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エコシスラボ出版 第1号『「多元主義」を理解するための30冊: 多様化する世界を読み解き、生き抜くために』が出版されました!

多元主義は現代を見つめる重要なレンズだ

『「多元主義」を理解するための30冊: 多様化する世界を読み解き、生き抜くために』が、Kindle出版にて販売開始となりました。
いまの時代をより善く美しく生き抜くための知がこの一冊に凝縮されています。ぜひご一読いただけたらとここにご案内いたします。

編集:ビブリオテカ・アレクサンドリア(BA)プロジェクト
著者:暮沢剛巳、清水知子 ほか
巻頭言:紺野登

グローバルな知の「場(ba)」創りを目指す学際的な活動として2006年に始動した「ビブリオテカ・アレクサンドリア(BA)」プロジェクト。
20世紀後半に世界を覆った画一的なグローバリズムのもと、混迷と分断と対立を深めるいまをいかに生き抜くか、多分野の学者、経営者、科学者、ジャーナリスト、編集者が結集し、思索と研究、実践と提言をおこなってきました。その活動の集大成としての出版が『「多元主義」を理解するための30冊: 多様化する世界を読み解き、生き抜くために』です。

追求したテーマは「多元創知」(Pluralistic Knowledge Co-creation:多元的なものの見方で知を創るという意味の造語)。
これは、多元的な視点を持った人々が、開かれた場で対話することによって、知的に平等で多様な社会が形成され、そのことが持続的発展や創造的社会・経済活動を生み出すという考え方です。ベースには多元主義(多元的なものの見方)があります。多元主義がいまほど重要なときはありません。

多元主義はこれまでさまざまな捉え方をされてきましたが、そのルーツは古代アレクサンドリアにあります。創設当初よりヘレニズム文化の中心地であり、ヘレニズム文化のもつ寛容な「多元主義」を体現する都市・古代アレクサンドリア。そのなかで、ムセイオンとともに科学的探究や文学の創造的拠点となった大図書館(ビブリオテカ・アレクサンドリア)は、多元創知の発祥の地といえます。
「知の灯台」として二千年の時を経ていまなお世界中にファンをもつアレクサンドリア図書館から、いまを生きる智慧を学びとろう、「ビブリオテカ・アレクサンドリア(BA) 」プロジェクトは、そこからスタートしました。名称もそこからきています。

プロジェクトは、識者による寄稿からはじまり、アレクサンドリア図書館をめぐる探訪、十数回に及ぶセミナー(歴史家、考古学者、文化人類学者、ジャーナリストなどによる)など、まさに多元創知の実践そのものとして展開され、その成果がこの『「多元主義」を理解するための30冊』として結実しました。

「知の道具としての多元主義」を理解するために、古今東西の古典から現代作品まで30冊の多元主義に関する名著を、これ以上ないという素晴らしい評者の方々に解説いただいています。多元的な知が時空を越えて交差し結節する多元創知のプラットフォームとしてこの本は編まれました。
「多元主義」への道案内として、そのエッセンスを初学者や特に学生層に読んでもらうことを狙いに、わかりやすく解きほぐしています。
現代を見つめる重要なレンズとしての多元主義から世界を眺め、これまでとは異なる世界のあり方を発見していただけたら幸いです。

本書の構成

「多元主義」について関心を持った読者に向けて、より専門的な観点から理解を深めるために、次の6つの問いをたて、それらの視点で30冊を次のように分類し解説を行っている。
(Ⅰ)言語の可能性
 『オリエンタリズム』
 『クレオール主義』
 『ブラック・ジャコバン』
 『地に呪われたる者』
 『サバルタンは語ることができるか』
 『イスラーム哲学の原像』
(Ⅱ)更新される歴史
 『世界史の構造』
 『創られた伝統』
 『無縁・公界・楽』
 『悲しき熱帯』
(Ⅲ)グローバリゼーション
 『文明の衝突』
 『帝国』
 『ナショナリズムの超克』
 『グローバル・シティ』
 『〈アジア〉、例外としての自由主義』
 『多文化時代の市民権』
(Ⅳ)文化の認識
 『社会の社会』
 『リキッド・モダニティ』
 『文化の窮状』
 『観察者の系譜』
 『ポストモダニティの条件』
 『啓蒙の弁証法』
(Ⅴ)ネーション
 『想像の共同体』
 『「国語」という思想』
 『単一民族神話の起源』
(Ⅵ)法と混沌
 『歓待について』
 『全体主義の起原』
 『ホモ・サケル』
 『公共性の構造転換』
 『千のプラトー』

本書の執筆陣

本書はまさに多様な分野にそれぞれ精通した執筆者(専門家)によって執筆され構成されている。30冊の多元主義の先導的書物とともに、評者の著作にも視野を広げてみることをお勧めする。

◎書評監修者(執筆兼任)
・暮沢 剛巳
・清水 知子

◎書評執筆者(アイウエオ順)
・安達 智史
・稲津 秀樹
・小笠原 博毅
・菊地 暁
・熊倉 和歌子
・駒居 幸
・小山 裕
・佐藤 嘉幸
・塩原 良和
・鈴木 弥香子
・多賀 健太郎
・中井 亜佐子
・西 亮太
・長谷川 啓介
・水嶋 一憲
・毛利 嘉孝

