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この靴のバフ効果 「どこまでもいけるくつ」

靴が好きだ。靴というオブジェクトがもう好きだ。ファッションに関するカテゴリーの中で、明らかに靴に対してだけ好きがすぎる。服や小物、他のどの装備より、アイテム感があるからだろうか。とにかく形が良い。

学生の頃はヒールの高さも厭わず、しかもシルバーだったりゴールドだったり赤いエナメルにスパンコールだったり、ツイード素材にでっかいリボンがついていたりと派手なものばかり好んで履いていた。服が質素でも靴がド派手だと、堂々としていていいような気がしたのだ。ビカビカの靴は臆病者のハッタリ。身を守る鎧のようでいて、RPGのパラメータに換算するとしたら確実に攻撃力だった。いちばんのお気に入りは角度によって貝殻の裏みたいに虹色に光る、甲の浅い白いパンプス。つよい。

社会人になり色々関節を痛めてからはパンプス型のスニーカーを愛用していたが、いつの間にか好きだったかっこいい靴が全然履けなくなってしまっていた。頑張って履いても靴擦れで踵が血だらけになってしまってまともに歩けない。滅茶苦茶に悲しかった。やがてスニーカーでさえも、長い時間歩くと脛のあたりが痛くなるようになった。当時アラサー。ちょっと早くないか、足腰の老化。

その頃には、お店でこれならいけると思って買った靴でも1回か2回で痛くて履けないという状態になってしまい、経済的にも確実によろしくなかったので思い切って専門家に頼ることにした。オーダーメイドの靴屋さんだ。とはいえフルオーダーじゃなく、スーツで言えばパターンオーダー。お値段は張るが、履けない靴を2〜3足買って無駄にしたくらいの価格で自分にフィットする靴が手に入ると考えたら、全然アリだ。

そこでシューフィッターさんに言われたこと(意訳)。

足が小さいのはまあよくいるレベル。ただ幅狭いのに親指の付け根は高さがある。脚全体の筋肉はあるのに足の裏の筋肉が使えてないから土踏まずの横アーチが死んでる。横アーチが死ぬと着地したときの足幅は広いが浮かせたときに細くなり、脱げやすくなる。踵も小さいのでより脱げる。脱げないような歩き方が癖になってしまったから足首にくびれができない。足指が動いてない。足が内側に倒れる歩き方をしている。それでO脚。ふくらはぎが横に張ってる。しかもゆるゆるのパンプス型スニーカーを履き続けたせいでさらに足が弱くなっている。

悪口?

いや、どれもそのとおりだった。(実際はこんな言い方してません)

それから正しい歩き方ができるカスタムメイドスニーカーをつくり、特別なテーピングで筋肉を補助しながらそのスニーカーで毎日歩いた。最初はこれ壊死するんじゃないかというくらいに靴の締めつけが苦しかったが、馴染んでくると包み込まれる感覚が心地良い。足に勝手に靴がついてくるようで、ただ歩いているだけで気分がよかった。履いて歩けばトレーニングになるというシステムも、筋肉養成ギプスだと思うとジワジワおもしろかった。

3ヶ月で横アーチが育ち足幅がさらにワンサイズ小さくなった。足首にくびれが現れたので測ってみたら1センチ細くなっていた。ふくらはぎの横の張りもなくなりO脚がわからないくらいになった。晴れてパンプスに耐えられる脚になったということだ。足幅はBからA。店売りの靴の標準が幅Eなので、まあこれでは合わないわけだ。

でもヒールが履ける足になったら、もうヒールの靴を履くことなんてどうでもよくなっていた。歩けるということ自体がメンタルにあまりにもプラスだったからだ。車にも自転車にも乗れない(運動神経的な意味で)私にとって、歩くのが億劫になったら外の世界は遠ざかる。だからせっかく育った足をまた弱らせたくない。
足の力を維持するには、やはりパンプスよりは足全体を覆うスニーカーや、せいぜいローファーくらいの面積があるほうがいいらしい。今はもっぱらスニーカー派になった私の靴が持つパラメータは、あの頃のような尖った攻撃力ではなくて、バイタリティであり、すばやさだ。

私はどこにでもいける! この靴があれば。

そういう靴を履いて歩いていきたい。
そしてやっぱり、オーダーする靴の素材はクロコの型押しだったりラメ入りファブリックだったりして(スニーカーであっても)、結局ベーシックなものはひとつも持っていなかったりする。いいぞ。

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