プロット道具セピア

では物語ってみよう(4.プロット実践編その2)

 というわけで続きです。
 今回の説明で使いますのは、角川文庫より発売中の『カブキブ!』という小説の二巻のプロットになります。榎田ユウリ名義なのでBLではありません。まだ読んでない方にとっては当然ネタバレになりますので、早く買って読みましょう(笑) いやいや冗談です。いやいや半分本気です。
 高校生たちが部活で歌舞伎に挑戦するという物語で、歌舞伎にまったく馴染みのない方にも読んでいただけます。というか、そういう方に向けて書いているつもりです。作者としてはまず『カブキブ!』を読んでいただけるのが一番嬉しいですが、この記事を読んでから、こんなプロットから生まれた小説がどういう仕上がりなのかを検証で読んでいただくというのもいいですね。って、結局は読め読めって言ってるだけです。だってしょうがない。読んでもらいたくて書いてるから。

 本題。
 前回、私のプロットには2種類あるというお話をしました。自分用のプロット提出用のプロット。実は厳密にいますと自分用のプロットも最近は、参考資料として添付する場合があります。自分用プロットには人物相関図なんかも書いてあるので一緒にあったほうがわかりやすい場合も多いからです。そういうケースが多くなってくるとあまり殴り書きはできなくなってきます……。がとりあえず今回は、担当さんには見せないあくまで自分用のプロットということで話を進めていきたいと思います。
 じゃあもういきなり貼っちゃうよ。ぺたり。



「榎田さん、『懊悩』って書けないんだな。ふっ」って笑ったそこのあなた。そうだとも、書けないとも! ……威張ってる場合じゃない。でもいいんですってば、これ本来人に見せないものなんだから。
 
  えー、何しろ A3用紙なので全部が見えるように載せるとドでかい画像になるので部分です。シンプルに言うとこういうことになってます。

●黄色いフセン……エピソード
●青いフセン……本編にはまだ出てこないが、エピソードに関係してくる重要な設定、またはキャラの心理など。


 だいたいこういう法則です。
 ちなみにエピソードには「小説・劇などで本筋の間にはさむ、本筋とは直接関係のない、短くて興味ある話。挿話」という意味があるのですが、ここでは単に「出来事」と考えてください。エピソードの黄色いフセンには番号がふってあります。エピソードの順番、つまり物語の流れる順序です。プロット作りの要は、このエピソードの内容と順番を決めることになります。


「そのエピソードを考えるのが大変なんじゃないのよさ!」とピノコ的に思った皆様、そうですよね。一番大変だけれども、一番楽しい部分でもあります。ここがあんまり楽しくないという人は、はっきり言えば、小説を書くのに向いてないと思います。だけど「苦しいけど、楽しい」な人は大丈夫です。「なかなかうまくいかなくて、しんどい時もあるけれども、結果的に楽しい」「なかなかうまくいかなくて、いつもしんどいけれども、時々にとても楽しい。その時々のためなら、しんどさを我慢できる」こういうタイプなら大丈夫。要するにM属性なら大丈夫。たぶん。

 エピソードの最初と最後だけ決まっているという場合もありますよね。お話がこんなふうに始まってこんなふうに終わっている。その間が埋まらない。そういう場合はとりあえずフセンに始まりと終わりを書いてください。そしてその付箋をちょっと間を空けて、縦並びに、ペタペタと貼っちゃってください。紙の中心より、左サイドに貼っていきます。 

 さてその間を埋めていきましょう。よく起承転結といいますが、あれは確か漢詩かなにかの成り立ちだったような気がします。小説にはシンプルすぎてちょっと足りません。私の感覚だとエンタメ小説の場合、

なにか「エッ」ということが起きて、
それが「エエッ」という感じに展開し、
さらに「ホーゥ」という感じに展開し、
いよいよ手に汗に握る展開をし、
クライマックスでドワッと展開し、
最後に「そう来たかっ」というところに決着する。
あるいは「そうなってほしかったよ!」とみなが願う場所に着地する。

 こんな感じだと思います。要するに、展開し続けているわけです。
 ですから、黄色フセンには展開していくエピソードを書いてください。読んでる人が続きを読みたくなるような展開です。そこで皆さんの妄想力を爆発させるのです。暴発してとんでもないところに行きそうになってしまっても、それはそれでいいじゃないですか。まだプロットなんですから。フセンプロットのいいところは、順番も自由に変えられるし、違うエピソードがいいなと思ったら、どんどん貼り替えていけるところです。ミステリー仕立ての話などを書いているときは、時系列をいじることがあります。読者さんのミスリードを誘うために、わざと時間を前後させるわけです。そんな時にもこのフセンプロットは役に立ちます。

