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Radio Dinosaur #09


翌日、夕方からアルバイトだった

その前に彼女に会っておこうと思ったので、またアイスクリーム屋の前で待ちぶせることにした

チョコミントのアイスクリームを買って、この間会えたときと同じ、昼すぎくらいの時間に待ちぶせをしたが、今日はなかなか彼女は現れない

夏の日差しがジリジリと額を焼く
ぼくは3つ目のアイスクリームを注文しに行く

町のスピーカーからはDJの甲高い声が聞こえてくる
プールサイドからの中継なので熱狂する町のオーディエンスまでも聴こえてくる
そして時々流れてくるセンスの良い音楽

夏の青空と焼けつく日差しとスピーカーから流れてくる音楽
ぼくは一瞬、これがもう現実では無いような錯覚に囚われた

おそらくこの夏はみんながそう思ったに違いない
DJがこの町に来てからみんな変わってしまった

みんなが同じ方向を向いて共通の話題を持って意識を同じくする
それはいいことなのかもしれない

でもいつでも興味をそこに集中していないと、なんとなく変な奴と思われる疎外感がある

子供の頃のクラスの思い出に少し似てる
そうだ、この夏はあの時に少し似ているんだ
そしてあの女の子だけがぼくの気持ちをわかっている

スピーカーからはDJのジョーク
スピーカーの向こうからも町中からも笑いが起こる
ぼくはジョークの内容なんかより、その光景が少しおかしくてクスっと笑った


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その時、隣から彼女の声がした
「そのアイスクリーム何個目?」

しまった!どこから見られていたのかも知れない
ということは、待ちぶせもバレてるかも知れない
「まだ3個だよ」
ぼくはここで取り繕っても仕方がないので素直に言った
「もしかして、待たせちゃった?」彼女はアイスクリーム屋の方に歩いていった
「や、約束してたわけじゃないから」ぼくは少し照れかくしをしながら言ったけど、もう彼女は聞いちゃいなかった

彼女がストロベリーチーズケーキを買って戻ってきた

「昨日、ちょっと子供の頃のことを思い出してたんだ」
「へー」彼女はちょっと目を大きくして、興味ありそうにぼくの顔を覗きこむ
「どんな」
「ぼくが覚えているのは、ツインテールの君と、アイスクリームと、クラスにいた大嫌いなやつと、水車小屋と、レコード。それと何か大きいトカゲ?君トカゲを可愛がっていたよね」

さっきまで笑っていた彼女の顔が少し真顔になり、ちょっと悲しそうな表情した
「覚えててくれたんだ」

「うん。でもさ、肝心なことを覚えていないんだ。あのとき君、名前を教えてくれたよね? でもごめん、ぼくせっかく教えてもらったのに、どうしても思い出せないんだ。もう一度教えてくれないかな」

よし!いいぞ!この夏のミッション、彼女の名前を聞き出す!
いよいよミッション完了だ

彼女はまた、いつものいたずらっぽい笑顔に戻し
どうしようかな教えてあげようかな、とじらすのだった

ぼくはモノクロームの思い出の中の、彼女の口の動きを回想しようとしていた
もうすぐわかる気がする、何だったっけな、あだ名だったかな


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その時だった
町のスピーカーから、けたたましいサイレンが鳴った
マイク同士のハウリングが聞こえ、がちゃがちゃと機材を動かす音がスピーカーから流れてくる

プールサイドで実況中のDJが、急にいつもと違うこわばった声でアナウンスした
「ええ、ただいまニュースが入りました!この町の上空に未確認飛行物体が目撃されたようです!町長からの指示が出ています、直ちに帰宅し、なるべく外に出ないように警戒してください、繰り返します、直ちに自宅に避難し、指示があるまでなるべく外出を控え待機していてください」

そしてまた、プールサイドで動揺している観客の様子がスピーカーから流れ、マイクのスイッチを切ったのか、今度はキーンという音が鳴り響いた

何か危険が迫っている、町の住人たちはDJのアナウンスに従って、バタバタと荷物をまとめて移動を始めている
さっきまでのんびりしていた町が一変し、騒然としていた

ぼくはとっさに彼女を守らなくてはと思い、振り返った
彼女はベンチから立ち上がって、両手で顔を押さえて青ざめた顔で後ずさった

「大丈夫だ、ぼくと一緒にどこかに避難しよう!」
しかし彼女はそのまま後ずさりし踵を返し、走りだした!
「待って!」


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すでに町内は騒然としていた
逃げまどう住人、雑踏、ざわめき、クラクション、叫び声、砂ぼこり、また繰り返されるDJのアナウンス…

ぼくはごった返す町の中で、絶対に彼女を見失うまいと全力で追いかけた

彼女は走りながら時々空を見上げ、何かを確認しているようだった
みんなが逃げる方向と反対の方向へ逆走している
足が速い!
ぼくは必死で追いかけた

「待って、どこに行くの!」ぼくは雑踏に消されないように大きな声で叫んだ
彼女は一瞬、ぼくのことを振り返った
何かを言おうとしている

またあの時みたいに、彼女の口だけが動いていて
肝心な言葉が聞こえない

ダメだ、とにかく追いつかなくては
町中の人間が避難し、市街地にはもう誰もいなかった
ただ、砂ぼこりだけがさっきまでの喧騒の余韻を残していた
夏の日差しと、貼りつくような汗、肌に砂がまとわりつく

それでもぼくは彼女を追いかけて走った!
逆走している彼女と、彼女を追いかけるぼくの姿を見て、警察官が注意した

「危ないぞ、どこに行くんだ!こっちに戻れ!」

戻れるもんか!
彼女を置いていくわけにはいかない!とにかく追いかけるんだ!
ぼくは警察官の呼びかけを無視して、彼女を追いかけて走った

彼女が教会に入って行くのが見えた
ぼくはようやく追いつき、教会のまえで一旦足をとめて呼吸を整えた

見渡すと、町にはもう誰もいない
さっきまでいつも通りあった日常は今はもうなく、今あるのは砂埃だけ
まるでゴーストタウンになったかのように、町はシーンと静まり返っていた

ぼくは教会の重い扉を開けて中に入った
古いこの教会は、やや複雑な作りになっている
絡みあうように棟と棟がつながっている

彼女を探さなくては、どこにいるんだ
右なのか左なのか正面なのか

目を閉じて、聴覚だけに集中する
階段を駆け上がる彼女の靴音が響いてくる

上だ!




to be continued

※これは私が高校生のころ、昼寝をしていて見た夢の中の物語です
主人公は高校生くらいの男の子で、レトロな世界観でした
この男の子の目線で夢物語は展開しました
へんな話しで今でもその光景を思い出せます
起きてすぐにメモをとり
これまた長い長い間かかって文章にまとめたのですが
それが今頃になって出て来たのでアップしてみました
乱文、散文はお許し下さい
しかも続きも気まぐれにアップするつもりなので合わせてお許し下さい^^;
【写真】菜嶌えちか LOMO LC-A+ クロスプロセス







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