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一枚の絵

これは私が20代前半で、まだ自分の店を持っていなくて他のバーで働いていた時、そこのマスターに聞いた昔話。

そのバーはそこそこの広さがあって、カウンターの前にボックス席が何席かあるのだが、
ちょうどカウンターに入ると見える真ん前が1枚の絵を飾ってある席だった。

いつものようにマスターが店を開けていると、夜中に常連の女の子2人組が来て、その席に座ったそうだ。
マスターがカウンターからその2人の会話を見ていると、どうも様子がおかしい。
「もー、今2人で話してるから」「ていうか自分早く帰った方がよくない?」など、
どうも"もう1人いる"ような会話なのだ。

前から2人は霊感が強くてそういうものが見える、とは聞いていたが、
マスターも気になって2人のところへ行って聞いたそうだ。

「なんか自分ら、もう一人誰かと喋ってるみたいに聞こえるんやけど」
と言うと2人は顔を見合わせて
「そうやん!さっきからあの男の子がうちらの席にずっと座ろうとするから」
と言ってきた。

マスターには誰も見えない。
でもマスターには心当たりがあった。

「それ、どんな見た目?」
と聞くと
「シャツとジーパンで、」
「そう、怪我してて、」
2人は声を揃えて
「「靴片っぽしか履いてない」」

マスターはやっぱりか、と思ったそうだ。

実は過去、その店の常連さんで絵が好きで美術を志してた男の子がいたそうだ。
彼はその席の絵が好きで、いつもその席に座って、「いつか俺が絵で上手くいったら、この絵くださいね!」とマスターと約束していたそうなのだが、
彼はバイク事故で亡くなってしまった。

きっとその絵に未練があって、事故の時の格好のまま、霊になってその席に来てしまったんじゃないか、
そう思ったマスターは、彼の家族へその絵を届けに行った。

それ以来その席で彼を見たという話を聞くことはなくなったそうだ。

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