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鬼怒無月インタビュー#2

Bondage Fruitの19年ぶりとなる7thアルバム『Bondage Fruit VII』が2024年1月25日に発売されました。リリースを受けて鬼怒無月さんに行ったインタビューの中編です。

こちらの記事を単独で読んでいただいても問題ありませんが、お時間がありましたら前編からお読みいただけたら、より一層理解が深まると思います。

今回は『Bondage Fruit VII』について伺ったお話を記事にしております。インタビューにあたって多数のライブレポートを掲載している老舗の個人サイト「TAKE's Homepage」を参照しました。

そもそも私が鬼怒無月さんの音楽を聞くきっかけが「TAKE's Homepage」でした。ここで改めて感謝の意を示したいと思います。


レコーディングについて

――レコーディングは8月18、19、20日に八ヶ岳星と虹レコーディングスタジオで行われました。これは合宿形式でのレコーディングということですか?

鬼怒:そうですね。

――合宿形式でレコーディングしようと思ったのはなぜですか?

鬼怒:それは勝井祐二くんが今回エンジニアの内田(直之)さんを紹介してくれて、しかも星と虹レコーディングスタジオのオーナーの藤森(義昭)先生とも仲が良かったんで、それで、そういう(合宿)形式でやろう、やったら楽しいんじゃないかっていう話になったんですよ。

――COILの『ROCK ‘N’ ROLL』(2022年)やBondage Fruitの過去のアルバムの多くがGOK SOUND吉祥寺スタジオで録音されました。

鬼怒:GOK SOUNDは吉祥寺の店舗を閉めてしまったんですよ。『ROCK ‘N’ ROLL』が(GOK SOUND吉祥寺スタジオでレコーディングされた)最後くらいだと思います。

――もしGOK SOUND吉祥寺スタジオが今も続いていたら、Bondage FruitのアルバムもGOK SOUND吉祥寺スタジオで録音しましたか?

鬼怒:そう思いますね。慣れてますし。

――GOK SOUND吉祥寺スタジオが営業終了されて、それでどこでレコーディングしようかという話になったときに、勝井さんから内田直之さんを紹介されたんですね。

鬼怒:そうですね。

――勝井さんは内田直之さんとライブエンジニアという形でよく共演されています。鬼怒さんは初対面だったのですか?

鬼怒:僕は初対面です。一度内田さんのスタジオにお邪魔してお話をして、この人はすばらしい人だなと思って。で、改めてちゃんとお願いしました。

――八ヶ岳星と虹レコーディングスタジオと内田直之さんの間につながりはあるのですか?

鬼怒:直接はなかったかな。僕は数年前に梅津和時 KIKI BANDでレコーディングをしたことがあるんです。『Coyote』(2015年)というアルバムのレコーディングです。そのときはKIKI BANDのレコーディングエンジニアだったモーキー(Motoki “Moky” Tanizawa)くんが星と虹レコーディングスタジオと仲が良くて、それでモーキーくんの推薦でそのスタジオになったんですね。

――GOK SOUND吉祥寺スタジオでCOILの『ROCK ‘N’ ROLL』(2022年)をレコーディングしたときはアナログレコーディングでした。

鬼怒:いわゆるテープですね。

――今回の星と虹レコーディングスタジオではどういったレコーディング方式だったのですか?

鬼怒:これは普通にPro Toolsです。

――レコーディングは基本的にはバンド全員で演奏する形式なのですか?

鬼怒:いわゆる一発録りです。一発録りで(後で)ダビングなり直しなり。

――一発録りのレコーディングで何テイクぐらい録ったのですか?

鬼怒:曲によりますね、もちろん。ワンテイクでOKだった曲もあったし、3テイクぐらい重ねた曲もあったしっていう感じですかね。

――Facebookに岡部さんのパーカッションをオーバーダビングしたと書かれてましたが、他にどんなところでオーバーダビングしたのですか?ギターが2本聞こえるところはもちろんオーバーダビングしていると思うのですが。

鬼怒:そういうことですね。

――それはアレンジ上、ギターが2本あったほうがいいみたいな?

