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EDI・コラム「アカウント経済圏における”複アカ”所持がもたらす評価の問題(岡本 実哲)」

こんにちは!エコノミクスデザインです。

エコノミクスデザインは、アカデミアサイド3名、ビジネスサイド1名の計4名が2020年に「経済学をビジネスに活用すること」を目的に共同創業した会社です。

HP:https://econ.news/

エコノミクスデザインは、主に2つの事業を行なっております。

  1. エデュケーション事業

    1. ビジネスに活用できる経済学を中心とするビジネスマン向けオンラインスクール「The Night School」の運営

    2. DX・AI等にまつわる経済学分野のリカレント教育関連の企業研修等

  2. コンサルティング事業

    1. エコノミクス・アドバイザリー・サービス:課題解決に関連する学知の提供・データ作成及びそれに関連するサービス

    2. エコノミクス・デベロップメント・サービス:学知に基づく仕組み(アルゴリズム・関数・指標等)の設計・開発及び提供

この記事では、エコノミクスデザインで活躍する研究者が執筆したコラムをお届けします。



アカウント経済圏における、”複アカ”所持がもたらす評価の問題

エコノミクスデザイン エコノミスト
岡本 実哲 (明治学院大学 経済学部経済学科 准教授)

私たちはインターネット上で、アカウントを用いてさまざまな経済活動をしている。このアカウントだが、どの個人がどのアカウントを利用しているのかを識別するのが難しいことがある。1人で複数のアカウントを所持したり、1つのアカウントを複数の個人で共有したり、場合によってはとある個人が利用していたアカウントを別の個人に譲渡することができてしまうからだ。こうしたアカウントでの経済活動ではさまざまな問題が生じうる。
 例えば、商品やサービスの評価で、一個人が複数のアカウントを利用できると、本当は1人の評価なのに、あたかも多くの人から評価されているかのように偽ることができてしまう。また、信頼のあるアカウントが譲渡されれば、本当は知識や経験もない人が、知識や経験が豊富な人を装っての評価ができてしまう。

 複数アカウントを用いることで、トクすることができてしまう投票制度(評価制度)の具体的な例を1つ挙げてみよう。Quadratic Voting(QV)はGlen Weyl氏らによって、提案された新しい投票制度で、DAO (Decentralized Autonomous Organization)での投票などで用いられている。DAOとは、特定の中央管理者がいなくて、コミュニティ内の人々で分権的に運営する組織のことである。暗号資産の一部はこのDAOによって運営されており、そこでの集団的意思決定では、どのくらい暗号資産を持っているのか、そのトークンの量によって投票における権利が変わってくる。QVでは、各投票者はトークンの量に応じて投票に使うことができるクレジット が与えられる。投票者は自身の興味関心の度合いに応じて、保有クレジットを各アジェンダに割り振って投票する。そして、割り振られたクレジットの平方根を票数として計算する。
 それではQVの具体的な計算例を考えてみよう。とある投票者が109クレジット持っていて、YESかNOの決定をすべきアジェンダがX, Y, Zの3つあるとしよう。例えば、「Xはまあまあ興味があるので、9クレジット使ってYES」、「Yは興味がないので投票しない(クレジットを使わない)」、「Zはかなり興味があるので、100クレジット使ってNO」といった形である。この投票に対して、使われたクレジット数の平方根を票数とするので、XのYESに√9=3票、ZのNOに√100=10票と計算する。 
 このQVでは、投票者は興味のあるアジェンダ、利害のあるアジェンダにだけ投票すればいいことだ。また、興味や利害の大きさに応じて、クレジットを集中して投票することもできる。しかし、投じられたクレジット数の平方根を票数とするため、1人が大量のクレジットをひとつのアジェンダに投じてもそこまで大きな票とはならない。つまり、ひとつのアジェンダをひとりの投票者によって左右されすぎることはない。

 一方で、この方式にはデメリットもある。その1つが複数アカウントでの投票に対する耐性である。1つのアカウントで100クレジットをつのアジェンダに投じたときの票数は√100=10票である。ここでとある個人が2つのアカウントにトークンを分割して保有し、それぞれ50クレジットずつ得たとしよう。それぞれのアカウントで49クレジット投じたときの票数は√49=7票となるので、2つアカウントあわせて14票となる。アカウントを分割することで票数を増やすことができてしまうのだ。
 このようなアカウントの問題を解決するためにはいくつかのアプローチがある。1つ目は、複数のアカウントを利用してもトクしないようにルールの設計を工夫することである。紹介したQVは、アカウント分割耐性が弱かったが、強い耐性を持つルールもいくつかある。しかし、耐性を強く求めすぎてしまうと他のいい面を損なってしまうため、別のアプローチも同時に考えるべきである。2つ目のアプローチとしては、アカウントの活動履歴から、不正な利用が疑われるアカウントについては影響度を下げるなどの方法が考えられる。こうした方法を組み合わせることによって、アカウントの不正利用の防止についてルールだけに依存させすぎることがなくなる。
 本稿ではアカウント分割耐性に焦点をあてての議論をしてきたが、制度設計において考えるべき性質は他にもたくさんある。そして状況に応じて、制度に対してどのような性質を求めるべきなのかは異なる。とある状況でうまく機能しているからといって、他の状況に同様の制度をそのまま適用してしまうとうまく機能しなくなることもある。それぞれの問題ごとにオーダーメイドの設計が必要であり、緻密な制度設計においては専門知の活用が重要である。日本でもここ最近、経済学やデータサイエンスなどの専門知がビジネスなど社会に応用されることが増えてきたが、こうした流れがより加速することを願う。


様々な分野で活用が広がる制度設計の知見

エコノミクスデザインでは、経済学の専門知を起点とした制度設計を様々なクライアント様と共同で行っております。

公開している事例としては、マイベスト様、AppBrew様などとの事例がございます。
ご興味ある方はぜひご覧ください。

商品やサービスに対する新たな評価手法を、おすすめ情報サービス「mybest」がエコノミクスデザインの慶大教授と開発

マイベスト様プレスリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000068497.html
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国内最大級の美容クチコミプラットフォーム「LIPS」、レーティング方式設計の専門家とクチコミの商品評価点数のアルゴリズムを開発

AppBrew様プレスリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000076.000018721.html
AppBrew様コンテンツポリシー:
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今回のコラムで取り上げた複数アカウントによる不正行為などに関連して、何か知見が必要となった場合には、ぜひご相談ください。

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終わりに

エコノミクスデザインでは、様々なメンバーが自身の担当領域に関する案件に従事し、企業の課題に対して、経済学を用いたコンサルティングを行なっております。
現在、多くの研究者がエコノミクスデザインに参画し、様々な分野の研究者が案件に従事しています。

また、今では、上場企業やグローバル企業を含む、数十社以上の企業にコンサルティングを提供するまでに成長しました。

エコノミクスデザインでは今回のコラムに関連しない分野の研究者も多く在籍しています。今回のコラムに関連しない分野でも、何かビジネスでお困りの課題があったら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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