 エピソードを考えるのが苦手という人がいらしたら、インプット量を増やすとよろしいかと。要するに、小説や映画や漫画を沢山見るということですね。できればジャンルを問わず見ると、視野が広がり、雑学も増えて、エピソードが浮かびやすくなるのではないかと思います。
 ……などと書きつつ、自分の興味のないものには、あまり深入りできないという気持ちもよくわかります。私もそうなので。そういう場合は自分の好きなジャンルの深みに嵌まっていきましょう。図書館に行って片っ端からそのジャンルの本を手に取ってみましょう。どんなジャンルであれ、深く突き詰めていくうちに、思いがけないジャンルの知識まで増えてしまう……というのはよくある現象です。審神者として刀を集めるゲームに嵌まっているうちに、骨董美術に詳しくなったり、戦国時代に詳しくなったりしちゃうのと同じです。好きこそものの上手なれ。そうやって、自分の手札を増やしていきましょう。

 さて、エピソードというのはあくまで出来事なので、そこにばかり気を取られていると、キャラの心理に踏み込むことを忘れがちです。キャラクター小説の肝は、『起きた出来事によって、そのキャラがどう変化していくか』ではないだろうかと私は考えています。なので、キャラのことは決して置き去りにしてはなりません。キャラの心理、あるいは物語に関わる重要な設定などは、青いフセンに書いて、右サイドに貼っていきましょう。それを受けて、次のエピソードを考えることも必要になってきます。

 図にまとめます。

 もっかい字でも書いておきます。

●黄色いフセン
   エピソード=物語の流れ。話の骨組み。
●青いフセン
   エピソード以外の重要なこと=本編にはまだ出てこないが、
   エピソードに関係してくる重要な設定、またはキャラの心理など。

 大切なのは黄色いフセンと青いフセンは、常に相互作用しているということです。エピソードを考えるためには、キャラクターをよく知る必要があり、キャラクターを魅力的に動かすためには、そのためのエピソードが必要になる。また、エピソードを作るためには設定が必要であり、その設定をわかりやすく、かつ面白く説明するための、エピソードが必要になる。黄色いフセンと青いフセンの両翼を使って、物語は飛行します。まだこの時点では飛行機は整備中ですが、整備のあいだに両翼のバランスを整えましょう。
 また図の中にもありますが、結末を数種類思いついてしまった場合は、とりあえず全部書いておきます。どれが一番ふさわしいのかは、プロットが煮詰まってきたら見えてくるはずです。

 フセンを貼り終わったら、すでに構成が見えてきていると思います。エピソードの展開を確認してください。エピソードが足らない、あるいは多すぎる場合は調整します。一番盛り上がるはずの場面で、エピソードが物足らない気がする……そんなこともよくあります。すぐにいいエピソードが思いつかないときは、余白に赤いペンで「ここ足らない!」などと書き込んでおきます。時間をおいたり、猫を撫でたりすると、いい考えが出てくるかもしれません。余白はむしろ汚していくような気持ちで、どんどん使いましょう。余白に何気なく書いたことが後から大きく膨らむ場合もあります。そうしたらフセンに書いて、昇格させればよいのです。

できれば一冊分のプロットは一枚にまとめたいので(ひと目で全体像を掴むため)、私はA3の方眼紙を使っています。方眼用紙はフセンをまっすぐ貼るとき便利だから。そして文字も書きやすいからです。この辺は好みなので紙は何でもいいと思います。ついでに言うと、ペンは書いても消せるフリクションを使いますが、この段階ではいちいち消したりもしません。間違えたら上から線を引けばいいです。

 愛用の文具たち。
 フリクションは3色タイプ。替え芯を常に持っていないと不安(笑)


 自分用プロットの作り方、なんとなく分かっていただけたでしょうか。
 何度も言いますがこれは私のやり方に過ぎないので、参考にしていただき、アレンジを加えていただければと思います。また、ここまでの段階を読んでいただければ、少し前にいただいたプロットに関する質問の回答になってる部分もあると思います。よろしくご参照ください。答えきれてない分もあるので、プロット編の一番最後にまとめてお答えしようかな。追加質問をあればお気軽にコメント欄にどうぞ。

 次回はこの自分用プロットから、編集さんに提出するためのプロットを作っていく行程に入ります。こちらが続きです


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