Radio Dinosaur #11
目は覚めていた
でも目を開けることは出来なかった
目を開けて、すべてが現実になってしまうのが怖かった
夢であってほしい
そう願っていても、彼女の笑顔、声、アイスクリーム屋での待ちぶせ、そしてトリガーに指をかけたあの瞬間
すべてがリアルにな感覚で残っていて夢とも思えない
もしもぼくがこの手で彼女を殺してしまったのだとしたら
もう、この世には彼女がいないのだとしたら
認めたくなくて、ぼくは目を開けることが出来なかった
時間の感覚がない
何時間そうしていたのだろうか、それとも何日そうしていたのだろうか、あるいはもっと何年も過ごしていたのかもしれない
長い長い時間が過ぎたように感じた
ここはどこだろう?ぼくの部屋だろうか?
物音ひとつしない
まぶたに映る感覚から、太陽が昇って沈ん登って沈んでを何度も繰り返してるような気がした
ぼくは今、何歳なんだろう
もうあの光景を思い出したくない
もしも目を開けることが出来たら別の世界だったらいい、そう思った
そしてぼくはまた眠った
ずっと眠っていたような気がする
いや、ずっと眠ったふりをしているんだ
気がついたら、母親がぼくを揺り起こしていた
「朝よ、起きなさい」そう言ってカーテンを開けた
ぼくは今、いくつなんだろうか?
ぼくはぼくのままでいいのだろうか?
何もかも、元に戻ったのだろうか?
じゃあ、彼女は?
「朝ごはんできてるわよ」母親が言う
ぼくはベッドから足を出した
足元を見ると、いつものパジャマのズボンだ
でも鏡を見るのが正直怖い
僕はもうおじさんなのかもしれない
それでも勇気を出して起きてみた
洗面所に行く途中、父親に会った「おはよう」
父親の印象はいつもと同じだ
まだ若い、ということはぼくはまだおじさんではないはずだ
洗面台の鏡に立ち、ぼくは勇気をふり絞って鏡を見た
変わっていない、何も変わっていない!
鏡にはいつものぼくの顔が映っていた
あれから何日経っていたのかがわからない
ぼくはリビングに行って、ソファーに置いてあった新聞を見た
日付は、あの日の翌日
ということは、あれからまだ1日しか経っていないのか
新聞を広げて、昨日の事件を探したけど出ていない
ラジオからはいつものように流れてくるDJの声と音楽
僕はコーヒーを飲んでいる父親に聞いた
「昨日の事件はどうなったの?町長から避難指示が出てたでしょ」
「事件ってなんだい、いつも通り平和だよ」父親はそっけなく言った
母親に同じように聞いたが、やっぱり答えは同じだった
もう何が何だかわからなくなった
ぼくは母親のいれてくれたカフェオレを飲みながら聞いた
「ねえ、お母さん、この町に最近知らない女の子が来てたよね」
「そうだったかしら?」
「昨日、教会の窓全部割れたよね」
「ええ?そんなこと新聞には書いてなかったわよ」
「お母さん、ぼくは昨日、女の子を殺したよね⁈」
ぼくはテーブルを叩いて叫んだ
コーヒーカップが揺れて、コーヒーが溢れた
父親も母親ははじめはびっくりしたような顔していたけど、そのうち顔を見合わせて
「寝ぼけているのか」「そうね」ふたりとも取りあわなかった
「それより、ほら。DJの素顔が新聞に掲載されてるよ」
父親がその記事が見えるように、新聞を折って渡してくれた
ぼくは1度、プールサイドでDJに会ったことがある
ピエロのように派手な衣装で、顔にはメイクをしていた
都会的で、どこか軽薄で流暢な話し方
ぼくは新聞の記事の写真を見た、息が止まった
それはあの時、教会にいたピエロ男だった
そして、その男の名は…
小学校の時、転校していった大嫌いなあいつの名前だった
でも、そんなことよりも
ぼくは記事の内容に釘づけになった
『実は、ぼくは小学校の頃まで、この町に住んでいたんです。当時は友達がなかなか出来なくて、いつも妹と遊んでいました。妹はひとつ違いで泳ぎが得意だったのでふざけてカエルとあだ名をつけました。妹は水車小屋で爬虫類のようなペットを飼っていました。そのペットが川に落ち流されてしまったのを助けるために、妹は川に飛び込みました。泳ぎは得意だったのに妹は溺れて亡くなってしまいました。ぼくはショックで一時的に失語症になり、父親がぼくの心痛を察し都会の学校に転校させました。今年、妹の10周忌なので妹の大好きだった音楽を全部この町中にかけてあげたかった、それでDJとしてここへ戻って来ました。夏休みが終わったら、また都会に帰りますが、将来は本格的にラジオ放送のDJやプロデューサーを目指したいと思っています』
ぼくは泣いた
全てを理解した
全ては新しい世界なんだ
ぼくがいた世界で、ぼくはトリガーをひいて、自分で世界をぶち壊した
そして新しい世界に行きたいと願った
でも、この世界には彼女はいない
いや、待てよ?