鬼怒:そうですね。例えば「Cypress」のハモリギターとか(事前に)考えていましたけれども、その場で思いついたものもあります。

――ミックスも内田直之さんがやってらっしゃいます。ミックスについて鬼怒さんからこういう風にしてほしいという提案はあったのですか?

鬼怒:いやもうおまかせしますと。基本的には3バージョンぐらい作ってもらった曲もあるんですけれども、ほぼ最初のものでOKになったかな。

――マスタリングはStudio Chatriの田中三一さんです。どういう経緯で田中三一さんにお願いすることになったのですか?

鬼怒:これは内田さんの方から、ぜひ(田中三一さんに)お願いしたいということでした。

――鬼怒さんは田中三一さんとは面識はなかったということですか?

鬼怒:僕はないですね。勝井くんは(面識が)あった。僕はちゃんと存じ上げなかったんですけど、本当にもうすばらしい日本の重鎮の方だそうです。

収録曲の選定について

――収録曲についてお聞きします。前作から19年の間に色々な曲ができたわけですが、どの曲をアルバムに収録するかどうやって決めたのですか?

鬼怒:19年間(ライブで)やり続けていた曲ですね。

――それはライブで「この曲は次回もやろう」「この曲はもういいかな」という判断の積み重ねということですか?

鬼怒:作ってなんともならなかった曲もありますし。

――アルバムに収録されたのは、ライブで演奏を続けてきてアレンジやアンサンブルが練られている曲ということですか?

鬼怒:そうですね。そういうことです。

アルバムジャケットについて

――ジャケットを及川キーダさんにお願いした経緯についてお話を聞かせてください。

鬼怒:及川キーダさんは昔からの仲間なんですけども。さがゆきさんのアルバム『Fairy's Fable』(1995年)のジャケットっていうのは及川キーダさんなんですよ。

岡部さんが参加しているザ・スリルっていうバンドのジャケットを及川キーダさんが担当しているのを見て「これ誰?」って言ったら「いや、これキーダだよ」って言われて。それでキーダに任せたい。

――それで及川キーダさんに連絡をとったんですね。

鬼怒:はい。快諾してくれて。いい作品で。

――このジャケットを描いていただくにあたって、録音したものは聞いてもらったんですか?

鬼怒:聞いてもらいましたよ。もちろん。

――鬼怒さんからどういう絵にしてほしいというオーダーはあったのですか?

鬼怒:いや。もう好きにやってくれと。

――音楽を聞いて感じたものを表現してもらったのですか?

鬼怒:というか、キーダの絵が気に入ったからやってもらうから。キーダ好きにやって。派手なのがいいってぐらいは言ったと思います。

――ほとんどおまかせで。

鬼怒:おまかせで。

――この絵が届いて、鬼怒さんのファーストインプレッションは?

鬼怒:もうすばらしいと。

――及川キーダさんとの間でお話はあったのですか?これはこういう絵なんだよみたいな。

鬼怒:僕の頭の中っていうのもあるみたいです。

――高層ビルがあって、飛行機が飛んでいて、ミサイルが落ちていて、一方ではピラミッドがあって、ラクダに乗っている人がいる。

鬼怒:キーダが聞いた印象なんでしょうね。Bondage Fruitというものに対する。

「蒼い機械」について

――「蒼い機械」が今回のアルバム収録曲で一番新しい曲です。

鬼怒:一番新しいです。それこそコロナ禍で書いた曲ですね。コロナ禍中だったので、ライブも本当にままならずみたいな状況で。

――ライブのMCで「蒼い機械」を曲紹介するときに、曲を書いていた頃にThe Whoをよく聞いていてThe Whoの影響があると仰っていました。

鬼怒:「Baba O’Riley」まんまだって言っちゃまんまなんですけど。それは「Baba O’Riley」を意識したわけじゃなくて、The Whoのビート感。

僕は傾向としてどうしても曲をひねりすぎちゃう傾向があるんで、例えばトリッキーなリズムとかトリッキーなアンサンブルとか、これは誰もやってないだろうみたいな。そういうことをあまり考えないで作ったんですよ。本当にビートのかっこよさだけでいけないか。

