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自然農法か協生農法か?

協生農法は「不耕起、無農薬、無肥料」を原則としているので、自然農法とよく似ているように見えます。私も最初は自然農法の一種だと思っていました。「色んな種類の種をどっさり蒔く自然農法」くらいのイメージ。でも全然違いました。

類似点や相違点を知るために、自然農法で有名な福岡正信さんの「わら一本の革命」を読んでみました。これが自然農法に関する本で一番のベストセラーみたいです。やはり根本的な問題意識はとても近いものがあると思いました。自然の動植物が織りなす食物連鎖や資源の循環はとても良くできているのに、人間は不完全な知識で作物を効率的に大量生産しようとして失敗している、人間だって自然の中で育った作物を食べるのが一番良い、という考え方です。現代科学は細分化されすぎていて、それでは自然をわかったことにはならない、部分的な研究ではなく様々な角度から総合的に捉えなければならない、というのも協生農法の理念と重なるところです。そして具体的には「不耕起、無肥料、無農薬、無除草」という原則。しかし、福岡さんは自身の基本姿勢を「人智や科学の否定」に置いてしまっているところが残念だなと思いました。しまいには「相対性理論くそくらえ」などと言い出してアインシュタインをやり玉に上げたり。自然農法を最初に提唱したということは当時画期的だったのでしょうし、人類にとって「自然を分かったつもりにならない」という警鐘はとても素晴らしいと思うのですが。

つづいて、川口由一さんの「はじめての自然農で野菜づくり」。これはどちらかというと自然農で家庭菜園をやってみたい人向けの入門書で、とても具体的に畝立てなどの作業や、代表的な40種ほどの野菜の育て方のポイントを豊富な写真とともに解説している本で、実用書としてとても良くできていると思いました。これも協生農法ではないのですが、各野菜の育て方の注意点や時期などが分かりやすいので私のような協生農法初心者にも参考になります。

川口由一さんについては、「川口由一の自然農というしあわせ」というドキュメンタリーが制作されており、Explaygroundでやっている映画上映シリーズでオンライン上映できる映画作品のリストの中に入っていることを見つけたので、さっそくミニ上映会をやることにしました。

Explaygroundと協生農法コミュニティで呼びかけたところ、数名の人が参加してくださり、Zoomを使ってオンラインでみんなで鑑賞し、そのあと感想を話し合いました。

このドキュメンタリーは川口さんの思想がとても良くわかります。やはり自然のバランスが一番であり、これまでの農法は自然のめぐみを消費して資産を減らすことになってしまっているという根本が共通しています。その認識のもとで、「足るを知る」「自然に生かされている」「めぐみを分かち合う」といった川口さんの考え方に共感したという感想が多く聞かれました。敢えて批判的な目で見たときに気になったところとしては、「自然農でも収量は遜色ない」と仰っているものの、とても手間がかかっているように思えたことです。稲の周りの雑草をひとつひとつ鎌で刈ったり、収穫した稲を足踏み脱穀機やとうみで脱穀していたり。これはよほど好きな人が小規模にやるに留まってしまいそうです。そして、それを苦にせず取り組んでいる川口さんがあまりに利己心がなく自然に対する奉仕心にあふれているように思えました。「貴い仕事としての農民」「いのちを育むという農のこころ」という言葉もありました。その域に達するのは凡人には厳しそうですが、参加してくださった教育関係者のかたは、子どもたちにもこのドキュメンタリーを見せてみたいと仰っていました。

結局のところ、「自然が一番」という認識が正しいとしても、完全な自然環境の中での狩猟採集生活で現代の人類を養うことはできないのですから、何らかの形で自然に介入せざるをえず、それは自然農法も同じ。しかし単に人間に食べられる作物を自然の中で育てようとしても雑草などに負けてしまいますし、自然のバランスを崩してしまって害虫などに悩まされることになり、その手当を都度やっているととても手間がかかってしまいます。私のようにメインの仕事を別に持っている人が片手間にやるのは家庭菜園規模がせいぜいでしょう。

協生農法の一番のチャレンジはそこにあり、あらゆる動植物のはたらきをよく知ることが基礎になっています。それによって、最終的には普段の手間がとても少なくなりつつ年中たくさんの収穫が得られるという、「本当に?」と疑わざるを得ない(笑)ところを目指しています。それについては野人ムーさんがブログ記事「「時空の種」理論」で5ページにまとめていますのでご参考まで。今回の上映会で、上映後に困った顔をしていたITメーカーの研究所の人が、協生農法でビッグデータ解析が必要になることを聞いて俄然前のめりになっていたのが印象的でした。私も、せっかく21世紀なのだから「昔に戻ろう」や反科学ではなく新しい知見やテクノロジーがこれからの農法を作っていく、という方が素敵だと思います。福岡正信さんが発明したという「粘土団子」はやってみたいと思っていますが。

(フジムー)

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