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第13回:古代vs魔女、「設計図」が導くその戦いの行方

「宇宙戦艦ヤマト2199」第14話で、古代進と森雪は、100式空間偵察機のなかで、うれしはずかしい会話を繰り広げます。その通話内容は第一艦橋にダダもれに。男子生徒と委員長のような、あるいはトレンディドラマの主人公とヒロインのような言葉の応酬が、クルーたちを和ませます。徳川はほのぼのとした顔を、南部はサツバツとした顔をしています。誰ひとり予期していなかった種類の攻撃を受ける直前の、ささやかな日常の風景でした。 

この場面は「絵コンテ」でも、とても楽しい絵が描かれています。古代と森雪のやりとりを聞かされる相原の後頭部には、髪の上だというのに、おおきな汗が流れています。それから、メガネのブリッジに指を当てる新見の横の空間には「キラリン☆」という書き文字が浮かんでいたりします。この話の「絵コンテ」の担当は出渕裕総監督。絵にも文字にも、演出家であると同時に漫画家でもある総監督が、ノリに乗って描いているにおいがあります。 

「絵コンテ」は、映像のなかで、絵とセリフをどういうふうに配置してゆくかを決める、映像の設計図です。それぞれ大小4つ、または5つの枠で区切られた段落が、5段ある用紙に描くのが、現在の主流です。そのカットの番号、どういう画面であるかを説明する絵、どこで、誰が、何を行なわれているのかを説明した文、セリフ、それから、そのカットが終わるまでに何秒かかるのかという数字が、枠のなかには記されています。それぞれの段落ごとで1つのカットを説明するのが基本ですが、縦や横にカメラが動くカットでは、枠や段落をぶち抜いた絵が描かれることもあります。 

この話の「絵コンテ」では、コントロールを失ったヤマトが、画面の中心でぐるぐる回っているカットが、7段にわたって説明されています。回転して、少しずつ角度を変えるヤマトの絵が7つ。その横の枠では、どのレンズを使えばこの絵の雰囲気になるのかということや、この状況下で重力はどう発生しているのかなどが、こまかく検証されています。 

このヤマトのように、映像表現を、描きながら思考しているようなカットもあれば、単体の絵や読み物としても楽しいカットも、出渕裕総監督の描く「絵コンテ」にはあります。ちなみに森雪が古代に100式の操縦を交代しようと持ちかける場面には、「バックミラーに映る雪(愛想笑い)」なんて、なんともアジのある説明文が書かれていたりもします。 

第14話「魔女はささやく」の後半では、前半とおなじアニメとは思えないような構図の絵が、数多く映し出されます。「絵コンテ」でも、エレベーターホールの真ん中に公衆電話が置かれている絵は、ひょっとして紙の縦と横を間違えてしまったんじゃないかというぐらいに傾いています。それ以外にも、完成映像以上に平衡感覚のおかしくなったような構図の絵がたくさん、濃い線で描かれています。通常の「ヤマト2199」とは違う映像をつくるという強い意志が、映像の設計図の上に刻まれています。

ヤマトに何かが起こっていることを察した森雪は、100式空間偵察機を自らコントロール、ヤマトへと向かいます。直前の、まるで操縦方法なんてゼンゼン知らない女の子であるかのようにふるまっていた森雪と、同一人物だとは思えない、あざやかな操縦ぶりでした。古代と「魔女」との戦いは、すでに始まっていたのです。

第14回:失われたツインテールと、オレンジ色の違和感

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンド
バッド の冒険」(14年)ほか
アニメ、 ゲームの設定デザインなどを
担当、 現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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