――The Whoの特にビートに影響されたんですね。

鬼怒:そうですね。The Whoを聞いたときに感じる高揚感みたいなものを再現したい。

イントロのパターンとかは僕がBondage Fruitの曲を書くときのティピカル(典型的)な感じのイントロなんだけど、「Baba O’Riley」っぽいといえば「Baba O’Riley」っぽいし。それはしょうがないなっていう。

――イントロのヴィブラフォンはかわいらしいメロディーですよね。

鬼怒:そうかもしれないですね。

――ピート・タウンゼントのギターを意識したわけではないんですか?

鬼怒:あっ、でもね、意識してますよ。自分なりに。

――僕が聞いた印象としてはそこまでThe Whoでもない。Bondage Fruitの音になってるんだなって。

鬼怒:まぁ、そうですね。そう感じてもらえれば。

――The Beatlesっぽい曲みたいなのがあるじゃないですか。パスティーシュじゃないですけど、スタイルを完全に模倣する。ああいうのではないですよね。

鬼怒:そうですね。

――The Whoの音楽のエッセンスをあくまでBondage Fruitの音楽で表現した。

鬼怒:自分のギタープレイとしてはThe Rolling Stonesなんですよ。ストーンズのキース・リチャーズのリズムギターっていうのが僕はすごく好きで。よく聞くと僕(のギター)と勝井くんのヴァイオリンがキース(・リチャーズ)とロン・ウッドの関係みたいな感じになってたりするんですよ。The Whoのブームが去ってからThe Rolling Stonesをよく聞いていて、かっこいいなぁと思って。

――作曲したときはThe Whoの影響が大きかったけれど、演奏するうちにThe Rolling Stonesの要素も入ってきたと。

鬼怒:要素っていうか、リズムギターのアイデアというのは(The Rolling Stonesの影響が)結構ありますね。いわゆるリズムが食っている人と食ってない人がいる、それがぶつかるっていうだけといえばだけなんですけど。基本的には8分音符の組み合わせだけで。そういうストーンズのリズム・アンサンブルというのがすごく好きで。あれはそういう影響があります。

――「蒼い機械」っていうタイトルはどこから出てきたんですか?

鬼怒:思いついた言葉ですね。

――鬼怒さんの頭の中にパッと出てきた。

鬼怒:ええ。

――特に意味があってとかではなく?

鬼怒:特に意味はないです。

「森の掟」について

――Bondage Fruitとしては2010年2月26日の新宿ピットインが初演です。「TAKE’s homepage」によると2007年2月に高円寺ペンギンハウスで行われたYaeさん、鬼怒さん、大坪さんのトリオで演奏されたことがあったそうです。

鬼怒:そうなんだ!……あぁ、でもそうかもしれないです。あれはなんだろう、瞬間的に思いついたフレーズを譜面に書き留めた気がします。

――この曲はもともとYaeさんのボーカリゼ―ションを想定して書いたのですか?

鬼怒:そうかもしれませんね。

――わりとワールドミュージックというか、ワールドミュージックという言葉も最近使いませんが……

鬼怒:ざっくり言うとそんな感じですね。

――日本人がイメージする「エスニック」というか異国情緒を感じるメロディーです。

鬼怒:あんまり深く考えてないかな。自分としてはいい曲だなと思います。

――「森の掟」というタイトルは岡本太郎さんの絵からとったと聞きました。どうしてこのタイトルになったのですか?

鬼怒:(岡本)太郎さんの画集を見てて、あっ、このタイトルはいただこう。

――「森の掟」はジッパーのついたオレンジ色のクジラみたいな生き物が描かれています。この絵がお好きなんですか?

鬼怒:はい。

「振り子」について

――「振り子」は2010年11月2日に晴れたら空に豆まいてで初演されました。仮タイトルが「10/30」でした。この曲も元々はYaeさんが入った編成で演奏されていました。

鬼怒:そうかもしれないですね。メロディックな曲を作ろうと思って、イントロとかはBondage Fruitらしい感じで、どう作っていったのか……たぶんイントロから作っていったような気がしますね。典型的なBondage Fruitらしい曲で。

――この曲のタイトルはどうして「振り子」になったんですか?

