長賞をいただきました。

今年の夏休みには学童保育のキャンプで薪を提供してくださいました!木質バイオマスの薪も立派な自然エネルギー!

——横浜市もSDGs未来都市ですし、森ノオトもヨコハマSDGsデザインセンターの登録団体に昨年ようやくなったところです。元々は、グローバルに進む地球温暖化などの環境問題を、暮らしの足元から行動して未来をよくしていこうという仲間を増やしたいと思って始めたローカルメディアなので、落ち着くところに落ち着いた感じですね。
ローカルメディアって、SDGsの何番と何番をやっているという感じではなくて、あのマークの「わっか」の役割を果たすと思うんです。森ノオトで取材している地域の活動の一つひとつには、例えば「気候変動対策」とか「質の高い教育」「住み続けられるまち」とか、SDGsに紐づく何らかのキーワードがあると思うんですが、それは遠い世界の話ではなくて、地域で手に届くSDGsだと思うんですよね。SDGsは遠い世界のことではなく、身近な暮らしの足元にある。森ノオトは「さわれるSDGs」だと思うんです。

 森ノオトもさがみこファームも、これまでSDGsガチ勢だったのに、あえて言ってこなかったのは、お互いに天邪鬼ですが(笑)、これからは一緒に、堂々とSDGsを発信していきましょう(笑)。
森ノオトを横から見ていると、非常に着実に足場を固めながら、活動を発展させているのが素晴らしいなと思っています。目指したい未来を共有しているから、これからもともに何かやっていけるのではないかと感じています。思いついたら言うので、ぜひ、いろいろご一緒しましょう! 

20代のころはプロの自然ガイドとして環境教育の分野で活躍してきた山川さん。ソーラーシェアリングも体験型にして、子どもたちの学びに生かしている。わが家もパネルの設置に参加した

(おわりに)
zoomで行ったインタビュー、同じ部屋にいた梶田亜由美編集長が「豪速球のキャッチボールを横で見ているようなインタビューだった」と笑っていました。お互いにゼロからイチを作るタイプで、一見軽やかに爽やかに見えても地域で泥臭く汗をかいてきたその道筋が見えるから、心から尊敬できる同志だなあ、と改めて感じました。折にふれて山川さんの「その時」の活動を取材してきたので、森ノオトに山川さんの歩みを見ることができます。これも地域のアーカイブ、歴史資料室のようなもの。さがみこファームとの関わりによって、森ノオトが青葉区だけでなく、SDGsというテーマで神奈川県を包括できるとも感じています。

( 取材:北原まどか)

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■さがみこファームHP
https://sagamicofarm.co.jp/
■森ノオト関連記事
・多摩電力合同会社紹介記事(2014年5月)https://morinooto.jp/2014/05/08/tamadenbenkyo/
・コミュニティパワー国際会議in福島(2014年2月)
山川さんの登壇記事
https://morinooto.jp/2014/02/25/comunnitypower02/
 北原の登壇記事
https://morinooto.jp/2014/03/05/comunnitypower04/
 ・さがみこファーム紹介記事(2021年6月)https://morinooto.jp/2021/06/25/sagamicofarm/

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