同軸ケーブルでSDIな話
先日、ライブ配信や映像制作に携わっている方々で、みんなでブラックマジックデザインのカメラを触ろう、という集まりがあり、その際にSDIの同軸ケーブルについて話題になったので、同軸ケーブルについて纏めてみます。
まずは、同軸ケーブルというシロモノ
「同軸」っていうくらいなので同じ軸のケーブルなのだけれど、ケーブルをまっすぐスパッと切ったときに、丸い断面の真ん中に一本導体があって、その周辺に絶縁体、さらにその外側に編組シールド、そして被覆シースと同心円で構成されているケーブルのことを指します。英語ではコアキシャルケーブルとも言います。RCAアンバランスオーディオケーブルなんかも同軸ケーブルの仲間に入ると思いますが、映像信号で使われる同軸ケーブルに比べてとても細いので、別物に区別されているかと思います。
この手のケーブルを作っているケーブルメーカーは、映像、放送用途だと国内ではカナレやタツタ立井、フジクラなどが挙げられ、海外メーカーではベルデンやアンフェノールといったところでしょうか。
選定項目としてはまず、映像用途にはケーブルインピーダンス75Ωのものを選ばなければなりません。ネットワーク/計測機器用の50Ωと混同しないように。
ケーブルの品番名に注目すると「3C-FB」などと表されています。この「3C」がケーブルの太さを表し、導体が太いことで伝送損失を少なく、距離を伸ばせるようになるので、同じ導体の素材なら3Cより5C、7Cのほうが長距離伝送に適していると言えます。一方で太くなればなるほど柔軟性に劣るのと重量が増えるので、設営が大変になります。私がシステム設計をして高さ2Mラックを並べてマシンルームを作る場合には、ラック内で収まる配線には3C、ラック間に渡ったり、マシンルーム外に引き延ばす場合は4.5C以上のケーブルを指定します。
よく見る配線の種類に「3C-2V」や「5C-2V」というケーブルがありますが、これは元々アナログ信号を伝送する用途で設計された時代のケーブルなので、現在のようなデジタルの映像信号を伝送するのには向いていません。2Vのケーブルも用途によっては使い道があるのですが、デジタル映像伝送には「3C-FB」や「5C-FW」といったケーブルをお勧めします。
同軸ケーブルが使われはじめた理由は「安い」から?
私が一番最初に触った同軸ケーブルは3C-2VのRFです。つまり、テレビのアンテナ線。屋根の上のテレビアンテナから室内へ引き込む線が3C-2Vでした。(昔はVHFのアンテナを分配してFMチューナーにつないだりしてました。)テレビアンテナ用に使われた同軸ケーブルですから、他のどんなケーブルより大量生産されましたし、映像機器と親和性があり、コストパフォーマンスに優れていたのでしょう。また、どんな現場でもその必要な長さに合わせて切りそろえ、比較的簡単に端末処理ができることから、以降現在に至るまで映像、放送の現場では同軸ケーブルが主流となってきました。デジタル信号になった現在でも、その継承のため同軸ケーブルに何とか伝送信号を収めてしまおうとしたのがSDIです。
同軸ケーブルを流れる信号の種類
このように同じ同軸ケーブルを使うからと言って、その中を流れる信号はSDIとは限りません。知ってる限りで書き並べますと
RF:いわゆるアンテナの信号。電波にするために一番近い形の信号です。デジタル放送になって信号もデジタル化されていますが、RFと呼ばれます。テレビアンテナの用途の他、例えば大きな施設、競技場やホテルなどに館内放送する場合の共聴設備などにも使われます。古い設備だと5C-2Vのまま使ってるところもあるかもしれない。
コンポジット:アナログビデオ信号を言われるものです。黄色いRCAピンのケーブルの中の信号です。もともと昭和の放送局の中は白黒テレビの世界だったので、明るさの情報だけを伝送できればよくてケーブル1本で伝送していましたが、カラー放送をするために色副搬送波をうんちゃらかんちゃらフレームレート1秒60枚を59.94枚に減らして無理やり1本の信号に纏めた結果がこれです。なので、纏める前の輝度信号と色信号を別々の同軸ケーブル3本で伝送する「コンポーネント信号」もあります。
リファレンス信号:大きな分類でいえばコンポジット信号と信号の種類は一緒ですが、用途が違うのでリファレンス信号としてこのアナログ信号はまだ生き残っています。どのように使われているかは私の過去記事を参照のこと。
コンポジット、リファレンスとも5C-2Vの同軸ケーブルで十分通用します。
SDI:今、われわれが主力で使おうとしているデジタルの映像信号。一番最初に登場したのはソニーが開発した525iコンポーネント4:2:2 8bitのD-1 VTR用ビットレート 143Mbit/s。そのあとに同じく525iだけどコンポジットのD-2 VTRが127Mbit/sで出て、一気に放送局、編集スタジオで普及。現在はハイビジョン化を経て1.5G、3G、6G、12Gのハイビットレートでの伝送に至る。ちなみに4:2:2 8bitなら、1.5G=1080p30、3G=p60、6G=2160p30、12G-SDIでは2160p60と、ビットレート→解像度&フレームレートのイメージが成り立つけど、10bitや12bitになったり4:4:4になったりと色情報の情報量を上げれば必ずしも成り立たなくなるので注意。
