妖琦庵

中村明日美子先生に聞こう 前編


小説やマンガなどの創作について、ゲストをお招きしての対談企画。
前回の岩本薫先生の続いて、中村明日美子先生の登場です! 

中村明日美子(なかむら・あすみこ)先生

2000年、マンガF(太田出版)にて「コーヒー砂糖いり恋する窓辺」でデビュー。以降、官能的なストーリーから青春もの、ボーイズラブまで多彩な作品を送り出している。代表作に「Jの総て」「同級生」「卒業生」「ウツボラ」「鉄道少女漫画」など。

ちなみに私の作品の装画も手がけていただいており、角川ホラー文庫の妖琦庵シリーズ、リブレ出版のBL作品『erotica』、さらにマンガと小説のコラボ作『先生のおとりよせ』もあります。


erotica
※BL作品につき、ご注意を。うっかり読んで嵌まるのもいいと思います。





◆プロットについて◆

榎田 ということで、今回は明日美子さんにお話をうかがいます。ども。

中村 どもども。

榎田 マンガ家さんなので、物語の創りかたは、小説とはまた違うかな、と。

中村 そうですね-。

榎田 でも共通事項もきっとあるじゃない? 私は漫画原作もやるのでそのへんも勉強させていただこうかと……。

中村 もうネームきれるじゃないですか、小説家なのに(笑)

榎田 いや……うん、作りましたねネーム。初めてにしては、まあまあの出来だったような気もする(笑)※以前、あるマンガの原作担当したときにネームで出したことがある。

中村 あれで問題ないよ(笑)

榎田 ありがとう(笑) えーと。プロットは小説家でも漫画家でもあると思うんだけど、漫画家さんのプロットってかなり千差万別というか。

中村 だね。人に見せないしね、プロット。

榎田 え、編集さんに見せないの?

中村 私はね。でもちゃんと書く人は見せるみたい。

榎田 っていうか、見せなくていいものなの?

中村 ん~。以前、「ネームになってからボツになるのもアレだし、プロットあるなら送って」って言われて送ったら「これ、わかんない」って(笑)

榎田 あはははははは(笑)解読不能

中村 そう。わかんないって(笑)

榎田 チラッと見たことあるけど……字がね……(笑)

中村 字がねえ……。

榎田 かわいい字なんだけど、ちょい読みにくいタイプなんだよね。脱力系というか。

中村 なにしろ自分の字がアレなせいで、雑誌掲載時は誤植も多く……(笑)「ちょ」って書いたのに「な」になってたことある……。でも書く人はちゃんと書きますよ、プロット。見たことあるもの。新人セミナーのとき。

榎田 新人さんのプロットを見たの?

中村 いや、自分が新人の時にベテランさんのプロットを見せてもらったの。

榎田 なるほど。……そんな新人セミナーに行ったにもかかわらず(笑)

中村 うん。こんな綺麗な字書けないと思った(笑) あと、もうデビューはしてたから「なんでここにいるの」って言われた(笑)

榎田 つまりセミナーには出たけど、プロットは作っていない、と(笑)

中村 でも、プロットを出してないっていう人結構いるんじゃないかな。文章書くの苦手な人多いと思うし。

榎田 まあ、見せる見せないは別として一応プロット的なものはあるんだよね?

中村 ありますね。ト書きみたいな。セリフだけ書いてあったり。

榎田 あー、セリフね。そうだね、マンガで字になっているのはほぼセリフだけだもんね。でもそのセリフをどういう状況でどういう心情で言ってるかという詳細は、プロットでは書かない?

中村 書かないね~

榎田 多分、ちゃんと自分の中でわかってるから書く必要ないのかもしれないね。いずれにせよネームの時には書くことになるんだろうし。

中村 「話が最後までできていた方が安心」というタイプの人は、ちゃんとプロット作って提出しているようです。

榎田 ふむ。そうそうも、漫画だと最初は雑誌で連載なわけだけど、最初からストーリーは全部決まってるの?

中村 ものによるねえ……

榎田 全然決まってない時もある?

中村 あるねえ……こんな感じで始まっちゃいました、みたいな……(笑) 自分で「この話どうなるんだろう」と思いながら描くという……。まあ、めったにないけど。

榎田 あー(笑) 小説でもそういうことがないわけではないですね。一応、終わり方は決めてあるけど、途中経過は結構変わる時がある。場合によっては結末も微妙に変わる。

中村 そういう綱渡り感に、だんだん慣れちゃうんだよね。結果、「こんなのできました」テヘペロ的な。

榎田 できあがった作品が面白ければ、問題ないわけですからね。

中村 プロというのは、ある程度そういうものだと自分を納得させることにした……。

榎田 つまり、最初は抵抗あった?

