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認知機能の低下は危険運転につながる!?高齢者の安全運転のためのヒント イーデザイン損保とエーザイが共創する世界 04

事故のない世界の実現に向けて共創しているイーデザイン損保とエーザイ。今回は脳の認知機能低下と運転の関係を取り上げます。昨今ニュースでも報道される高齢者の危険運転問題ですが、脳の認知機能にどのような問題があると、危険挙動(危険な運転)が出てしまうのでしょうか。脳神経内科医として認知症等の診療に携わっている岩田淳先生に教えていただきました。

左から イーデザイン損保・西澤寿朗(CX推進部)/東京都健康長寿医療センター・岩田淳先生(脳神経内科部長)/エーザイ・木本秀信(hhceco事業戦略部)

認知機能の低下は、歳をとれば誰にでも起こる

東京都健康長寿医療センター・岩田淳先生
東京大学医学部附属病院神経内科の専門外来「メモリークリニック」にてアルツハイマー病(AD) やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たる。2020年4月より東京都健康長寿医療センターの脳神経内科部長として赴任。

イーデザイン損保・西澤さん:自動車を運転するときには、集中力や判断力、記憶力など、脳をフル活用します。脳と運転は密接な関係があると思うのですが、認知機能の低下による事故もよく聞かれます。まず認知機能とは一体何なのかを教えていただけますか。

脳神経内科医・岩田先生:人間は五感を使って脳に情報をインプットし、行動を起こします。五感を使って入ってきた情報をどう認識するのかということが認知機能です。しかし加齢や病気などで認知機能のインプットがうまく入らなくなったり、記憶ができなくなったり、いざ行動するときに正しく判断できなくなったりします。それが認知機能の低下です。

イーデザイン損保・西澤さん:この認知機能の低下はどのように起こるのでしょう。

脳神経内科医・岩田先生:認知機能の低下には、正常な老化による低下と、病的な低下のふたつの原因が考えられます。

まずは正常な老化による認知機能の低下です。誰しも「言おうと思ったことが口から出てこない」ということはありますよね。タレントの名前が出てこない、たまにしか会わない人の名前が出てこない。これは「語の想起障害」といって、歳を取ると誰しも起こりうることです。また、物事を判断する際に柔軟に考えられず、凝り固まった考えにとらわれますよね。これも正常な老化からの認知機能の低下です。
運転するときに気を付けなくてはならないのは、もうひとつの病的な低下なんです。

病的な認知機能低下が招く危険運転。スピード違反や逆走も

脳神経内科医・岩田先生:そもそも運転のやり方を記憶していないと運転はできませんが、人はこういう記憶はなかなか忘れないので、認知機能が低下しても運転自体はできるものです。これは非陳述記憶といって、言葉にはできないけれど体で覚えている記憶です。
ただ、認知症が進行し、認知機能が大きく低下をしてくると、危険な運転につながることがあります。何種類かの認知症のうち、運転と密接に関係するのはアルツハイマー型認知症と前頭側頭型認知症でしょう。

認知症の約半数を占めるアルツハイマー型認知症になると、もの忘れや、数秒前から数日前程度の記憶が怪しくなる近時記憶障害が起こります。昨日食べた夕食が何だったか忘れてしまう。これが1回なら病的とはいえませんが、何度も忘れてしまうとなると、周囲もちょっとおかしいなと気づくでしょう。酷い場合には食べたこと自体を忘れてしまう、あるいは強く記憶に残りそうな有名レストランでのディナーの内容を忘れてしまうことも。ただ、まだ初期のうちは、運転していてどこの道を通ったかわからない程度のもの忘れはあるものの、運転にはそれほど支障は出ないかもしれません。
病気が進行すると空間認識障害が症状としてあらわれます。空間認識障害は、空間の位置関係がわからなくなることです。どこが入口でどこが出口かわからない。知っているはずの街に立って周りを見回しても、それがどこなのかわからない。道路標識の矢印が認識できなくなり、自分の目で見た情報を運転のために必要な情報に変換することができなくなる。こうなってくると、道を間違えたり、逆走してしまったりという危険な運転行動につながります。
空間認知能力が低下すると、縦列駐車ができないとか、駐車の際に車の角をぶつけてしまうことも起こりえます。もちろん歳を取ると五感は悪くなりますので、車の角をぶつけたからといって一概に認知症とは言い切れませんが、病気を疑うひとつの参考にはなるでしょう。