鬼怒:たぶん(マックス・)エルンストの影響だったような気がするんです。ドイツの画家です。

――「振り子」っていうタイトルの絵があるんですか?

鬼怒:「振り子の起源」か。この絵からイメージしたわけではなくてエルンストがすごく好きで。「振り子」っていう言葉もなんかいいなと思って。

――もともと絵のイメージがあったというわけではなくて。

鬼怒:ではないです。後付けですね。

マックス・エルンスト「振り子の起源」(1926年、宮崎県立美術館所蔵)

「黒い生き物」について

――初演が2011年2月16日に新宿ピットインで行われた鬼怒無月3daysです。Yaeさん入りの編成でライブを行っていた時期ですが、この曲は初演からYaeさん入りではないですよね。

鬼怒:あれはやっぱりインストゥルメンタルとして書いた。ものすごくざっくり言うと、僕がすごく好きだった1980年代のジェームス・ブラッド・ウルマーとか、ニューヨークのロフトシーンのジャズ、似ても似つかないものだと思うんですけども、そういう感じ。あの手の曲はBondage Fruitにはあって『Bondage Fruit IV』に入っている「Minus One」っていう曲とか。

――「TAKE’s homepage」によると、この曲は初演のときのMCで「動物の名前のタイトルにしたい」と仰っていたらしいんですよ。

鬼怒:あぁ、そうなんだ。

――結果的に「黒い生き物」というタイトルになってまして、これも岡本太郎さんの作品のタイトルです。

鬼怒:そうですね。

――これも画集を見てこのタイトルがいいと思ったのですか?

鬼怒:そうですね。

――この曲はどういったところが「黒い生き物」なんですか?

鬼怒:タイトルが気に入ったんです。

――僕の中では「黒い生き物」というタイトルから黒豹のような黒いネコ科の動物をイメージしました。

鬼怒:そこらへんは聞いた人が感じていただければ。そんなに音楽以上のイメージっていうものを僕は考えて曲を作るっていうことがまずないので。

――何かを表現するために曲を作るわけではなくて。

鬼怒:音楽を作るために音楽を作っているっていう感じです。こういうものを表現したいっていうのはないですね。結果的に「これは海っぽい曲だな」とか自分が思うこともありますけども。基本的には何かを表現したいと思って、曲を作るってことはないかな。ものすごく心動かされることがあって、それで曲を作ったってことはありますけれど。具体的に海を表現したいとかそういうのはないですね。

「Caminante」について

――これは鬼怒さんのソロアルバム『Wild Life』(2005年)に収録されている曲です。もともとはCOILで演奏していた曲でいいのでしょうか?

鬼怒:だと思いますね。モロッコの音楽とある種のエチオピアン・ジャズみたいな感じの合体っていうか。

――COILで演奏していた頃の仮タイトルは「アフロ」というタイトルでした。

鬼怒:そうかもしれないですね。よくご存知で。

――私が調べた限りでは、2004年7月7日、鬼怒さんのお誕生日にCOILで演奏したのが初演みたいでした。

鬼怒:感慨深いですね。

――モロッコの音楽ってどういう音楽なのですか?

鬼怒:ギナワ(Gnawa)っていう。一時期ギナワから派生したギナワ・フュージョンみたいなのがちょっと盛り上がった時期があって、たぶん今もどこかではやっていると思うんですけども。そういう音楽をすごく聞いてて。

――エチオピアのジャズっていうのはどういう音楽なのですか?

