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第14回:失われたツインテールと、オレンジ色の違和感

「宇宙戦艦ヤマト2199」第15話では、食堂で、岬百合亜と真田が波動エンジンの理論について、活発な議論を交わします。おそろしくムズカシイ話の応酬に、周囲の男たちは目をシロクロさせるばかり。岬百合亜が完璧な科学理論を口にする。あるいは真田さんが女子と高めのテンションで会話する。どこを切っても、通常ではありえない事態が起きていました。 

この場面のすこし前、岬百合亜は波動砲制御室を訪れています。これまで、ヤマトの波動砲が放たれるたびに、ボルトが突入するさまが映し出されていた場所です。いつもは画面の中央あたりにある十字型のセイフティーロックも、この場面では、だいぶ上のほうにあります。すぐそばで作業している整備員のおおきさと比べると、セイフティーロックも、ずいぶん巨大な構造物であることがわかります。 

岬百合亜は吊り下げ式のコンソールを覗き込んでいる整備員に、これは何ですかと、尋ねます。どの部位をとってもゴツくて、レバーだってたくさんついている、いかにも軍用品らしい重厚なコンソールは、波動砲が放たれる場面で画面左下にある箱状の部品と同じものです。いつもは厚みがほとんどないような、なんなら飾りの一種のようでさえあった部品が、整備員のすぐ近くに配置されることで、実在感たっぷりに描かれています。 

波動砲を放つ場面でも、この場面でも、波動砲制御室はどちらも「背景美術」として表現されていますが、両者の印象はちがって見えます。前者はあくまで、「セイフティーロックに向かって、ボルトが突入する」動きを画面の中心ちかくで見せる場面であるためです。メカニックならば、どの場面でも右から左まで、こまかく描けばいいというわけではなく、場面によって、どこを強調して、逆にどこを抑えるのか、考える必要があるのです。動いているときは3DCGであるヤマトが、その艦体の一部が切り取られる場面では絵で描かれているのと同じ理屈が、「背景美術」およびその下描きである「背景原図」でも適用されているということですね。 

ちなみにシリーズ中、だいたい同じように見えている自動航法室は、じつは登場するたびごとに「背景美術」と「背景原図」があらたに描かれています。見上げる者の心理状況で「顔」に見えたりするなど、回によって見えかたがちがうからです。複雑な形状であり、現場でも「難所」の一つであった場所ですが、最終回の自動航法室だけは3DCGでつくられていたりします。 

第15話では、波動砲制御室の出入り口の左右に、メーターのついた制御用コンソールが4つずつ並んでいるのがみえます。その先には階段があり、段を登った先にもコンソールはあります。段の上には手すりもついていますが、これはいつもの、波動砲が放たれる場面の左下、吊り下げ式のコンソールのさらに手前に映っている手すりと同じものです。どうやらあの場面は、出入り口から向かって左手にある段差の上にカメラを置いて、撮影しているようです。 

その手すりも、岬百合亜の目を中心に撮られたこの場面では、段差の上のほうにちらりと映るばかり。彼女の頭上では、波動砲が、とてつもなく巨大に、「力」の象徴そのもののように世界を覆っています。見慣れているはずのオレンジ色が、いつもとまったくちがうものに見えています。

岬百合亜と真田は、食堂で、通常ではありえない種類の会話を交わしました。会話を終えた真田の声は、いつになく弾んでいます。岬百合亜の頭からツインテールが失われ、真田さんが女子と楽しく談笑し、そしてクールな新見女史は女の武器を振りかざさんとしている。ひそやかに、しかしあきらかに、ヤマト艦内は異常事態へと突入していました。

第15回:「ビーメラ星」で開花する、彼と彼女の意外な側面

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンド
バッド の冒険」(14年)ほか
アニメ、 ゲームの設定デザインなどを
担当、 現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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