一方、前頭側頭型認知症の場合、判断をつかさどる前頭葉に障害が出て、判断力が低下します。前頭葉は「こういう社会ルールに従いましょう」「こういうシチュエーションでこういう行動はしないでください」と命令を出している場所。その命令がなくなるため、反社会的な行動が出ることもあります。万引きなどがその一例ですが、その行為自体に悪気は全く無く、欲しいと思ったものを躊躇なく取ってしまいます。運転面では「俺はこうしたいんだ」と短絡的な行動をするようになるので、交通法規を無視する回数が増えます。標識に書かれていても「早く進みたいから」とスピード違反を犯してしまったり、一方通行を逆走したりしてしまうこともありますね。

高齢者の認知機能低下や危険運転を周囲が察知する方法

エーザイ・木本さん:地方では1人が車1台持っている地域もあります。車を使って高齢者が1人で移動することが当たり前で、都会ほど交通量も多くなく、縦列駐車の必要もないとなると、本人の認知機能低下に周囲が気づけないケースも多そうな気がしますね。周囲の人間が、高齢ドライバーの認知機能の低下に気づけるきっかけは何かあるのでしょうか。

脳神経内科医・岩田先生:難しいところです。運転していて目的地にうまく行けないことは起こりうると思いますが、ナビを使えば行けるかもしれませんし、そもそもナビを使うほどでもない近距離の運転も多いでしょう。また交通量が少ない地域なら、運転ミスがそんなに問題にはならない可能性があります。誰かが助手席に一緒に乗っていると気づきやすいんですけれどね。ブレーキのタイミングが悪かったり、カーブを曲がるときにスピードを落とさなかったりすることで、同乗者が運転者の判断遅れに気づくことはできますから。

イーデザイン損保・西澤さん:家族が同乗せずに高齢者1人で運転することが多い場合、周囲の人は、なかなか運転の際の危険挙動には気づけないかもしれませんね。&eだと、スピード超過や急ブレーキのような危険挙動は、車につけるセンサーで検知できますので、あとから安全運転だったかどうかを見返すことができます。特に前頭側頭型認知症の場合は、&eのtripレポートを見返すと危険挙動を自覚できることがあるかもしれないと感じました。この先ご家族とそのデータが共有できるようになれば、&eが運転を見守り、その運転データから周囲の方が高齢ドライバーのちょっとした違和感に気づけるようになるかもしれません。
ちなみに、認知機能の低下は自覚できるものなのでしょうか。

脳神経内科医・岩田先生:正常な老化の場合は、低下していますよと言われたら「そうなのか、もうちょっと頑張らなきゃな」と思うでしょうね。しかし病的な場合は、むしろ低下を自覚できなくなります。認知症を発症してしまうと、できないことをできるようにならないことがほとんどです。もし、本人ができないことを頑張らせようものなら「できないことをやらされた!」と怒り出してしまうこともあります。こうなってからだと遅いので、病的になる前の段階で認知機能の低下を遅らせることが大事だと思います。

エーザイ・木本さん:車を使わないと人にも会えない環境ならなおのこと、認知機能を予防することが大切ですね。私の周りでも「父の認知機能が低下してきた気がするんです」という、ご家族を心配する声を聞くことが増えました。ただ、父親にそれを伝えても、逆に喧嘩になってしまってきちんと話を聞いてくれない、と言っている人もいます。伝えるのも難しいですよね。