鬼怒:エチオピアのジャズっていうのは色々あって、有名なのは演歌のヨナ抜き音階のマイルス・デイヴィスみたいな。一時期、2000年代のはじめの頃に日本でも流行って。

僕が聞いたのはそれこそKIKI BANDでアフリカツアーをしたときに、ケニアに行ったときに、ケニアのエチオピアンタウンに食事をしに行ったんですよ。そこでかかっていた音楽が、お店の人に聞いたらエチオピアのトラディショナル・ミュージックだって言ってたんですけれども、それが非常におもしろくて。

電子オルガンのトリオでエチオピアのトラディショナル・ミュージックをやってたんで、結果としてSoft Machineみたいな感じに聞こえたんですよ。ヨナ抜き音階のエチオピアン・ジャズよりも、もうちょっとそっちのイメージなんですよ。実は。

――「Caminante」というタイトルはスペイン語で「通行人」「旅人」といった意味の言葉です。

鬼怒:それはもしかしたら『Wild Life』のプロデューサーの方が考えてくれたのかもしれない。

――『Wild Life』のプロデューサーはどういう方なんですか?

鬼怒:佐々(馨)さんという、レコード会社の方で、瀬木貴将くんの時代からのお付き合いです。

――この曲はBondage Fruitで初めて演奏したのが2009年2月6日の新宿PIT INNでのライブです。

鬼怒:あー、そっかそっか。いろいろ書いてはやめみたいなことが、1回だけやってやらなくなったりみたいなことが続いて。それで、これできるかなと思って持っていったような記憶があります。

――COILは現在活動していますが2006年に一度ラストライブをしています。この曲をBondage Fruitで初演した2009年はCOILは活動休止していました。それもあってBondage Fruitで取り上げようということもあったのでしょうか?

鬼怒:そうだと思います。自分としては気に入っていた曲なんで。

――この曲はベースのリフが核になっている曲ですよね。

鬼怒:Bondage FruitでやるとBondage Fruitならではのアンサンブルになっていると思います。

――COILのバージョンも『Wild Life』でレコーディングされていますが、それとはぜんぜん違うBondage Fruitの音になっています。

鬼怒:そうですね。

「Cypress」について

――『Bondage Fruit VI』の後にできた曲で、今のBondage Fruitの核になっている曲だと思います。

鬼怒:そうですね。僕もすごく気に入っている曲です。これは。

――この曲の初演は2009年4月20日の秋葉原CLUB GOODMANで私も聴きに行きました。当時「今日の新曲はすごくかっこよかった」と思った記憶があります。

鬼怒:ずっと自分のなかで追っているミニマルのアイデアから始まって、メロディーはスティングなんですよ。スティングのタイトル忘れちゃったんだけど、ちょっと不思議なエキゾチックなメロディーの曲があって、そのイメージなんですよね。

――ミニマルに始まってメロディーが入りキメがあってブレイクして高良久美子さんのソロから展開していきます。楽曲構成ははじめから決まってたのですか?

鬼怒:ほぼそうですね。決まっていたと思います。

――Bondage Fruitで演奏することを想定して書いた曲と。

鬼怒:この曲は他ではありえないですね。

――セッションでも演奏していません。

鬼怒:この曲はやってないですよね。今だったらやってみてもそれなりには面白いかもしれないですね。

――例えば弾きっぱなしバンドでとかですか?

鬼怒:「振り子」は(セッションで)やったことあるんですよ。それこそ「鬼怒無月弾きっぱなし」で。

――この曲はどうして「Cypress」というタイトルになったんですか?

鬼怒:これは糸杉。ゴッホの「糸杉」。

――ゴッホがお好きなんですか?

鬼怒:そうですね。

――ゴッホの絵と通じるものがこの曲にある?

鬼怒:ちょっとそんな気がします。

フィンセント・ファン・ゴッホ「糸杉と星の見える道」(1890年)

「Happy Bastard」について

――「Happy Bastard」はすごくポジティブな曲です。

鬼怒:これはたぶん、サックスの川嶋哲郎くんとデュオをやっていたときに書いた曲だと思います。

――COILでも演奏していましたけど、COILより川嶋さんとのデュオが先なんですね。

鬼怒:実はKIKI BANDのレコーディングに持っていって録るだけ録ったのですがバンドのカラーに合わないということでお蔵入りになってしまって、タイトルはそのときまで「Bastard」っていうタイトルだったのですがジョセフ・トランプが「Bastard」ってすごく悪い言葉だから「Happy Bastard」っていうのはどうだ?っていう。架空の英語の慣用句って感じですかね?"Fucking Good!!"みたいな。たぶん、そういうイメージだと思うんですよ。悪い言葉が転じて最高だぜっていうような。

