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分かる!心房細動の心電図

心房細動って、分かっているようで意外と迷ったりすることがあります。
特に最後の練習問題の心電図に騙されちゃいそうなので、皆さんもよく覚えておくようにしてください。

症例1 76歳 男性 入院時の心電図での異常

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あなたが働く病院で、76歳男性が手術を受けるため入院してきました。入院時の心電図を上に示します。病院通院歴はなく、不整脈を指摘されたのは初めてのようです。現在は症状はありません。
さて、どんな特徴を持った不整脈でしょうか?

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まずは、P波とQRS波の関係をみようと思うので、Ⅱ誘導をみてみましょう。P波はⅡ誘導が一番よく観察できるので、P波を評価するときは、まずⅡ誘導をみましょう。いつも見えるはずのP波が確認できません。また、よく見るとRR間隔(☆と☆の間隔)が一定ではないです。
QRS間隔は3㎜未満で特に心室内に伝導に異常はなさそうです。(QRS間隔の正常値は3㎜で、His束以下に伝導障害があると延長します。)

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次に特徴的なのは、V1でみられる「ゆらゆら揺れている基線」でしょうか?

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この心電図は何かというと、心房細動です。
心房細動は最も頻度の高い不整脈です。40歳以上の人で生涯で心房細動にかかる可能性は40%以上あると言われています。
心房細動の特徴を勉強していきましょう。

心房細動の心電図上の特徴

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心電図上の特徴はRR間隔が不整で、P波を確認することが出来ません。
QRS間隔は他の伝導障害を示す病態が存在しない限り(例えば右脚ブロックなど)、広くなることはないです(3mm(120ms)未満)。
一般的に頻拍性心房細動とは、HRが100bpmより早い場合に言われます。
一方、徐脈性心房細動はHR<60bpmです。
徐脈性心房細動は低体温、ジゴキシン中毒、薬剤、房室結節の障害などによって起こります。

また、心房細動の心電図で特徴的なのは、V1でみられる基線の揺れ(f波)です。V1でf波がみられるのは、V1が最も右心房に近いからです。V1以外ではf波がみられないこともあります。このf波をP波と間違えてしまうことがあるので気を付けてください。

さて、この心房細動で特徴的なf波は、どんな電気活動が心臓内で起こっていることを示しているのでしょうか?

f波って、何で起こるの?

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f波の説明に入る前に、まずは正常な伝導経路について復習しましょう。通常、心臓では洞房結節で電気信号が発生し、心房内を伝わり、房室結節に伝わります。その後、ヒス束にその電気信号が伝わり、最終的に心室に伝わって心室の収縮が起こります。

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しかし、心房細動では、この通常みられる刺激の伝わり方が起こりません。心房細動の原因については、すべて解明されているわけではないのですが、おおむね以下のことが起こっていると言われています。まず、左心房の肺静脈が流入する領域で、マイクロリエントリー(異常な電気が局所でぐるぐる回ること)によって電気信号が発生します。また、肺静脈流入部にはペースメーカー様の細胞があることが知られていて、そこで自律的にor刺激されて電気信号が発生します。

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その後、発生した異常な電気信号は、心房内で同じ場所をぐるぐる回る電気の通り道があるため、心房内でぐるぐる回り続けます(リエントリー回路)。この現象は左心房拡大があると、回路の出来る面積が単純に広くなるので、ぐるぐる回るのがさらに起こりやすくなります。

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その局所でぐるぐる回っている電気信号は、それぞれバラバラに電気信号を房室結節に伝えます。しかし、前の講義で伝えた通り、房室結節では心房がちゃんと収縮できるように電気信号をゆっくり伝える働きがあるため、バラバラにやってきた電気信号のうち一つを心室に伝えます。このバラバラに伝わる電気信号は一分間に350~700回ともいわれています。もし、房室結節がなかったら、ひどい頻脈で命にかかわってしまいますね。
ただ、この心室に電気信号を伝える頻度は規則的ではないため、不整脈が起こります。