◎旧BAコンソーシアム・メンバー
・紺野 登
・寺門 和夫
・後藤 光弥

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(以下、amazon 内での紹介より)

20世紀末の単一的なグローバリゼーションの後にやってきたのは、反グローバリゼーションとしての単純なローカル化の時代ではなかった。現れたのは、地球上の多様な文化がITでつながり協業する多元創知、多元主義の世界である。
世界には、そもそも唯一最高の価値体系はなく、複数の価値体系が存在するのは当然である。しかし、人間は、自分たちの価値観こそ唯一最高である、といった一元論的な世界観を強調したがる。とりわけ20世紀後半以降は、資本主義に対する共産主義、社会主義、民主主義、権威主義といった、多様な価値観(主義)がバラバラに、それぞれ独自の視点から世界を捉えようとしてきた。自分たちと異なる価値観を敵とみなす一元論的価値観によって世界は分断し、さまざまな危機が私たち人間に襲いかかっている。

2021年の現在、新型コロナのパンデミック化によって、さまざまな敵対的社会状況はいよいよあらわになっている。それは政治社会体制に限らない。人工知能の知性が人間を超えると言われたシンギュラリティ(singularity 技術的特異点)もAIを神とする一元主義といっていい。

この分断と閉塞と危機の連鎖から、わたしたちはいかに脱することができるのか。その可能性を拓くのが、多元主義的な世界観である。多元主義的に考えることは、今日、人類の歴史のどの時代よりも重要になっている。多元主義は今の世界を見るためにきわめて重要かつ有効な「レンズ」なのである。

本書は30冊の先人の作品を通じて、読者を「多元主義 (pluralism:プルーラリズム)」というテーマに誘う。しかし、「多元主義」を何か「主義」(イズム)として主張したり、読者を説得したりしようというものではない。そうではなく、「多元主義」というものの見方から、今の時代を見て、理解し、生きるための「知」として身に着けてほしいというのが狙いである。つまり、知の道具(観点)として用いるという立場をとっている。
本書は、とりわけ現代の「多元主義」について、その来歴や背景、論点、活用法を知るためのガイダンスとなっている。

たとえば多言語世界とは何だろう? その問いには、エドワード・W・サイードの『オリエンタリズム』などの著作がそのガイドになるだろう。
柄谷行人の『世界史の構造』からは、歴史の積層からの多元主義が見える。
多元主義を文化の視点から見わたすには、ニクラス・ルーマンの『社会の社会』から多くの示唆を得ることができる。難解な同書への入り口として、本書は格好の水先案内となるだろう。
はたまた国家という多元創知について、『想像の共同体』(ベネディクト・アンダーソン)から何がみえるだろうか? ハンナ・アーレントの『全体主義の起原』から見える法と混沌とは? 知の連鎖、交差を楽しんでいただきたい。
まず読者に今を生きる上での問題提起となる30冊に関心をもってもらい、多元主義の世界を垣間見てもらえれば幸いである。
違いを知るレンズとしての「多元主義」とは?
では多元主義とは何か?
現代の「多元主義」的なものの見方は、20世紀までのものの見方の限界を超えようとするものだ。それは「相互主観性」(あなたと私の共通感覚)に根ざしているといえる。物事を一元的な価値観によって客観的な正解・正論として追求するのでなく、個々の人や地域の主観性や意味、目的など、人間的要素に基づいて、共同体や社会の現実から世界を観ようとする態度である。

世界は現実的に多元的なのである。生物多様性などの環境問題を考えるときに、多元主義的な観点は必須である。経済社会においてもシェアリング・エコノミーなどの考えや、格差を解消しようとするベーシックインカムなどの利他主義的な経済の議論はもとより多元的な価値観に根ざしている。
ビジネスの世界でも同じである。ただ一つの正解を求めようとするロジカルシンキング(論理分析的思考)の限界を超えるような「デザイン思考」やイノベーションのための思考(知識創造)、シナリオ思考が不可欠なものとして認識されている。
不確実で、複雑な、多様な世界の中で、従来の一元的な思考(線形思考や論理思考)だけでは、未来に我々が直面する厄介な課題を乗り越えていくことが難しくなっている。そこでは多元的な知の交わる「場」が重要になる。多元的な価値やアイデアを共存させて対話させることのできる「場」は、世界が求める創造性の源泉ともなる。

重要なのは「反・一元主義」ではなく、一元と多元の両者を共に理解すること、固定観念から自由になることだ。多元的であるということは、一人の人間がマルチな多様・多次元な能力や視点を持つことにとどまらず、それぞれの個性や専門性を相互に理解する姿勢だ。対比的に示すと以下のようになる。

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本書はより多元的な読みを前提にしている。読者自身の「問い」に沿って、考える、ノートをつける、どこから読んでもよいものである。その手がかりとして、巻末には、それぞれの本が持つキーワードも抽出提示されている。

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