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ラピノー選手引退 リスペクト溢れるNWSLチャンピオンシップ・ファイナル2023のテレビ中継

今シーズンで引退を宣言していたラピノー選手のラストゲームはNWSL(アメリカ女子プロサッカーリーグ)のチャンピオンシップ・ファイナル(決勝)という最高の舞台となった。所属チームのOLレインはラピノー選手のキャリアの最後を華々しく飾ることも目指して、ここまで勝ち進んできた。

しかし、そうは問屋が下さないのが性別に関係なくサッカー。ラピノー選手は試合の序盤にボールと無関係な場所で倒れピッチを去ることになった。アキレス腱を損傷したと見られる。プレー時間はわずかに3分、プレー機会はたったの1回だった。全く予想外の形でスタジアムはスタンディングオベーションに包まれ、2011年以降の世界の女子サッカーをリードしたレジェンドは、万雷の拍手を背に受けピッチを去った。

この試合で引退するレジェンドはもう一人いた。アリ・クリーガー選手だ。ラピノー選手と共にアメリカ女子代表としてピッチで戦いFIFA女子ワールドカップを二度制覇した(2015、2019)名ディフェンダー。この試合にNJ/NY ゴッサムFCの主将として出場した。アリ・クリーガー選手もラピノー選手と同じくジェンダー平等を強く訴え続けてきたサッカー界のリーダーだった。そして、最後の最後にNWSLチャンピオンシップを制覇した。その存在感は絶大でカメラの向こうに別格の雰囲気を醸し出していた。試合を終えると、カメラはアリ・クリーガー選手を映し出し、実況アナウンサーはその偉業を称えた。

アディショナルタイムで信じられない出来事からの大ピンチが生まれ大いに盛り上がった今シーズンのNWSLチャンピオンシップ・ファイナル。入場者数は25,011人。二人のレジェンドの明暗別れるフィナーレは、これから長きにわたり語り継がれていくだろう。

日本と全く違うCBSによる生中継に驚く

日本ではWEリーグがライブ配信の試行錯誤をしている。カメラの位置を変更、解説者と実況アナウンサーの起用も3シーズン目で変化が見られる。スポーツエンターテイメント大国のアメリカから学ぶことは多くありそうだ。

カメラワークが素晴らしく多彩な映像が届けられる。ピッチ全体を見せるカメラだけではなく、選手の表情やインパクトを伝えるカメラが複数の角度から選手を捉えている。それがスイッチングで取捨選択されて視聴者に届けられている。

特に、試合途中に挟み込まれるリプレーでその威力は発揮される。迫力満点、細かなカット割りでスピーディーに伝える。そして、リプレーの際は意図的に歓声の音量は大きくなり、好プレーの印象をさらに強める。これはプロレスのWWEでも取り入れられているスタイルだ。

そして、情報提供が丁寧だということに注目したい。例えば、選手交代があった際に、両チームの残りの選手交代枠がCGで表示される。交代選手に関してはレギュラーシーズンの出場記録や過去のチャンピオンシップファイナルの出場回数といった情報を提供する。日本で地上波が中継する場合は、選手のキャラクターに親しみを感じてもらうプライベートのプチ情報が表示されることが多い。その違いは、アスリートに対する尊敬の念とアスリートの社会的地位の高さにあるのだはないかと感じる。

リスペクト溢れる姿勢は表彰式に凝縮されていた

まず驚いたのは、プレゼンターで表彰式に登場したコミッショナーのジェシカ・バーマンさんの装い。襟にNWSL全チームのエンブレムをあしらったジャケットが素晴らしい。

そして、ピッチに立った一人ひとりの栄誉を讃えたことが強く印象に残った。審判団の表彰でも、選手の表彰でも、メダルが贈られるタイミングに合わせ、今、メダルが贈られている選手の氏名が場内アナウンスで読み上げられた。これは、日本の表彰式では見たことがない方法だった。

選手の歓喜を邪魔しないインタビューのタイミングも素晴らしい。日本でよく見られるのは、歓喜の輪に入れない主将と得点者のシーンだ。ピッチ上のチームメイトから離れインタビューを受けることが慣例だ。しかし、チャンピオンシップ・ファイナルは違った。試合終了から表彰式まで、選手は誰にも邪魔されることなく喜びを爆発させ続けていた。では、どのように選手の声を伝えたのか。それは、シンプルで、流れるような方法だった。

表彰台の上で選手全員にメダルが授与される。そこに登場するインタビュアーとコミッショナー。試合のMVPがコミッショナーから紹介される。インタビュアーがMVPの選手にインタビュー。次にインタビュアーが主将にインタビュー。そして、トロフィーがコミッショナーから主将に手渡され花火が上がりクライマックスへ。

常に選手が中心にいる表彰式だった。躍進し続けるNWSL。来シーズンは、また二つのチームが加わる予定だ。

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