イーデザイン損保・西澤さん:認知機能が低下してきた人に意見しようとしても衝突してしまうというのはよく聞きます。その点、認知機能の低下を客観的に示してくれるサービスがあれば本人も気づきやすいのではないでしょうか。

エーザイ・木本さん:おっしゃる通りです。そんなときはぜひ、ゲーム的な要素で客観的に脳の健康度を確認できるチェックツール「のうKNOW🄬」を有効活用していただければと思います。ご家族の意見に耳を貸さない方でも、ゲームの点数なら冷静に受け止めていただけると思うので、認知機能を見直すきっかけにしてもらえるのではないかと思います。
脳の健康度のことをエーザイではブレインパフォーマンスと呼んでいますが、ブレインパフォーマンスの維持向上には12のポイントが大切です。例えば定期的な運動や健康的な食生活、禁煙など…。ご本人だけでなく周囲の協力もあれば、よりブレインパフォーマンスを維持向上でき、運転寿命も伸ばせるのではないかと感じました。

運転寿命延伸のために、個人が、企業が、自治体ができること


&eアプリでは、定期的に配信している「運転テーマ」から「のうKNOW」のセルフチェックを実施できます。※「のうKNOW」は医療機器ではありません。

イーデザイン損保・西澤さん:最近、認知機能が低下する年齢になったら、もう運転はせずに免許を返納すべき、という動きがありますが、これについて岩田先生はどう思われますか。

脳神経内科医・岩田先生:すごく難しい問題ですよね。僕は、危ないなら運転はやめたほうがいいと思っています。患者さんには「あなた自身がケガをするだけならいいんですよ。でも他人をケガさせるリスクがあることはやめてくださいね」と懸念を伝えています。そのときに「そうだね」って言ってくれる人もいますが、「運転できないと困る」「生活できない」って抵抗される方もいます。医者の立場では認知症と診断できれば警察に通報することも可能ではありますが、その人の生活を破壊することにもなりかねないので、一概にやめろというのも厳しいのです。自動運転が早く実用化されれば、このような心配はいらなくなるなと思っているところです。

僕自身も運転はしますし、昔に比べたらいろいろな面で判断力や反応スピードが落ちたなと思う場面はそれなりにあります。ただ、それを自覚しているので、若い頃にしていたような無茶な運転は絶対にしないようにしています。危機感を持つということはとても大事なことだと思いますよ。同時に、自分はここができなくなっているから気を付けよう、とフィードバックしていくことも大切です。イーデザイン損保さんはたくさんデータをお持ちだと思うので、こういう挙動のときにはこういう事故が起こりやすいから、運転の際にはここに気を付けましょうと言えれば、事故を起こしにくくなるのではないかと思います。

イーデザイン損保・西澤さん:運転が必要な人から免許を取り上げるのが難しい現状を踏まえると、日ごろから運転データの振り返りを通じて自分の運転に客観的に向き合ってもらうことはとても大切ですね。若いドライバーだけでなく高齢ドライバーの方が事故なく安全に運転していただけるようにする取り組みは、私たちイーデザイン損保の使命や役割だと実感しました。

エーザイ・木本さん: 運転寿命の延伸は、エーザイがイーデザイン損保とコラボレーションしている中でとても重要な部分だと思いますし、そういった世の中をいかにつくるかもエーザイの使命かなと思っています。ある自治体では、「のうKNOW」でブレインパフォーマンスの低下を早めに察知して、それ以上ブレインパフォーマンスを低下させないような生活改善を促し、より長く運転することを目的とした講習会を開いています。「歳を取ったら運転をやめさせる」ではなく「長く運転してもらうように事前に対策をする」という自治体の取り組みは、高齢化社会の中でのひとつの方向性のようにも感じています。

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&eとエーザイさんは、事故のない世界の実現を目指してタッグを組みました。エーザイさんの脳の健康度のセルフチェックツール 「のうKNOW」や脳と運転の関係をどう明らかにしていこうとしているのか…こちらの記事もぜひご覧ください。

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