また、SDIは「シリアルデジタルインターフェース」の略、「シリアル」があれば「パラレル」もあったわけで、D-Sub24pinのケーブルで50mまで取り回し可能なパラレルインターフェースが最初にあり、そのパラレルデジタル信号を時間軸方向に並べて伝送効率を上げたのがSDIの始まり。パラレルではアンシラリーデータ(映像表示以外の情報伝送領域)が伝送できなかったが、SDIになってマルチチャンネルオーディオの多重が可能になったことも普及に拍車をかけた。
D-1、D-2くらいまでは3C-2Vのケーブルでもよかったけど、ハイビジョン以降の伝送には5C-FB以上の性能の同軸ケーブルを強くお勧めします。AES/EBU:こちらは音声のデジタル伝送規格。SDIにエンベデット(多重)されているマルチチャンネルのオーディオ信号の正体もこのAES/EBU。XLRキャノンやD-Subマルチケーブルでの伝送が行われる場合もあるけど、配線工事のしやすさや映像用分配器を流用できるなどの理由から同軸ケーブルで設営することが多い。1本のケーブルで2チャンネル音声が伝送できる。XLR110Ω⇔BNC75Ωのインピーダンス変換機を使うことで配線を構築。
ちなみに、デジタルオーディオモニターの後ろにRCAコネクターでついてる「SPDIF」ってデジタル入力ありますが、サンプリング周波数と同期関係が違うくらいでデジタル信号ほぼ同じなので、、AES/EBUの信号が聴けちゃったりする。
ワードクロック:映像信号に対して正規なクロック周波数に修正して他の機器と動作を同期するための基準信号がリファレンス信号だとすると、音声の基準信号はワードクロックです。48kHzのクロックパルスを持つ信号で、DAWやDSP、オーディオプレーヤー、デジタルミキサーなどのデジタル音響機器間に入力してそれぞれの出力信号をそろえることができます。AES/EBU同様にコンポジット映像用の分配器VDAで分配することができ、同軸ケーブルは3C-2Vで伝送できます。リファレンス信号のマスタージェネレータで同時に発生させる場合が多く、放送局のサテライトでは衛星アンテナを使ってGPS信号から高精度のワードクロック、リファレンス、タイムコードを生成する方法がとられています。(GPS=複数の人工衛星からの位置座標測量をもとに今いる地点の時間にのっとったクロックを生成する。軍事用途に使われるくらい正確無比な信号基準)
CoaXpress:これはどちらかというとマシンビジョンの世界で使われているデジタルインターフェース。FAのハイスピードカメラの信号を非圧縮で伝送でき、バリアブルフレームレートやピクセル単位の解像度も柔軟に変更可能。映像、音声、コントロールのみならず電源の伝送も行う。現在CXP-12(12.5Gb/s)4本をリンクして50Gb/sの伝送が可能で、これは10bit 8192×5468を52.2フレーム伝送できるスペックを持っています。
ざっとこんなもんでしょうか。他にも同軸ケーブルで伝送している信号があるかもしれません。
コネクターの形
そして、これまで同軸といえばBNCコネクターでかっちりロックして、というのが大半でしたが、ここにきて、もっと小型のコネクターで接続する機材が増えてきました。これは、映像機材自体が小型化、高集積密度化して少ない面積に多くのコネクターを並べる必要が出てきたからです。例えば、6RUのフレームの筐体に64×64のルーターモジュール3枚と32×32のモジュール1枚を入れて224×224のSDIルーターを構築したりしてしまいます。
小型化のメリットはCPUが高密度化して消費電力が抑えられ、部品点数が減ってコストダウン、実装スペースが重要視される中継車などへの採用など多くあります。その実現のため、以下の2種類のコネクターが商品化されました。
DIN 1.0/2.3
直径7.9mmでプッシュ・プル式(押し込むだけでロックし外周リングを引くと外れる)6G-SDIまでの帯域に対応が可能。
DINはドイツ工業規格の名称で、60代のオーディオマニアなら「DIN丸形コネクター」になじみあるかもしれません。オーディオアンプのテープレコーダー入出力によく使われていました。
DIN 1.0/2.3はブラックマジックデザインの製品では2015年発売のVideo AssistやMicro Studio Camera 4Kに採用されていました。
マイクロBNC / HD-BNC
直径7.75mmでバヨネット式(ガイドピンに切り込みを合わせて差し込み半周時計回しに回してロック)12G-SDIに対応するにはこちらのコネクター。
カナレの呼称は「マイクロBNC」だが、北米のメーカーでは「HD-BNC」(アンフェノールの商標)と呼ばれています。
ブラックマジックデザインの製品ではMicro Studio Camera 4K G2やDeckLink 8K Pro Miniなど、12G-SDI対応の製品に使われています。
これらのコネクターに使用できるケーブルの太さは3.3CUHDが限界で、5m以上伸ばすのは躊躇われます。できればパッチ版を経由することで太いケーブルに連結したのち伸ばしたいところです。
ライブ配信の界隈ではまだまだHDMIが主流かもしれません。しかし、ブラックマジックデザインをはじめとしてSDIを使った機種が導入しやすい状況になってきて、配線に高い信頼性とある程度長い距離への対応が可能になってきました。機種によって種類が増えてきた同軸ケーブル。用途に合わせて適切な性能のケーブルを使いましょう。