――Badがかっこいい(=Cool)に近いニュアンスになるみたいな。

鬼怒:そうそうそう。「Happy Bastard」っていいタイトルだなって思って。

「Three Voices」について

――ボーナストラックとして「Three Voices」の再録音バージョンが収録されていますが、これはどうして収録したのですか?

鬼怒:「Three Voices」っていうのが、僕にとっても、本当にBondage Fruitらしいっていうか、今のBondage Fruitにつながる、ある種のミニマル的なアイデアというか、そういうものを初めて取り入れた曲なんです。

(譜面に)書かれた部分も決められたアンサンブルというのも当然あるんですけども、そこからもう毎回やるごとに自由にできるっていう自由度もありますし。それがBondage Fruitならでは、Bondage Fruitでやるからなんですけども。自分としても思い入れのある曲なので、もう1回ちょっと良いテイクを録りたいなと思って。

――19年間、ほぼ毎回ライブで「Three Voices」を演奏してきました。前作の収録曲ですけど、今のBondage Fruitの代表曲といっても過言ではない。

鬼怒:そうですね。代表曲。まぁ、これは聞いて欲しいな。

――『Bondage Fruit VI』収録バージョンに心残りがあったのですか?

鬼怒:前回のバージョンはクリックを使ってるんですよ。まだミニマルのパターンが安定しなかったんで、これは(クリックが)あったほうがいいかなと思って。あれはあれでいいんですけど、今回はクリックをぜんぜん使わなかったんで、ヨレヨレに揺れてるんですけども、それはそれでいいかなと思って。すごくいい演奏だと思います。

曲順について

――「Happy Bastard」はアンコールでよく演奏していますよね。

鬼怒:ええ、はい。

――こうやって曲順を振り返ってみると、ライブに近い流れでCDに収録されている気がします。

鬼怒:一日のライブっていうのは僕にとっては一枚のCDみたいなもので。実際にはもっと一曲一曲が長く引き伸ばされたりはするんですけれども。

最初は「Three Voices」を本編に入れようって話もあったんですけども。それもどうなのかっていう話で、結局最初の案通りボーナストラックにしようってことで。

――曲順はメンバーの皆さんで相談して決めたんですか?

鬼怒:僕がアウトラインを考えて、何回かやりとりをしてこの曲順になったと。

――あらためて曲順を見てみると1曲目が一番新しい曲。2~4曲目がYaeさんと活動していた2010~2011年の曲。5~7曲目が2009年にBondage Fruitのレパートリーに加わった曲。8曲目が「Three Voices」という流です。時代を遡る曲順になっているのはたまたまですか?

鬼怒:たまたまですね、それは。

――それよりも曲の流れを重視したんですね。

鬼怒:やっぱり曲の流れですね。

――ロックンロールで始まって色々な曲があって「Cypress」で最高潮に達してアンコールで「Happy Bastard」みたいなイメージなんでしょうか。

鬼怒:そうですね。いい曲順だと思います。

――ライブを聞いている感覚になります。

鬼怒:レコード世代なんでね。曲順は大事なんですよ。

»鬼怒無月インタビュー#3へ続く

Bondage Fruitのライブ情報

2024年5月4日(土・祝)
神田POLARIS
開場 19:30 / 開演 20:00
予約 4,500円 / 当日 5,000円(別途DRINK 700円)

2024年7月21日(日)
新宿PIT-INN
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 4,400円 / 当日 4,950円(1DRINK付)

ライブ情報は変更される可能性があります。必ずアーティストのウェブサイト、および会場のウェブサイトでご確認ください。

関連リンク

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勝井祐二 公式ウェブサイト

岡部洋一 公式ウェブサイト

及川キーダ 公式ウェブサイト