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配信機材のリファレンス入力というものは?

先日、松井隆幸さんのYouTubeLiveに出演させていただき、私が携わっているライブイベント配信の背景についてお話しさせていただきました。

YouTube 松井のライブ配信ノウハウch「ライブ振り返りLive」

私がどうしてライブイベントの配信をしているのか? 使っている機材は? 配信やコミュニティの楽しさなど、楽しくお話させていただき、充実した2時間弱でした(話しすぎ)

この中でマトリクススイッチャーと言う機材の話になり、それに伴った「リファレンス入力」と言うものの話になりました。この時、私はリファレンス入力の事について話す充分な準備がなかったので、中途半端な説明になってしまったと思います。そこで、リファレンス入力について少し掘り下げてみたいと思います。

まず、リファレンス入力のある機材、ない機材

そもそも、私の持っている機材の中でもリファレンス入力を備えている機材、ない機材があり、備えている機材でもそこに何も入力しなくても機材は正常に動作してしまいます。名称・表記も「GenLock」「REF」「リファレンス」「SYNC」「VBS」「BB」など多種多様です。ほとんどはBNCコネクターで、主に業務用・放送用の映像機器についています。民生機についていることはほとんどありません。用途によってついていたりいなかったりするので、ついているから高価で多機能と言うわけでもありません。

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リファレンス入力のない機材の例:tvONE CORIOmaster2

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リファレンス入力のある機材の例:IO Industries 4KSDI-Mini

一体何をするための物なの?

リファレンス入力を使った時の機器の作用も、機器それぞれで色々ありますが、多くの場合、機材はリファレンス入力に入力された同期信号に対し、出力段(出力コネクターの手前の回路)のバッファメモリーを同調させ、基準信号に揃えたタイミングで信号を出力することができます。

その昔、テレビの多くがまだブラウン管だった頃を思い浮かべてください。ブラウン管が画面を描写するためには、画面の内側にある蛍光体を電子線で撃ち抜くことで発光させるので、電子線は上から順番に525回(NTSC SD解像度)画面を走査する必要があります(インターレースはとりあえず置いといて)525回走査すると1フレームが完成するので、これを30回繰り返すと1秒の映像が出来上がります。

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放送波が映像信号を伝送する際、電波は「面」で映像を送るのではなく、この525本の走査線を横に一本に繋いだ「線」の情報で送ります。機器間の信号のやり取りも基本は同じこと。最も馴染みのあるアナログコンポジット(黄色いピンプラグのケーブルで繋ぐ映像伝送の形式ね)も、こうやって伝送していると考えると、横にながーく繋いだ情報の「どこが525本の始まりか」と「どこが終わりか」をきちんと示しておく必要があります。

525本の走査線のうち、実際に映像が描かれているのは480本。残り45本はブランキングといい映像情報以外のタイミング情報やユーザービットが伝送されています。ビデオスイッチャーが映像入力AとBを切り替えるには、このブランキング内で行われる必要があり、そうでないと映像描写の途中で切り替えることになって、映像が乱れてしまいます。(物理的に接点の切り替えで映像を切り替える、いわゆる「セレクター」はこの機能がない)
つまり、映像をスイッチングするためには、映像入力AとB、そして切り替える仕組み「スイッチングプロセス」が全てブランキングのタイミングを揃える必要があるのです。

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同期信号発生機により出力され、リファレンス入力端子に入力された同じタイミングの同期信号に倣って、信号とシステムを同期させることで、全てのシステムのタイミングを管理し、ブランキングスイッチが可能になります。

私のATEMにはリファレンス入力ないけど...

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ATEM Miniシリーズにはリファレンス入力端子がありません。おそらく皆さんがATEMに接続しているビデオカメラやパソコンにもやはりありません。しかし、スイッチングはノイズなく綺麗に行われています。なぜこんなことができるのでしょう。ATEM Miniの設計図を持っているわけではないので想像ですが、おそらくこんな感じです。

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ATEM内部に同期信号発生器を持って、入力してきた信号のタイミングを、まずその同期信号にバッファーで揃えてしまいます。映像AとBは最大1フレーム分ずれる可能性があるので、バッファーは1フレーム必ず必要。この1フレームの中で60i→60pなどのフレームレート変換、720→1080などの解像度変換を処理してしまい、全部信号が整ったところでスイッチングプロセスを行います。
この方式は、外部に同期信号発生機が必要でないため、システム全体がコンパクトになるのと、変換を伴うので多様な信号に対応可能なメリットがあります。デメリットとしては、必ず1フレーム以上の遅延が、機器1台あたり通過するごとに発生するため、複数の機材を組み合わせる大規模なシステムでは使用できない点があります。その為、1台の機器に多くの機能を求めなくてはなりません。また、必ず通るバッファメモリー=フレームシンクロナイザーと言いますが、これの性能次第で画質劣化の可能性があります。

