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海士町×観光防災×ブータン

海士町

島根県の隠岐にある海士町(あまちょう)をご存知でしょうか。
過疎化の課題に取り組んできている「まちづくり」の先進地域として知る人ぞ知る地域です。多くの移住者を迎え入れ、高校は島留学と呼ぶ県外からの生徒を受け入れ、過疎化を食い止め、島内の産品や自然・文化などの魅力を活かして、地域振興に取り組んでいます。

今回はその海士町で実施した活動について報告したいと思います。

JICA青年研修 ブータン

海士町はJICAと連携協定を結んでおり、JICAの職員2名が海士町役場に出向していました(2021年1月時点)。
そんな海士町は、ブータンから若い行政職員対象のJICA青年研修を実施していたのですが、2020年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響により、訪問による研修実施が叶わず、オンラインで遠隔での実施が計画されました。

大学生対象 プレ研修 

ブータンとの遠隔オンライン研修に先駆けて、まずは日本の大学生を対象にプレ研修を実施しました。海士町を何度もフィールド訪問している島根県立大学の教員と学生の皆さんに協力していただきました。

研修のテーマは「観光防災」 海士町は島ならではの特徴があり、例えば島へのアクセスは島根県の本土からフェリーか高速船などの海路であり、人の移動や物流はその運行に頼っています。そのような条件の下、災害時に、特に観光シーズンや島でのイベントで島外からの訪問者が増加しているときに、適切に対応できるのか、誰が何をすべきなのかなどの備えがされているのだろうかという疑問からこのテーマを扱うことにしました。

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PCM研修「観光防災」

研修ではPCM(プロジェクトサイクルマネジメント)手法という、JICAの技術協力プロジェクトの計画立案でも用いられる手法と情報収集のための調査方法を学びながら、それを使って活動提案にまとめました。

PCM手法では、当事者や実施者などが参加をして分析をして事業案を計画するのですが、今回は外部者である学生が取り組むということで、必要な情報を収集する必要があり、インタビューを関係者にしました。「観光防災」からより具体的な状況を想定して、「島にある県立高校のオープンキャンパス時の防災への取り組み」を題材としました。この高校のオープンキャンパスには、島の外からも多くの入学希望者やそのご家族が訪問し、海士町や隣の島に宿泊します。

情報収集の方法

研修では新型コロナ感染予防のために、学校などの現地訪問をすることができず、町役場の防災担当職員と県立高校のオープンキャンパス担当教員へのインタビューという限られた方法でしか情報収集できなかったのですが、参加した学生の多くが以前に海士町を数回訪問しており、地域の様子や住民との交流を経験しておりある程度の地域への理解はありましたし、「地域防災」については事前学習をしてきていました。

PCM計画立案研修の演習題材を、架空事例や参加者自身が関係者でない現場を取り扱うのは初めての試みでした。参加者の大学生のほとんどは海士町訪問するのは2回目以上であり、かつ1人は住民であったこともあり、海士町についての知見はゼロではないものの、いわゆる「外者」が、行政・関係機関に課題解決のための事業案を提案することが失礼ならないかという懸念も持ちつつ、講師としても緊張感を持って臨みました。このような条件での研修も、JICAから海士町への出向職員2人と県立大学の教員2人の皆さんの綿密な準備とフォローがあり、海士町関係者のご理解があったから実現したと思います。

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研修講師としての学び

講師としての学んだことは、必要な情報を得るためのインタビューの準備の支援、既知の情報や事前学習によるバイアスに気づくためのファシリテートが重要であるということでした。バイアスの例としては、
・コミュニティ内にフォーマルな自主避難組織が存在していないことが課題として認識されていたが、住民がお互いをよく知り、普段からコミュニケーションが取れている関係である。
・行政の食料備蓄が十分ではない、また住民啓発も積極的でないという現状について、島での生活は天候などにより本土からの物流が途絶えるリスクの備えがされており、各戸冷凍庫などが大容量、農産物などの備蓄が常にある。
・県立島前高校のイベント時の訪問者対応は魅力化財団と観光協会が主に担当しており、高校ではないことを、研修参加者は当初問題視していたが、役割分担が明確であり、それによりそれぞれの役目を全うできていることが明らかになった。

研修最後には、行政として、地域住民として、イベント主催者としてという、それぞれの立場で取り組むこと3つの活動が提案されました。

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海士町関係者の気づき

講師として、研修の題材と言えども、外部者が問題提起をして、課題解決の提案まですることを最後まで懸念はしていたのですが、海士町の関係者の方々には、今まであまり考えたことがなかった点、つまり災害時に訪問者や観光客に対して誰がどう対応するのかという視点に気づきがあったとの感想をいただきました。

次のステップ

さて、次のステップはブータンの防災や観光を担当する若い行政職員と海士町をオンラインでつないで、海士町の「観光防災」についての提案事業をブータン側の参加者が計画する研修を実施する予定です。
従来の現地を訪問することで学ぶという方法を遠隔研修では取れなくなり、日本で/から学ぶという視点を変えて、お互いの経験や知識を共有することで、双方にとっての発見や学びがある研修にしたいと思います。

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