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第9回:冥王星の大地に沈む、緑の艦と青の夢

「宇宙戦艦ヤマト2199」第6話で、シュルツは冥王星の落日を目撃します。彼の目の前で、沈めたはずの敵艦ヤマトが、反射衛星砲も、前線基地も、僚艦も、栄達の夢も、すべてを炎の海に沈めてゆきます。本星とのあまりにも大きな温度感のちがいも、つかの間の夢の終わりのあと味をかみしめる間もなく、シュルツの乗るガイデロール級航宙戦艦は、ゲシュタム・ジャンプをおこないます。 

ジャンプ直前、ノズルからふしぎな色の光を放つガイデロール級の姿はCGではなく絵で描かれています。光を発生させている装置は、海の生き物の体の一部のようにも、植物のつぼみのようにもみえます。艦の表面には、薄い板状のパーツが各所に設置されています。こまかなパーツ群と微妙な曲面とのあいだを縫うようにして、シャープな溝が艦体の表面を走っています。3DCGにはない、公式設定資料集にも載っていない、詳細なディティールは、この場面に合わせてデザインされたものです。 

デザインを担当されているのは、メカニカルデザイナーの石津泰志さん。石津さんは、このガイデロール級をはじめ、ドメラーズⅢ世やツヴァルケなど、ガミラス側のメカニックを多くデザインされているかたで、第6話でのガイデロール級のノズルまわりのような、特定の場面に合わせてつくられたデザイン画、「ディティールアップデザイン画」も、数多く描いています。第19話と第20話の七色星団戦では、おそろしい量と、すさまじい密度の仕事を残されています。

また、派手な場面ばかりではなく、第17話、システム衛星内にツヴァルケがひっそり取り残されていて、という場面でも、石津さんによる「ディティールアップデザイン画」がつくられています。ツヴァルケは、整備ハッチが部分的に取り外されている状態です。 ガミラスのメカニックは、すべて異文明のテクノロジーで作られているという設定。その表面も、地球側のメカニックのように、装甲板や、それをつなぐ溶接痕、こまかな外付けの機材、パイプ類といった、リアルな、ある意味では想像のつきやすい部品で構成されてはいません。「内部メカが部分的にあらわになっている機体」という、微妙な状態を、実在の航空機の写真を参考にして、あとは現場のひとに自由に描いてもらう、というわけにはいかないのです。 

「ディティールアップデザイン画」に描かれたディティールも、ガミラスのメカニックの場合、どういうふうに形成され、接合されているのかがわからない、未知の構造物や線ばかりです。「この雫状のパーツは、でっぱっているのかへこんでいるか」など「原画」にするときに迷うことも少なくありません。完成画面になって、ようやく理解するということも、じつはあります。けれど、どのパーツもふしぎな、未知なディティールではあると同時に、どれひとつとっても、それが現代の地球上や、あるいは剣と魔法の世界にあるモノではないことは、確実にわかるかたちをしています。 

シャープな線で描かれたディティールには、間違いなくそれが進んだ科学の産物であり、しかも軍用のものであるとわかる説得力があります。ヤマトや地球とはちがう、もうひとつの世界の姿が、確かにそこにあります。 そしてここまでの話はぜんぶ、これを言うための枕ことばでしかないと言い切れるくらい、シンプルに「カッコいい!」デザインなのです。

シュルツは前線基地をあとにします。ここに至るまでには多くの犠牲があり、彼自身も、苦い思いを何度も味わいました。ガミラスの戦艦は、どれも同じような緑色に見えるものの、そのなかには、さまざまな階層の人間がいて、さまざまなドラマが繰り広げられているのです。ヤマトクルーが最後まで知ることのない、彼の物語が、静かに、そのスピードを上げてゆきます。

第10回:森雪の「笑顔」と、艦内の秘密のルール

□バックナンバー□

 ■第1回:はじめてのコスモゼロ、赤と銀のその輝きの秘密  

■第2回:第三艦橋が崩壊しない、ゆがみない理由

■第3回:赤道祭の裏側の、もうひとつの「おまつり」

■第4回:火星への花束と、仕掛けられた風景

■第5回:古代守の瞳にうつる、誰も知らない「彼」の心

■第6回:ユキカゼが拓いた希望と、貫かれた意志

■第7回:人類初のワープテストと、決して透けては見えないモノ

■第8回:アナライザーとオルタ、盤上を舞うふたりの関係

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■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンド
バッド の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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