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岩本薫先生に聞こう4

榎田 さて。せっかく岩本薫先生に来ていただいているので、読者さんからいただいたプロットに関する質問について、一緒に答えていただきたいな、と。まず「プロット作りのためのこだわりのグッズはありますか」というご質問。どうでしょう。ちなみに私はフセンと方眼紙なんですが。

岩本 うーん…………(悩んでいる)

榎田 ないすか(笑) あ、そういえばネタ帳もないんでしたっけ?

岩本 ネタ帳はデビューした頃はあったんだけどね……。いまはもう、紙に書くのを飛ばして、最初からテキストに起こしていっているんだよね。

榎田 いきなりパソコンで作っちゃうわけですね。私のように、最初はちまちま手で書きたいタイプと、そうではないタイプがいるということかな。

岩本 うん……ほら、突然物語が天から降ってくるっていうタイプじゃないから……。

榎田 降ってこないっすよ(笑) そんな簡単に降ってくるもんじゃないよね(笑)

岩本 そうなのよ。デビューから年数が経って、執筆冊数が増えれば増えるほど、そう簡単には思いつかなくなる。思いついても、よく考えると「あ、これもう書いた」ってことが多くなって……。だから結局、自分でテーマなり、キーワードなりを捻り出して、それにどうやって肉付けしていけばおもしろい物語になるのかを考えつつ、こつこつ地道に構築していくしかないわけです。それをノートの前でやるか、パソコンの前でやるかというだけの違いだね。

榎田 では、こだわりのグッズはとくになし?

岩本 うん(笑)

榎田 ということで(笑)、次にいきます。「キャラクターは妄想から生まれるのか、それともリアルから引っ張ってくることもあるのでしょうか」というご質問です。

岩本 リアル? 誰かモデルがいるかどうかということかな?

榎田 ……じゃないですかね? 私はいませんが。

岩本 私もいませんね(笑)

榎田 妄想力なんですよ、基本(笑) では次。えーと……これはたぶん、「一度キャラクターを作ってしまえば物語の中でそのキャラクターがもう勝手に喋り、動いてくれるのですか」という意味のご質問だと思います。

岩本 あー……。(考えている)

榎田 うーん(考えている)。ある程度キャラが作りこまれていれば、それは動いてくれるよね? 

岩本 だね。そのためのキャラ設定だからね。

榎田 もしそのキャラが動かないのだとしたら、それはなにか間違っているか、キャラクターが練れていないか……。

岩本 そうそう。自分の中でキャラの作り込みが足りないのに、時間が無いと焦って書き始めてしまうと、結局自分が苦労することになります。私、全部書き上げてから「やっぱ違う」ってことになって、頭から攻だけ書き直したことありますよ。性格変えると、行動とか台詞にも全部波及してきて、もう地獄だった(笑)

榎田 それは地獄だ(笑)。書き始めてからキャラが変化していく分にはいいんだけれども、変化するためにもベースの部分はきちんとできていなければならないんだよね、やはり。では次のご質問。「物語の始まりと終わりのイメージが決まっている場合、その途中の枝わかれの部分がどうなるのか知りたいです」。

岩本 あー、うんうん。

榎田 「話を盛り込みすぎるとダラダラしたイメージになりそうですし、少なすぎるとなんでこうなるの……となりそうで」……これは、1冊の物語に対して、適切なエピソード量というのが、書いていくうちにだんだん分かっていくと思います。

岩本 そうだね。まだ書き慣れてない頃だったら多くしておいて、あとで削ったほうがいいかもね。少ないよりは多めにしておくべき。

榎田 そうそう。もったいないけど、そのほうがいい。足りないよりは絶対いいです。あるいはプロットの段階で、思いつく限りのエピソードを書いてしまい、しばらくしてから見直して、不要だと思われるものを整理するのもいいかもしれません。

岩本 一番怖いのは本来240ページぐらい書くはずの予定が150ページで終わってしまった……みたいな場合ね。幸い、私は経験ないのですが。

榎田 ないねえ(笑)

岩本 いつもどちらかというと削っている(笑)

榎田 ふたりとも、いつもページあたりの行を増やしたりしてます(笑) なので、あんまり足りないというのがわからないんだけど……極端に短い場合は、キャラの書き込みが足りないか、エピソードがもうひとひねり必要か……なのかなあ。

岩本 エピソードを地の文で説明してしまっている、というのもあるかもね。ひとつひとつのエピソードをきちんとシーンとして起こしてない。だからすごく話が早く進む。

榎田 あー、はいはい。説明しちゃいけないんですよね。小説では「説明」ではなく「情景」を描かないといけない。

岩本 極端な例だと、「三日前、攻と受は会っていた。その時、こういう話をしてケンカになってしまった」と地の文で書いてはいけないんです。とくにBLは恋愛小説なので、ふたりが出てくるところはめんどくさがらずにきちんと描写しないと。読者さんはそこを読みたいわけだし、そのシーンでの会話や行動によって、ふたりのラブが深まったりもするので。

榎田 省いていいものと、いけないものがあるんですよね。では次。「キャラクターの性格は、こんなものを書こうとひらめいた時点で決まるのでしょうか、最初の予定と意図せず変わってしまう場合もあるのでしょうか」うーん。