この世界が本物で、彼女に出会った世界が嘘なのか
もうわからない、わかりたくもなかった
夕方、ぼくはいつも通りレストランのアルバイトに行った
ラジオからはDJのジョーク、そしてセンスのいい音楽
いつもと変わらない光景
いやひとつだけ変わったことがある
DJの素顔の記事の話題が、いつもの常連客の噂話に加わったことだ
でも、もうそんなことはどうでもいい
レストランの閉店時間が近くなり、最後のお客さんが帰ったので、ぼくは閉店の支度をはじめた
表のテラス席の椅子を片付けていると、ぼくは背後から声をかけられた
「よう、久しぶりだね」
その声ですぐにわかった、あいつだ
ぼくは振りかえった。やつはメイクはしていなかったけど派手な衣装のままだった
「記事、読んだかい」彼は言った
「うん、読んだよ」それ以上会話が続かない
彼の顔をよく見てみた
どことなく瞳が彼女と似ていた
この世界の彼女は子どもの頃に死んでいる
でも、ぼくは大人になった彼女を知っている
「俺はさ、妹を助けたかったんだ。あいつあの変な爬虫類を大事にしていたからね。でも川で溺れて死んだ。俺は目の前で見ていたのに救えなかったんだ」
「俺がふざけて…」
彼の目に悔しそうな涙が溢れていた
「大丈夫か」ぼくは声をかけた
「いや、大丈夫だよ。知ってるか、あれプテラノドンって恐竜なんだよ」
「恐竜!?」さすがに驚いた
「本当かどうかは知らない。妹がそう言ってただけなんだ」
ぼくは、水車小屋で見たあのトカゲを思い出した
そういえば腕にコウモリの翼のような膜があった
そして…
思い出したくない、忌まわしい教会でのあの光景を同時に脳裏に浮かんだ
そうだったのか!ぼくはたった今気づいてしまった
あの悪魔のような生き物が窓からにゅうっと顔を出した瞬間を、バサバサと羽ばたきをして、ぼくを見つけた時の懐かしそうな目を!
心臓が止まったような気がした
そしてまた、あの真っ白な光が蘇ってきた
あの世界を壊したのは、紛れもなくぼくなんだ!
「そうだよ、でもあれは妹の幻想だよ。俺は妹の幻想に気づいていた。そこに君が現れていたことも」
心を覗いたかのように彼は言う。何を言っているんだろう、彼は?
「俺は妹の生きている世界をやり直したかった。この世界でも妹はあの爬虫類を守るのだろう、そして死ぬ。あれは妹に取り憑いた悪魔だよ。もう何度も繰り返してるんだ。今回もその前に俺が仕留めたかった」
あの時のことを言っているのか?あれは悪魔なんかじゃなかった。彼女が水車小屋で大切に育ててた、ぼくの友達だったんだ…!ああ、また違和感
「でも、君が代わりにあの恐竜を撃った、妹と一緒に」
やめてくれ、思い出したくないんだ!気づきたくもない!
ぼくは頭を抱えてうずくまった、吐きそうだった
「大丈夫だ、この世界の妹はもうとっくにいない。君はたまたま俺たちの幻想に入ってきただけなんだ。忘れていいんだよ」
彼は言った
「でも、俺は諦めない。また妹の幻想が現れたら、今度こそ俺はあいつを助けに行く」
彼女は彼の目の前で死んだ。彼は救われていない。
彼女はぼくの目の前で死んだ。そしてぼくも救われていない。
彼は、じゃあ、と言って立ち去ろうとした
その前に一度止まって、横顔で言った
「それと俺はさ。あの頃ほんとうに君と友だちになりたかったんだよ、君は気づいてくれなくてあんなことしたけど。ごめんな」
あの時、ぼくの思い出の中で大嫌いなあいつ
いま、思い出とは違うあいつが目の前にいる
何もかも思い出と違う…!また違和感だ
たった今、ぼくとあいつが融合したように感じた
悪魔を倒そうとしたのはあいつで、でも殺してしまったのはぼく…
どこまでが現実でどこまでが幻想なんだろうか
ぼくがおかしくなっただけなんだろうか
それとも、それらは同時に存在するのだろうか
「ぼくも、ぼくも一緒に行くよ」地面に涙がぼとぼと落ちた
彼女のいる世界を、彼女のいる未来を創造できるなら
そう言えたときには、彼はもう遠くを歩いていた
靴音がだんだんと遠ざかって行った
そして、今彼と話した記憶も、ぼくの中で少しずつ遠ざかっていった
to be continued
※これは私が高校生のころ、昼寝をしていて見た夢の中の物語です
主人公は高校生くらいの男の子で、レトロな世界観でした
この男の子の目線で夢物語は展開しました
へんな話しで今でもその光景を思い出せます
起きてすぐにメモをとり
これまた長い長い間かかって文章にまとめたのですが
それが今頃になって出て来たのでアップしてみました
乱文、散文はお許し下さい
しかも続きも気まぐれにアップするつもりなので合わせてお許し下さい^^;
【写真】菜嶌えちか LOMO LC-A+ クロスプロセス
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