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前十字靭帯再建手術からの復活物語001 -挑戦編-

「木にぶつかっちゃったんだって。骨折したかもしれないって。」

リグループポイントでマサくんが滑ってくるのを待っていた時に無線で聞かされた言葉。マサくんが木に衝突するなんて、ちょっと考えられない。何かの間違いだと思った。一方で、何が起こったのか状況がわからず、実感もなくて、ただ「もしかしてシーズンアウト?」と思ったのを覚えている。「もっと滑りたいな。来週の大会は出られないのかな?再来週のバックカントリーにはいけるかな?」そんなことが頭に浮かんでいた。

リーダーの指示で、まずはマサくんがいる場所まで登り返すことになった。スノーシューを履いて歩きだす。すると突然、不安がブワッと襲い掛かってきた。木に衝突って、どんな状況なのか、命は無事なのか。意識はあるのか。急激に襲ってくる不安。走ってマサくんの場所まで行きたいのに、既に6時間近くハイクして疲労が蓄積している私の身体。気持ちとは裏腹にペースが上がらない。走っていきたいのに走れない。そのもどかしさと不安で涙がでた。涙を流しながら、のどに血の味を感じつつ息を切らして、ただただ身体を前に進めた。

守門岳に挑戦

本格的にバックカントリーを初めて1年目。リフトやゴンドラを使って標高を稼ぎ、その後1~2時間のハイクアップ程度しか経験したことがなかった私たちにとって、今回の守門岳バックカントリーはチャレンジングな計画だった。それでも信頼するガイドさんと相談しながら、挑戦することを決意。登山地図で計画を確認し、パッキングをしていると、夏山登山と同じようなワクワク感とドキドキ感に包まれた。天気予報も入念に確認し、地形図の確認も万全。今シーズンの2人の合言葉、「今日のワンプッシュ」とつぶやいて、駐車場をあとにした。

久しぶりの標高差1000m。お天気に恵まれ、最高の景色の中、ゆったりのんびりハイクも楽しく、順調に歩みを進めた。私たち以外は皆さんスプリットボード。ハイクの時間が長い山行ではスプリットが体力的に楽かもしれない。来年はスプリッドデビューだななんて考えながら、避難小屋を過ぎた登りで、徐々に体力が削られていることを実感した。行動食でエネルギーを注入し、少し足を休めながら登っていく。ほどなくして森林限界を超えて稜線に出た。ひんやりした風が心地よい。真っ白な越後三山、日本海。その景色を目の当たりにすると、元気が出てくる。それもつかの間。頂上が見えるけれどそこまでは遠い。疲れているときの山頂直下の感覚。それでも滑り降りてくる人たちを見ては、どのラインいこうか、あの沢がよさそうとか、イメージがどんどん膨らんできた。

マサくんが「オレ、今までの登山で一番きついかもしれない。足が攣りそうだもん。」とつぶやいた。20kgのテント泊装備を背負って、7~8時間を平気で歩くマサくんが、4時間程のハイクで疲れるなんて少し信じ難かった。登山で私がバテることがあっても、マサくんが疲れたということはない。だから珍しいなって思った。足取り、顔つき、会話の様子から、疲れているかもしれないけれどバテたわけではないことは分かった。そしてその会話から5分程で頂上に到着した。

「ついた!」スノーボードを背負って。滑走よりもハイクアップのほうが不安だった私たちにとって、登りきれた時は達成感というよりも安心感のほうが大きかった気がする。とにかく景色が美しくて、空気が澄んでいて、それがとても気持ちよかった。

登ったあとのお楽しみ

さて、頑張って登った後にはお楽しみのスノーボードが待っている。滑走準備をしながらエネルギー補給。ハイクアップで結構足の疲労を感じていた私は、アミノバイタルのゼリーを飲んだ。いつも足にきている時にこれを飲むと元気になれる。せっかくのお楽しみの滑走。疲れで思うように滑れないなんて嫌だから、少しの休憩の時間にも体力回復を図った。他にもおにぎりも食べて水も飲んで、プルーンまで食べた。仲間とこの後の滑走コースについて確認をして、滑り出した。

広いオープンバーン。太陽が反射してキラキラ輝いている。ハイシーズンのパウダーではないけれど、ノートラックの滑らかなバーンにココロが躍った。時刻は11:00。バーン表面はシャリっとしたザラメ。その下はまだカリカリで固かった。そして数日前の黄砂でところどころストップスノー。ちょこっと難しいなって思ったけれど、ほほにあたる風も足に感じる雪の感触もうれしくて、登らなければ味わえないこの空気を堪能しながら2ピッチ滑り降りた。

長いトラバースを経て北斜面へ

登るのはあんなに大変なのに滑り降りるのは本当に一瞬。そんな会話をしながら、次はもう少し雪の状態がよさそうな北斜面を目指すことになった。少しの登り返し。いくつかの沢をトラバースすることになった。登り始めると雪がザクザクで足がとられる。スノーシューがうまく雪をとらえてくれなくて歩きずらい。スプリットの皆さんから少しずつ遅れてしまった。でも焦ることなくマイペースに1歩1歩足を前に出していった。急斜面のトラバースが難しくてドキドキして、神経も体力も使ってしまった。尾根に取りついた時

「やった!今日一番の難所クリア!」と声を上げたのを覚えている。

そしてついに雪の状態もよさそうな北斜面へ。ツリーと大きな沢地形が魅力的な場所だった。全員でリグループポイントを確認し、滑る順番を決めた。リーダーが滑る様子を見ながら、自分のラインをイメージする。

「左おくの壁に当て込んで、沢に入っていくのもいいかも!俺あのライン行こうかなぁ。ヒロはどのラインにするの?」

「どのラインも楽しそうで迷ってるんだよね…右のツリーのほうから巻いていこうかな!じゃあ先に行ってるね!楽しんで!!」

そういって私が先にドロップした。


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