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こんなシステムになっちゃったら、果たして最終出力はどの位遅延するの?ってなっちゃう

一方で、外部同期によるリファレンス入力を使用したシステムでは、トータルの遅延を少なく、単機能の機材の組み合わせによるシステム構築を行うことができる為、大規模なシステム構築に向いています。タイミングの管理も波形モニター上で同期信号と比較して行える為、知識は必要ですがより厳密に行えます。そして、同期信号さえジッター(信号のタイミングの揺らぎ)がなければ全てのシステムはNTSCの規格に沿った出力を出す為、厳密な管理を持って運用する放送局などでは、外部同期は必須です。

他にもある、リファレンス入力のない機材

スイッチャー以外の機材では、放送用機材でもリファレンス入力のない機材はあります。例えば、レコーダーやコンバーターなどです。
これらの機材は、入力信号の持っているタイミングを基準に機能します。その為、出力タイミングを同期信号に合わせたり、出力をジッターのない規格基準に合わせることが難しく、入力信号の精度がそのまま出力に反映されてしまいます。また、入力信号がない時点では正常な出力を得られません。その為、こう言った機材の後には、ATEMのような入力にフレームシンクロナイザーを持つ機材か、単体のフレームシンクロナイザーを経由する必要があります。

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ローランドのVC-1は、フォーマット変換したりディレイしたりと言った「いろんなことができる便利機材」のように思われていますが、本来、FS(フレームシンクロナイザー)はこのような用途で使われます。

同期信号の種類とタイムコード、そして新たな技術

同期に使用される同期信号は、実はいろいろな種類がありますが(H-SYNCやV-SYNC、10Hzパルス、音声用のワードクロックなど)映像機器で使用されるのは主にブラックバーストと3値シンクです。ブラックバーストはその名の通り黒画面のコンポジット信号で、30年くらい前は7.5% IREの、少し浮いた黒信号が使われていましたが、現在は0% IREのアナログ信号です。
3値シンクはフレームレートがHD規格、1080i59.94や23.98pに準じた、HDのアナログ信号です。23.98p動作の機材には1080p23.98の3値シンク、1080p29.97動作の機材には1080p29.97の3値シンクが必要ですが、放送用機材の多くは1080i59.94動作のため、フレームレートが等しいブラックバースト信号が使用できる場合も多いです。両方ともアナログ信号のため、アナログコンポジット用の分配器で各機器に振り分けることができます。

よく、「同期信号」というと、「タイムコード」のことと思われる方もいらっしゃいますが、タイムコードは1/30秒の単位で、フレームの絶対値番号を示すもの。ラインレベルでの管理をする同期信号とは異なるものです。ただし、両者の間には相関関係がありますので、放送局で使用されている同期信号発生器には、その同期信号に沿ったタイムコードを、日本の標準時で発生させる機能を持ったものもあります。

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Evertz 5601MSC マスターシンクジェネレーター / マスタークロックシステム

この、絶対時間軸の指標である「タイムコード」=「クロック」と、映像の基準を司る「同期信号」の相関関係は、放送機器の接続方法が「VIDEO」から「IP」に変化してきた昨今、さらに深いものになってきました。IPの環境下でアナログの同期信号をそのままでは受け渡しできないため、今までのタイムコードと同期信号の二本立ての伝送は行わず、クロックが歩進した瞬間をフレームの頭と厳密に規定し、そこから同期信号を導き出す方法に切り替わったのです。この為、クロックの精度はより精密さを求められ、厳密になりましたが、これはコードとしてIPのパケットに乗せて伝送することができます。Precision Time Protocol(PTP)の採用です。

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Evertz 5700MSC-IP IPネットワークグランドマスター

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IO Industries Volucam / マルチフォーマット可変フレームレートビデオカメラ

リファレンス入力にまつわる同期信号は、放送局での運用には不可欠ですが、ライブ配信、動画制作といった現場では滅多に使用しないものかもしれません。しかし、放送局がIPによる伝送方法を採用し、一方でライブ配信を運用するにあたり放送機器に近い機材を使用するようになった現在、その垣根はかなり低いものになってきました。
同期信号についてもいずれ運用する時が来るかもしれません。すぐに使えなくても理屈を理解しておくことは、その時のための準備として備えておいたほうがいいかもしれません。

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