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あの頃の私に必要だった「気まぐれ、だけど芯がある」真珠のひと粒ネックレス/keleleupepo by mela

 おしゃれをする勇気がなかった22才の夏、たまたま机を並べてお勉強をすることになった、すばらしくエレガントなスペインの老婦人に「いつでもひとつはアクセサリーをつけておくことね」と言われて、お知り合いになったばかりの彼女にストンと深く憧れを抱いていた私は、このアドバイスを実行しようと心に決めました。

 とは言え、ありがちなことながら「美しくない私が美しいものを身に着けたってねぇ……」と、心細い諦念の薄笑いを浮かべて、薄暗いところで青春を空費していた私にとって、アクセサリーなんていうもの――しかも、あの老婦人が「すてきね」と言ってくれそうなもの――を選ぶなんて、身のほど知らずなことなんじゃないだろうかと不安でしたし、そもそもどこでどんなアクセサリーが買えるのかについても不案内でした。
 そこで、とりあえず足を運んでみたのが、阪急うめだ本店。間違いなくどこに出しても恥ずかしくないアクセサリーを売っている場所はと考えて、思い当たったのが百貨店だったわけです。しかしながら、そして当然ながら、きらびやかな宝飾品フロアをうろつき回る勇気なんてありません。
 まずは親しみやすそうなフロアを偵察するところから始めようと、ステーショナリーなどを売っている一角のある10階までエレベーターで一気に昇り、どきどきと通り抜けようとしたumeda SOUQ(うめだスーク)で開催されていたイベントにkeleleupepoのデザイナーさんが参加されていたというのが、私の幸運でした。

 この時以来、よくスークをうろつくようになったのですが、ここでなによりおもしろいことは、作家さんから直接お話を聞けることだと思います。
keleleupepoのアクセサリーには、庭に咲く草花みたいな涼やかさがあって、私はひと目で気に入りました。でも、なにせ買い物下手なもので、気に入っただけじゃなかなか手が出ません。ディスプレイを前に行ったり来たりを始めた私に、作家さんご自身が声をかけてくださって、どんな石とどんな金属を使用した、どんな特徴のあるデザインの、どんなアクセサリーなのかを解説して、感じよく「きっとお似合いになると思うので」と試着を勧めてくださったから、なんとかお客さんになれたわけです。
 おしゃれに対して高いハードルを感じたことのある方なら、きっと共感してくださることでしょう。
きっとお似合いになると思うので
 この言葉が耳に心強く響きました。
 私が望むならと選択を迫るでも、試してもいないのに似合うと断言するでもなく、ご自身を主語にした言葉選びをなさったことに、誠実さを感じたのを覚えています。

 いくら自信のなかった私でも、そう聞けば「作った方がそうおっしゃるのなら」と乗り気になれて、たしか3つほどのアクセサリーを、楽しく試着させていただいたと思います。
 私が「ちょっと素っ気なくて、かわいさが控えめなところがいい」と感想を述べると、作家さんが「気まぐれ、だけど芯がある――と、いうのがコンセプトなんです」と教えてくださいました。
 この時にもお聞きしたと思うのですが、念のため公式ホームページでもチェックしてみたところ、なんでもkeleleupepoというのは、スワヒリ語の「」と「」を組み合わせたネーミングなのだとか。気ままに、望むままに渡り歩く風と、涼しく光る華やかな石。
 このイメージは、私が自分に持ちたかったイメージとぴたりと合致しました。自分の都合だけで好きに移ろうことを躊躇わない、足元のしっかりした身軽な人間になるために、なにかひとつ、今、ここで買おう。そう決めて、密かにずっと憧れていた真珠を使ったネックレスを購入しました。

 そのペンダントを愛用するようになって、気まぐれ、だけど芯がある人間になれたかと訊かれると、ちょっと恥ずかしくて顔を上げられないのですが、少なくとも視界にこの真珠がちらつく限り、そういう人間であろうと志したことや、もっと遡って、私が晴れやかに装って生きていくことを願ってくれた、すばらしくエレガントなスペインの老婦人から寄せられる友情の存在を、うっかり忘れたりはしないでしょう。
 老婦人は「いつでもひとつは」身に着けておくアクセサリーのことを「幸運を運ぶもの」と言っていました。なにかと落ち込むことも多い毎日のなかに、自分の変化に期待したことや、自分を大切にしてくれた人がいたことを、これを見れば確実に思い出せるというトリガーを持つことは、幸いなことです。

 あの頃、私にはアクセサリーを買う必要があったと思います。
 今でも私はあんまりオシャレじゃありませんが、少なくとも自分自身を飾ることに対する奇妙な罪悪感は、もうほとんど消えました。これは自分自身を大切にする方法がひとつ増えたことを意味します。変化は段階的でした。お守りがわりの真珠を手に入れたことは、その過程のひとつとして機能しました。心が弱って、変化に逆行してしまいそうになるとき、錨になってくれていることを思えば、まさにお守りと呼んでいいような気さえします。

 もしも、いつでもひとつは身に着けておく「幸運を運ぶもの」としてのアクセサリーを必要としている方がいらっしゃれば、彩り豊かで颯爽とした作品のなかから、自分が必要としているアイテムをゆっくり選ばせてもらえるkeleleupepoを、私はおすすめします。

#買ってよかった物

追記
さっき公式ホームページを覗いてみたところ、営業を縮小されているご様子でした。
作家さんのご迷惑にならないよう、その旨を追記しておきます。
お健やかに過ごしていただきたいですね…。



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