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ノン・サピエンス・ホモ・サピエンス

 恵文社という本屋さんをご存知だろうか。

 京都は一乗寺、ラーメン屋激戦区。3歩歩けば強烈な豚とニンニクに腕を引かれる……そんな匂いが少し薄まる場所に、ぽつんと建っている。色褪せた木の看板と、喫茶店と見紛う可愛らしい入り口。中には本や文房具だけではなく、コーヒーや調理器具なども売られている。

 メインの本はなかなか癖が強いものばかりで、読書好きが「この本を置いている本屋さんがあるんだ……」と感激する本もたくさんある。京都で1番好きな本屋さんだ。大学からそう遠くないこともあり、帰りに足を伸ばすこともしばしばある。

 そこで、アントナン・アルトーの「演劇とその分身」という文庫本を購入した。買った理由は「なんとなく」である。

 演劇が好きなので、演劇に関する本には惹かれてしまう。しかしこれは演劇の本と言っていいのかわからなかったし、なんとなく著者はドイツ人かなと思い込んで家でもう一度確認したらめちゃめちゃフランス語で元のタイトルが書かれていた。おまけに中身は難しく読むのに時間がかかるしちゃんと理解できてるのかどうかも怪しい。研究の休憩時間に読もうと思っていたのに、これでは休憩時間にもっと疲れてしまう。「疲れたから休憩しようか」とラブホテルに入っていく男女のようなものだ。

 思い込みが激しいのは困りものである。

 なんだかんだ言いつつも、こういう小難しい本には惹かれてしまう性質なのだ。パスカルのパンセなんかも惹かれて買ったはいいが、結局半分も読まずに積んでいる。ムツカシイ言葉をムツカシクこねくり回した、ジーニアスあぶらねんどのような文学に惹かれつつもそれを理解する頭は持ち合わせていない……ホモ・サピエンスと言いつつ大してサピエンスでもない人間、それが私なのだ。

 でもなんだかんだ、読んでしまうんだよな。全部理解できなくても面白いから。

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