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第1回:はじめてのコスモゼロ、赤と銀のその輝きの秘密

「宇宙戦艦ヤマト2199」第1話の後半、古代進と島大介は、最新鋭の零式52型空間艦上戦闘機、通称『コスモゼロ』を、地下都市の格納庫で、初めて目にします。機能的で美しいパネルライン、「警告」の文字の記された表示板、「00」の識別ナンバー。赤と銀の機体に刻まれたメカニカルなディティールの数々が、ふたりの男の子の心を駆り立てます。 

古代たちを画面の右手に、存在感たっぷりにたたずむこのコスモゼロは、絵とCGの合成で表現されています。といっても、両者がなにか魔法のような技術で融合されている、ということではありません。よくみると、コスモゼロの翼の下の高機動ユニットと着陸脚の輪郭線は、ほかの部分とは、線の太さがほんの少し、ちがっています。別々の素材が、画面の中で、あたかも一つのものであるかのように見えているのです。

正面やや上方から、コスモゼロをとらえたこの画面、じつは横から見ると、コスモゼロの3DCGの上に、コスモゼロの翼から上だけが描かれた「板」が載っているという状態だったりします。わりとそのままのイミでの「合成」なのです。本編で実際に使用した原画でも、コスモゼロは翼の上までしか描かれてはいません。

絵の部分には、微妙な陰影がついていますが、おおもとの素材では、赤や銀、それからカゲの色は、模様のようにパキッと塗り分けられています。横にいる古代らと同じ、アニメっぽい塗りということですね。そこへ、グラデーションをかけたり、ブラシツールで各部にこまかく加筆したりすることで、あの風合いが醸し出されているのです。プラモデルの塗装を、エアブラシでグレードアップさせるみたいに。お化粧道具で、顔に立体感をチョイ足しするみたいに。

現場ではこの工程は、特殊効果、特効と呼ばれています。絵の部分と3DCGの部分とのあいだにある違和感を、視聴者が味わうことがないようにするための、とても大切なお仕事です。特効を経て、立体感と質感が加わった絵に、「警告」の表示板や「UNCN」のマーキングなど、模型でいうところの「デカール」素材が貼り込まれることで、ようやく男の子ゴコロをくすぐるような、ぴかぴかのコスモゼロが完成します。

「ヤマト2199」では、絵とCGの合成でつくる画面は、3DCGだけの画面と比べると、5倍以上の手間が掛かります。それでも、シリーズの多くの場面で、この手法はつかわれています。その源流には、チーフメカニカルディレクター・西井正典さんの「『宇宙戦艦ヤマト』ならばこのくらいはやりたい」というこだわりがあります。彩色も撮影も、コンピューター上で行なわれる時代の、最新式にみえる画面も、けっこうアナログな概念と、人の意志と、地道な手仕事の積み重ねとでつくられているのです。

いくつもの工程を重ね、完成したコスモゼロを、古代と島は見つめます。機体に触ってはいけないと、加藤三郎からはキツく申し渡されています。 

「駄目だと言われると…」「…だな」

トップエースの言葉だろうと、なんのその。赤と銀の輝きをその目にした瞬間から、ふたりの心はすでに、銀の翼とともに大空を翔けていたのでした。 

→■第2回:第三艦橋が崩壊しない、ゆがみない理由

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「ストライク・ザ・
ブラッド」(13年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には
「レイアウト協力」「デザイン協力」
 のクレジットで参加しています。

『ヤマト2199の「中」の話』の方針、モロモロの注意事項は、こちらに。 
5月から「宇宙戦艦ヤマト2199」のnote、はじめます。 

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