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『岬のマヨイガ』を観ました🎦

2021年8月30日
MOVIX柏の葉 にて

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この映画に惹かれた理由

時間と心に少しゆとりができたので、思い立って、久々に同日2本目の映画を観ることにしました。
(昔は2本立てが当たり前だったけど)

女の子たち二人を、ひょんな縁から、
高台の岬にある不思議な古民家に引き取るおばあさん。
『さぁ、今日からここが三人の家だ』と。
“キワさん”は原作では87歳だということですが、全然そんな感じがない。
岬の上までの長い山道も、ものともしないし、
心も体もきちんと整っている感じ。

『しんぺい、すんな』(心配するな)
と、不安でいっぱいのユイやひよりに事あるごとに穏やかに声掛けをする。
心の行き場のない人同志で支えあって生きていけたらいいな…と思うことが多い今日この頃。
だから、この映画が見たかったのかな。

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ずっと応援プロジェクト2011+10

舞台のモデルとなったのは、岩手県大槌町(おおつちちょう)。
2011年3月11日の東日本大震災で被害が大きかった県を舞台に
3本のアニメ作品が企画され、この映画はその中の1本。

10年、20年と息の長い形で、被災地支援につながることを願って作られるという、震災復興支援プロジェクトの一環でもある作品です。

原作は、柏葉幸子さんの2015年文学作品「岬のマヨイガ」。
柏葉さんは、岩手県のご出身だそうです。

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マヨイガ

“マヨイガ”ってカタカナで見るとピンとこなかったけれど
「迷い家(マヨイガ)」ということで納得でした。

岩手県遠野地方の伝承、訪れた人に富と栄光を与えるという「迷い家」。
言い伝えでは、欲を持たずに訪れる「無欲の来訪者」のみに
富を与えるのだそうです。

映画の中の岬の古民家では、破れていたはずの障子の穴がいつの間にか修復されていたり、望めばコップに氷水が現れたり、笑い声をたてたりもして、それは不思議なことなのだけど、でも大切なのはそういうことではない。

『ただ、もてなしたいと思っているだけ』と
キワさんは家のことを説明するけれど、
キワさん自身もこの家の一部であるように思う。

事故で両親を失い、震災で引き取り先の親族も失い、
ショックのため声が出なくなった8歳の少女ひよりと、
父親からの心身への暴力から逃げてきた17歳のユイ。
この二人と共に生活して、彼女たちを温かく包み込むキワさん。

キワさんという人がいるから、この家はマヨイガになりえるのだ。

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ユイとひより

私は、特にひよりのすごさに感心する。
8歳にして、日常が失われ、天涯孤独となったにもかかわらず、
他人を気遣える人であるからです。
そんな事なかなかできることではありません。

ひよりは、震災で倒木の下敷きになっている狛犬を
必死で助けようとします。
そして、それを見て、黙って手助けをするひより。
二人の出会いのシーンですが、後にこの二人と共にこの狛犬たちも“アガメ”を封じる手伝いで活躍します。
(キワさんに二人を引き合わせたのは、この狛犬かも)

「なぜ私だけ。何も悪いことしてないのに」悲しむことはあっても、
絶望することはなかったひより。
キワさんやユイをしっかりと支えていたのは、
実はこの小さな勇者だったように思えます。

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キワさん

この土地を巣食い始めた“アガメ”という魔物の存在を知り、それを心配して集まる“妖怪たち”と交流して、共に魔物と闘おうとするキワさん。

お話は大きく展開していくけれども大切なことのためにやっていることは、家をきれいに掃除したり、
心のこもった手料理を作ってみんなで頂いたり、
ホッするお茶を入れたりすることと同じなんだと思う。

“アガメ”は人の後悔や悲しみ、辛さ、後ろめたさといった感情を食らって
大きくなっていくという。

震災後、残された人々の中にどうしようもない思いがフッと心をよぎる時、その背中に小さな花が咲き、どこからともなく現れる、赤い目をした小さなうみへびがそれを食らって太っていく。
なんと不条理で切ないことだろうか。

“アガメ”が大きくなるにつれて、人々の絶望が大きくなり、
希望が薄れていく。
キワさんのやろうしたことは、そうした人々に希望を取り戻すことであり、ひよりやユイの安心できる居場所を共に作っていくことでもあるのです。

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マヨイガだから、特別な家なのではない。
家は人が住んでこそ魂が宿る。
そんな家の描写の一つ一つが私にはとても大切なシーンでした。
茅葺の屋根の上には花が咲いていて、可愛らしい。
マヨイガのモデルである遠野市土淵町(つちぶちちょう)にある「伝承園」はまさに屋根に草花が植えられている独特な造りとなっています。
縁側の沓石(くついし)は、どこか懐かしい。

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小ぎれいで落ち着いた台所のある土間、続くリビングにはソファーが待ちかまえていて、奥には畳部屋・・・。
お布団を並べて眠り、食卓には庭でとれた野草の料理が並び、「うまい…」みんなで食べる幸せな食卓。
そんな何気ない日常を積み上げることの大切さ。

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キワさんの過去の多くは語られませんが、
二人との生活はキワさんにも幸せをもたらしたにちがいありません。

ごめんなさい、アガメとの闘いの場面や遠野地方にまつわるであろう
妖怪たちの登場場面(特に愛すべきカッパたち)もあったけど、
私にとっては、キワさんの生き様に、静かなたたずまいの家の匂いに、
ただただ惹かれてしまう映画なのでした。

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