ライトで照らしに。3

「心の底から、僕は願ってるんだ。だから僕は、行くんだよ。」
彼は笑顔でそう言っていた。
でも僕はあの時、彼の真意が分からなかった。
もし、今、彼の心が見つかったなら、
彼の心の底はどこまで続いているんだろう。
深くて何も見えないとしたら、僕はどうすべきだろう。
僕は知りたい。
なぜ、彼は行ったのか。
たった一人の君のために、なぜ必死になれたのか。
僕は知らない。だから、知りたい。
僕が彼を探し当てるまで、どうか、君も待っていて。
きっと彼がどれだけ素敵かを僕は知らせに行くだろうから。
では、その時まで、さようなら。
また逢いましょう。

満天の星空の下、スーツを着た男は列車に乗り込む。
乗客は彼一人だけ。行き先は書いてない。
列車は彼を待っていたかのように、動き出す。
男は茶色の革製の四角いバックから文庫本サイズのノートを取り出し、席に座る。
ノートには日付と場所が書いてあるのだが、日付は全て過去のものだ。
ただ、彼は過去へは行かない。
行くのは未来という時間。きっとそこに男が探す彼はいる。
男はまた、バックからまた一つ何か取り出す。
緑色のチクチクした棒のようなもの。調べた結果、キュウリと言うものらしいのだが、空飛ぶ鳥が落としていったのかもしれないと男は推測している。天からの恵みにしては、視界に回転しながら横入りしてきたが、まぁ、何かの縁で手元まできたので大切にしているようだ。
前進していく列車の窓から、無数の家の明かりが見える。
一つの家の明かりが消えた時、男は思う。
また明日、この家に明かりが灯りますように、と。
それは、彼女の願いでもある。
男は彼を探しに行く。
彼を明るく照らすライトを持って、彼の心を照らしに行く。
彼が歩きやすいように足元も照らすことも忘れない。
そうすれば、彼は一人でない事を分かってくれるだろう。
男は行く、また彼と彼が慕う彼女に会うために。
だがしかし、男はまだ気づいていないのだ。
未来に時計を置き忘れたことを。
それが、このあと3人の運命を握っていることも、まだ、知らない。


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