中村 やっぱり不安だったからね。自分の作った物語がどう着地するのかわからないっていうのは……。

榎田 なるほど。たぶん、明日美子さんてキチンと仕事したいタイプなんだよね。仕事のやり方は決してエキセントリックではなくて、プロ意識が高くて、編集さんが安心して一緒に仕事ができるタイプ。

中村 突然行方不明になったりしないしね。原稿もやらずに徹マンしてるとかもないし。

榎田 さすがにそんなマンガ家、昨今はあんまりいないでしょ(笑) そもそも麻雀しないじゃん(笑) 電話に出なくなったりするなんていうのは、よく聞きますね。でも明日美子さんはそういうこともない。

中村 ないねー。鳴ったら出ちゃうよ。

榎田 ですね。…………ちょっとお茶にお湯さしてくるわ。

中村 うん。……ステテコはいてるの?

榎田 ステテコちゃうわ! お気に入りのオーガニックコットンのリラックスウェアなのに!

中村 (小声で)ステテコ……


◆ネームと作画◆

榎田 (お茶補充完了)さて、漫画家さんの場合、プロットからネームにするという作業があるわけですけれども。雑誌の場合、だいたい32ページ?

中村 うん。基本ね。

榎田 32ページのネーム、どれくらいできる?

中村 1日できります。

榎田 今、戦慄した同業者さんが結構いる気がする(笑)

中村 だんだん速くなったんだよね。昔は一日10ページとか8ページだったんだけど、それじゃもう間に合わないっていう感じになってきて……。

榎田 そうだとしても、普通、一日で32ページは難しいのでは。

中村 んー、プロットでちゃんとイメージができていればネームに起こすのはそんなに難しくない。

榎田 つまりプロットの段階で、頭の中である程度ネームが切れている?

中村 そう。プロットがちゃんとできていないと、ネームもやっぱりだめなので、誰にも見せない、誰も読めないプロットだとしてもやっぱり大事……。

榎田 自分の中で設計図として大事っていうことだね。……しかし早いな。自分よりネーム切るの早い人に会ったことある?

中村 ……あんまり友達いないから……。

榎田 そうだった。ごめん。すまん(笑) 何人か知り合いの漫画家さんいるけど、多分ダントツで早いんじゃないかなあ。

中村 描きたいものがはっきりしていると、切りやすいかな。

榎田 明日美子さんの作品読んでると、リズムというか、緩急がすごくいいなって思うんですよ。緩急が分かってるとネーム切りやすいのかな……。

中村 ここは見開きで見せる、とか、そういうのはもちろん考えるけどね。

榎田 漫画独特の構成ですね。コマの構成が織りなすテンポやリズムが、やっぱりマンガは大事なんだなあと。まあ小説も構成は大切なんだけど。

中村 アレよくできるよね。ページめくりで文章が跨がないってやつ……。

榎田 あれは構成というか、体裁の問題ですね。そもそもは、ゲラやるときに自分がラクだから始めたんだけど、だんだん習慣になってしまった。……でもたまに、「ぶらさがり」って言って、出版社によって「、」や「。」の文末の処理が違ったりするのね。そのせいで、行が微妙にずれるとつらい(笑)

中村 (笑)

榎田 最近はそこも計算して書くようにしている。

中村 職人か!(笑)

榎田 で、1日でネーム切って、作画はどれくらい?

中村 カラーなしで32だと9日だね~。

榎田 扉がカラーだった場合は?

中村 水張りするので2日はかかります。

榎田 水張り、わかんない人がいると思うので説明してくださーい。

中村 えーとですね。紙に耐水性のインクで線画を描きますね。それを木製のパネルに貼り付けるんですね。紙を濡らして端っこをテープで止めて。そうするとピンと張るので、水を使っても が紙が歪まなくなるのです。

榎田 ふむふむ。あと、今、手書きでやっている部分とデータでやってる部分はどうなってるんだっけ?

中村 カラーの仕上げかデータであとは全部手書きです。

榎田 モノクロの部分も。

中村 うん。

榎田 トーンも。

中村 うん……トーン貼ってる……(笑)

榎田 ねー。アシもいないのに。全部ひとりで(笑)

中村 やってる……(笑)

榎田 液タブ買った?

中村 もらったんだよね。もうずいぶん前にもらったんだけど、まだ開けてない

榎田 え。まだマウスで作業してるの?

中村 うん。マウス

(ふたりで爆笑)

中村 いや、でも、アナログでほとんど書いてあるからあんまりやることないの。

榎田 一生懸命、(画像データの)ゴミ消してることあるよね。

中村 そうそう。きれいにして、あとはコントラストの調整したりしか。

榎田 いまだにマウスで作業してるの、あなたしか知らないよ私。

中村 ものが増えるのいやなんだよう。

榎田 ほんとびっくりだよ(笑)



◆なにをインプットするか◆

榎田 そんなふうに作業を進めている中村明日美子先生なわけですが、インプットはどんなことしてますか。作品を作るというアウトプットだけをしていると、なかなかきつくなってくると思うんだけど、インプットの方はどんな方法で?