岩本 これはケースバイケースかな。

榎田 まあ、あんまりキャラが変わると、話そのものが変わってしまうので、そこまでを大きくは変わらないかなあと。

岩本 私の場合は最初にキャラありきで、キャラクターがストーリーを引っ張っていくから、そう大きくはブレないかな。特に視点を受け持つ主役は。

榎田 ただキャラが発展するというか、方向的には予定通りなんだけど、こちらが思っている以上のことをしたり言ったりする場合はありますね。

岩本 ありますね。「おっ、こいつ、こんないいこと言うんだ」みたいな(笑) それはキャラが立ってるということだよね。

榎田 そうそう。成功例ですね。設定だったものが、人間になる瞬間です。かっこよく言うと(笑)では次。「キャラクターのせりふを書き出しながら、性格や、歩いてきた道のりとか考えつつ、はじまり、盛り上がり、終わりをおおざっぱに決めて……と、はじめるものの。だんだんと本文になってしまい、時間を費やすことに焦って書き出してしまい。曖昧なところが多いせいか盛り上がりを見失ったり、すごく齟齬がではじめてしまうというのか。プロットの段階でここを押さえておくと書きはじめても構成迷子になりづらい、みたいなものはありますでしょうか」。……こういう人はどんなにプロットが長くなってもいいので、1回完全に書き切ることをおすすめしますね。

岩本 そうね、プロットが50枚ぐらいになってもいいから。そうなったら、私のようにプロットをそのまま本文に使えばいいんです。無駄にはなりません。

榎田 とにかく、最後まで書く。

岩本 私も初期の頃は何度かプロットをボツにしたけど、でも途中でやめたことはなかったな。全部、最後まで書いてからボツにしたよ。最後まで書かないと、結局どこが悪かったのか、なにが駄目だったのかもよく見えてこない。

榎田 小説は忍耐ですからね……(笑)そこは鍛えておいたほうがいいです。小説筋が必要なんですよ。お次。「プロットを作る時に、頭から作ろうとして行き詰まることがよくあります。構成を考える上で、話の順序にこだわる必要はありますか?」……私は頭から作るな……

岩本 私も。

榎田 でも別にどこから作ってもいいですよね。最後にすべてがそろっていればそれでいい。

岩本 自分が一番思い浮かぶシーンから作ってもいいしね。

榎田 そうそう。順番にこだわる必要はないです。こういう時こそフセンを使ってください。思い浮かぶもの全部を付箋に書いてから、どういう順番にするかを整理していけばいいわけです。えー、次。「「どこまで細かく決めるのか」というのが、私の中では大きな悩みです。それと、ストーリーの最後までしっかりと筋道を立てた上で、書き始めるのか、最後をどうするか、はっきりしないまま書き始める事があるのか。その辺りも伺いたいです」……これは基本、好き好きなんだけど、最初のうちは、ある程度細かく決めたほうがいいんですかね。とにかく、はっきりしないまま書き始めるのはだめだと思う。

岩本 うん。さほど執筆経験がない時点では、「途中で浮かぶかも」みたいな希望的観測は持たないほうがいいね(笑)

榎田 途中で浮かぶこともあるけどね、プロなら。それはそういうスキルがある程度身にについているので、「ここはあとで考えよう」でもいい。

岩本 私、事件モノで最後のほうに起きるドンパチというか、アクションシーンみたいなものは、プロットの時点では具体的に考えてないですね。「ここにドンパチ入ります」って書くだけで、その場になってから考える。アクションは流れもあるので。

榎田 エッチシーンとかもね(笑)

岩本 そうそう。「ここにエロ」って記しておくだけ。

榎田 どういうふうに書くかはその場で決めてもいいんだけれど、なにが起きるかは決まっていなくちゃいけないですからね。純文学の私小説的なものならば別だろうけど、エンタメ作品なので。

岩本 ……あれかな。結構みんな、プロットを最後まで書ききれないのかな。

榎田 なんかそんな感じがあるなあ。プロットは最後まで書こうね。本文はもっと長いんだからね?(笑)

岩本 プロット長くなって、セリフをいっぱい書いても、ちゃんと本文に再利用できるから大丈夫。いまは原稿用紙に手書きの時代ではないので。

榎田 プロットなくても小説書ける人いるけど……。プロット書いたところで、どうせそのプロットとは違うものができてしまうから、書くだけ無駄……みたいな作家さんも稀にいるけど、ほんと稀ですから(笑)。設計図作ってから、家建てましょう。

岩本 そうそう(笑)骨組みしっかりしてないと、グラグラしますよ。結局、建て直すはめになって、二倍の時間がかかったりします。最悪、途中でどうにもならなくなって放り出し、そのまま書かなくなるというパターンもあり得る。

榎田 そろそろ時間ですね。今回は岩本先生にいろいろお伺いしました。ありがとうございました。最後に、なにかお知らせや宣伝がありましたらどうぞ!

岩本 今回の対談でプロットをお見せしたロッセリーニ家の息子シリーズ(イラスト:蓮川愛様)ですが、角川書店ルビー文庫から全5巻(上下巻含む)出ておりますので、もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたらよろしくお願いします。それから最新刊「艶情 王者の呼び声」「艶情 つがいの宿命」(イラスト:北上れん様)リブレ出版BBNより発売中です。こちらもどうかよろしくです! それでは長々とお邪魔しました。

 岩本先生、本当にありがとうございました。いろいろおうかがいできて、とても楽しかった~! そしてテープ起こししてて、私と岩本さんの声が似てて、たまに「ん? どっちが喋ってるの?」ってなりました(笑)

 さてみなさま、プロットの作り方、なんとなくわかっていただけましたでしょうか。繰り返しになりますが、これが正解、というものではないので自分のやりやすい方法を探ってみてください。そして、みなさまのすてきな物語の世界を創り上げてくださいませ!


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