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それではV1の誘導にもう一度帰ってみてみましょう。f波として基線の揺れにみえている波形は、心房内をぐるぐる回っている電気信号を示しています。
そして、時々出てくるR波(上の図ではS波 赤い矢印)は、房室結節によって心室に伝わることが許された電気信号を示しています。

こうやって病態から心房細動の心電図を考えると分かりやすいですね。

心房細動の原因

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心房細動は様々なことが原因で起こります。最も一般的なのは高血圧や弁膜症でしょうか?虚血性心疾患、心筋梗塞でも心房細動が起こることがあり注意が必要です。割と救急をやっていて遭遇することが多いのが、敗血症による新規の心房細動ですね。

心房細動が危険な理由

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心房細動って怖い病気のイメージがあると思うんですが、理由をしっていますか?別にあえて言う必要はないかもしれませんが、脳梗塞を起こすからなんですね。だいたい世界には3400万人くらいの人が心房細動にかかってて、アメリカやヨーロッパの中年の人は4人に1人は心房細動になってしまうそうです。新規の脳梗塞を起こす人はだいたい20~30%は心房細動と診断されます。

練習問題①

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心房細動の心電図上の特徴と一般的な知識に関して学んだところで、練習問題に入ってみましょう。
さて、あなたの働く救急外来に突然動悸を訴えて、46歳の男性が来院されました。高血圧の治療中で、昨晩はアルコールを友人とたくさん飲んだそうです。
さて、この不整脈はどんな不整脈でしょうか?

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では、P波とQRS波の関係を見るためにⅡ誘導をみてみましょう。明らかなP波は確認できません。RR間隔は星で示すように不規則な間隔です。間隔の狭いところでHR150くらいでしょうか?QRS間隔は狭いため、心室内の伝導障害はなさそうです。

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では、V1も見てみましょう。そうするとP波と間違えてしまいそうですが、基線がゆらゆら揺れています。

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ということで、この患者さんは発作性心房細動となります。
この方のように発作的に起こる心房細動のことを、発作性心房細動といい、動悸を訴えて来院することが多いです。救急で働いていると、こんな患者さんがよくやってくるんですよね。
この心電図で勉強が進んでいる方は、V5~V6でR波が高いことが目に付き、左室肥大も合併している可能性を考えると思います。確かに、Sokolov-Lyonの診断基準では(V1のS波+V5~6の高いR波>35㎜)というものがありますが、Ⅰ誘導、aVL誘導、V5誘導、V6誘導でストレインT型のST低下がみられていないため、心室肥大は心電図上は合併していないかなと思います。

練習問題②

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さて、次の練習問題に入りましょう。
次は検診で不整脈を指摘された男性が、あなたの働くクリニックにやってきました。症状はありません。さて、どんな不整脈でしょうか?

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今回もP波とQRS波との関係をみたいので、まずⅡ誘導をみてみましょう。よく目を凝らしてみても、P波を確認することが出来ません。RR間隔(☆☆間隔)は不規則です。QRS間隔は3㎜未満で、心室内に伝導障害はなさそうです。

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よし、心房細動かなと思って、V1を見てみると、今まで見てきたf波は見当たりません。うーん、悩ましいですね。

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この心電図は心房細動です。f波が確認できないため、迷ってしまったと思います。f波にも、いろいろなパターンがあるので、次にまとめてみましょう。

f波のパターンについて

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心房細動の心電図で特徴的なf波ですが、さまざまなバリエーションがあります。まず一番上の心電図が一般的なイメージで良いと思うんですよね。真ん中の心電図はf波がかなりはっきりとみえています。心房粗動の粗動波と間違えちゃう方もいると思いますが、RR間隔は不整で、粗動波のようにリズムも一定ではないので心房細動で良いと思います。また、あんまり頻度は多くないですが、今回の心電図のようにf波が全くみえない心房細動もあります。

ということで、今回の講義はいかがだったでしょうか?
次回も楽しみにしておいてください。


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