中村 (考えている)……最近本もあんまり読んでないし……。

榎田 この人、仕事以外のことあんまりしないんだよ、実は(笑)

中村 BS 見られるようになってから海外ドラマいっぱい見てるよ。『Law & Order』とか……面白すぎて作業止まっちゃうんだけど。

榎田 漫画の人は作業しながらある程度の見聞きができるのがいいなあ。小説は音が文章を作るのに、ちょっと邪魔になっちゃう。…………テレビだけかよ。もうちょっとなんかこう、カッコイイ感じのこと言おうよ(笑)

中村 えーあーうー……。

榎田 舞台とか。

中村 最近あんまり観てないけど、舞台は基本好きですね。……うーん、私はお話を考える時、描きたいシーンから広げていくタイプだから、そのイメージがくれば、そんなにいろんな種は必要ないみたい。

榎田 こういう絵が描きたいという?

中村 そう。あとは、こういうやりとり書きたいとか。

榎田 クライマックスシーンのイメージから、物語ができていくという?

中村 別にクライマックスじゃなくてもいいんだけどね。オープニングでも。

榎田 そっか。まあ……インプットいくらしてても、だめなときはだめだからなあ(笑)マンガと小説でも必要な情報って違ってくるしね。

中村 うん。

榎田 例えば『かっこいい刑事』を出す場合、マンガだとこう、三段ブチ抜きでドドンと仕事できそうな美形を絵で説明するわけですけど、小説だとそのキャラがどうかっこいいのか、エピソードで説明する必要があって、そうすると彼がどこのなんという署に配属されてて、階級はこうで、今までこんな実績があって……という詳細な情報も必要になってくるわけです。

中村 うんうん。

榎田 逆に漫画だと、小説なら「交番の巡査が立っている」ですむところが……。

中村 描かなきゃいけないわけです、おまわりさんの制服を。なんかあの人たち、いっぱいいろいろつけてるんだよね。昔の電話のコードみたいなのぶら下がってたり……。

榎田 あれは無線かな。

中村 たぶん。よくわからないそういうのを描かなくちゃならない……私、資料写真撮るの下手で、そこもいつも苦労する……。

榎田 SL 取りに行ってるじゃない。※『鉄道少女漫画』の資料

中村 うん……。あれもね、帰ってから見ると足りない写真がいっぱいあって……。

榎田 どういう絵を書くか、決めてから取材に行くんじゃないの?

中村 ネームができてからでかけてるわけじゃないから……。本当は2回行ければいいんだけどね。現地に行ってこういうところがあるんだとか、ここでお弁当買うんだとか、そういうことがわかってからネームを切って、あらためてもう1回撮りに行くのが一番いいんだけど……そんな時間あるわけないんだよね。

榎田 ないねー(笑) そういう資料はほんとに大変だよね、マンガは……。

中村 プリントアウトしたあとは紙が大量に出るし……裏紙をメモにしたりもするんだけど……。

榎田 エコ意識高い会社みたいだな(笑) ということで、あんまりインプットは意識してやってない、と。

中村 うん(笑) 知らずに自分のものになっているっていうのが一番いいのかも。なにかとても好きなものができて、それに夢中になって、知らない間にその知識が身について、血肉になるというか。

榎田 そうね。自分が興味のあることしか書けないしね、基本的に。

中村 だから、自分が好きになれるものにめぐり合えるのが一番いいかなと。

榎田 うん。ネタを探してるわけじゃなく、自分が好きになれるものを探してるんだよね。そしてそれが時に作品に反映されることがある。

中村 うん。

榎田 ……まあ、反映されない場合も多いけど。

中村 サッカー好きなのにね。

榎田 サッカー……あれは小説にはしにくいねえ。試合の状況とか、文章で説明されても読む方は疲れるんじゃないだろうか……。マンガ家だったら頑張ってたかもしれない。いや、どうかな……。

中村 1チーム11人もいるんだよ。試合やってたら22人もいるんだよ。監督もいて控え選手いて……すんごい大所帯。

榎田 そうなんだよ。それ全員、明確に区別ではなきゃいけないわけで……いつも思うけど、スポーツ漫画って、キャラの描き分けがほんとに大変そう。あらためてジャイキリのすごさを感じるなあ……。

中村 そういえばこの間テレビで久しぶりにアニメの『○○○』観たんだけど、(このあと、ちょっとここでは書けない話題になっていく)、……で、びっくりした!

榎田 あれはね、そういう作品なんですよ。……ここ、テープ起こしできないな!(笑)



…………という感じで、前半はここまでです。
後半も頑張ってテープ起こししますので、しばしお待ちを~。

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