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大物アーティストにサンプリングされたレゲエ

ヒップホップの素晴らしい文化の一つにサンプリングというものがあります。サンプリングとは、

「過去の曲や音源の一部を流用し、再構築して新たな楽曲を製作する音楽製作法・表現技法のこと」

wikipedia-サンプリング-より引用

であると記されています。つまり、お気に入りの曲の一部を切り抜いて自分の音楽に入れ込んでしまう、ということです。ジャズやファンク、ソウル、ロックまで…サンプリング元は様々。そして、サンプリングの文化は今やヒップホップの垣根を超え、多種多様のアーティストがこの手法を用いて音楽を生み出しています。

私が愛するレゲエ、ダンスホールをサンプリングした楽曲も、多数存在します。ヒップホップ誕生においての最重要人物、クール・ハークがジャマイカ出身だから... メッセージ性が似ているから...それらだけではなく、音の構成、単調なヴォーカル、韻を踏むスタイルなど、ヒップホップとダンスホールのスタイルは音楽的な部分においても類似している点が多いのです。そのことから双方の相性の良さはいうまでもなく、ジャマイカンミュージックをサンプリングした素晴らしい楽曲が多く生み出されています。

今回はそんな、レゲエ、ダンスホールが元ネタとなった、有名アーティストの楽曲を紹介します。

文:小池杜季(Ecostore Records)



セレーナ・ゴメス 「Like A Champion」

アメリカのビッグアーティスト、セレーナ・ゴメス。2013年に発売されたアルバムの中にダンスホールレゲエをサンプリングした曲が収録されています。元ネタは、ブジュバンタン「Champion」。この曲は90’sレゲエシーンに多大なる衝撃を与えた大名盤、『Til Shilo』に収録された一曲。今なおレゲエファンを踊らせ続ける名曲です。

セレーナゴメス×ブジュバンタン、一見驚きの組み合わせですが、アメリカにおいてレゲエは日本よりもポピュラーで身近にある音楽。「Champion」も見事にポップスに昇華されています。

曲冒頭からブジュの力強いダミ声が大胆にサンプリングされており、インパクト抜群。セレーナ・ゴメスが歌うフックの”Rum pa pa pam pa,Rum pa pa pam pa”はブジュにはありえない、みずみずしさがあって、なんとも新鮮。

Buju Banton / 'Til Shiloh(Island Records, 1995年発表作品)


ローリン・ヒル 「Lost Ones」

2020年 ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高のアルバム」500選 第10位に選ばれ、リリースから25年経った現在においてもなお世界中で愛されているローリン・ヒル『Miseducation』。このレガシー級大名盤に収録されている「Lost Ones」は、サンプリングの定番、シスター・ナンシー 「Bam Bam」を元ネタとした一曲。短調なリディムと、キャッチーなメロディ、ねちっこい歌声が癖になる、80sオールドスクールダンスホールです。フックのメロディーをサンプリングした本作は、重厚なサウンドとローリン・ヒルの力強い歌声により、元ネタとは印象がガラッと変わります。

実はシスター・ナンシー 「Bam Bam」も、70年代リリース、トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ 「Bam Bam」のオマージュ。古き良き音楽が時代とともに、雰囲気を変えながら、様々な人たちの手が加えられながら進化し、聴き続けられているのはなんと素晴らしいことでしょう。


ゲーム「It’s Okay」

西海岸 カルフォルニア・コンプトン出身のラッパー、ゲームが2006年にリリースしたヒットアルバム『Doctor’s Advocate』に収録された一曲「It’s Okay」。レゲエネタのヒップホップといえばこれを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。ジャマイカのレゲエシンガー、ジュニア・リードのヒット曲「One Blood」を声ネタとして大胆にサンプリングした本曲。元ネタでは、コンシャス=社会情勢についての真面目な歌詞が綴られています。彼なりにそのメッセージを再解釈し(?)(いや、元ネタの内容は全く気に留めていないのか?)、生々しさのある豪快なリリックに仕上げています。臨場感あふれるサウンドにゲームのパワフルなラップが乗っかるキラーチューン。




現在であれば、ネット上から音源を拾ってくるということが可能ですが、レコードがメインフォーマットであった時代は、勿論そうは行きません。自らの足を使い、レコード屋に赴き、ひたすらネタを探し求め掘るしかないのです。まるで宝探しのような感覚。

90’sヒップホップを代表するグループ、ア・トライブ・コールド・クエストのドキュメンタリーで、彼らが日本のレコ屋を訪れる場面がありました。そこでメンバーの1人、ラッパーでありビートメイカーでもあるQティップが残した印象的な言葉があります。

「レコードがすべて。ターンテーブルが楽器だ」

ATCQの魅力である、様々なカルチャーが重なり合った独特のグルーヴは、彼の音楽に対する探求心の賜物であるのだなと感じました。

私はその言葉を聞いてからレコードを買うことに細やかなロマンを抱くようになりました。そのロマンをモノとして所有できる喜びが、レコードにはあります。

筆者紹介:
小池杜季(こいけ・とき)
休日は椎茸を安く買うために、少し遠い八百屋に行きます。

壁一面のレコードと筆者


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