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ショート・ターム

Short Term12
ショート・ターム(2013年) アメリカ合衆国

監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:ブリー・ラーソン、 ジョン・ギャラガー・Jr、 ラミ・マレック

おすすめ名作映画

様々な問題を抱えたティーンエイジャーのための、短期ケア施設、ショートターム。
実際にケアの現場を体験した監督による小説を基にして、映画化した作品。

短期グループホーム「ショート・ターム12」は、親子関係、虐待、自傷、非行などの問題を抱えているティーンエイジャーのための施設だ。
施設の支援者、グレイスは同僚のメイソンと恋愛関係にあるが、素直に心を打ち明けることができない。
新しく施設の職員となったネイトは驚きの連続の毎日だ。
メイスンは、メキシコ人の夫婦の養子で、大事に育てられた。グレイスはメイスンの家に招かれ、温かい雰囲気の中で、求婚をうけいれる。
妊娠したグレイスは、受診するが、医師に「今までの妊娠経験」について聞かれ動揺してしまう。
刑務所に服役中のグレイスの父親が、もうすぐ出所してくるからだ。
グレイスは、父親に性的虐待を受けて、過去に父親の子供を妊娠し、中絶した経験があるため、自分は子どもを産めないと悩んでいたのだ。
妊娠出産が、悩みとなってしまう女性がいるのは事実だ。

入所者は、毎日のように、問題を起こす。
わあ、ぎゃあ、うわーん、どたん、ガラガラガッシャン。バタバタ。
にぎやかきわまりない。
支援者は、追いかけまわし、探し回り、話を聞き、寄り添い、大忙しの毎日を送っている。
大変な仕事だが、グレイスの心の傷を癒してくれるのは、ケアしているティーンエイジャーたちだった。
支援者の若者たちも、みなそれぞれに問題を抱えて生きている。
支援しているグレイスたちも、ティーンエイジャーたちから、力をもらっていたのだ。

福祉関係で働いている社会福祉士、介護福祉士、保育士、心理士、看護師、OT、PT、STなどの人たちのなかには、想像もできないような、壮絶な体験をしてきた人がたくさんいる。
穏やかに、話を聞く態度や、落ち着いた、たたずまいの支援者の人たち。
すごい体験をしてきたからこそ、人に寄り添う力を身に着けてきたのだろう。
そしてそれを、表に出さないで、さりげなく、心づかいで示してくれる。
よるべない心を包み込む、やわらかさ、あたたかさ。

私はそのような人たちをたくさん見てきた。
過酷な仕事で、ともすれば、グレイスのように、自分の心を常に揺さぶられるような関わりを求められることも多い。
対人援助の仕事は、自分の心のありようを、突き付けられる仕事だ。
みんな、幸せになってほしいけど、そうもいかない。
虐待されている親の元に帰らなくてはならない子どももいる。
どうにもやりきれないことばかり。
大人の勝手で振り回される子どもたち。

つらいことばかりだけど、グレイスは心理療法を受け、メイスンと胎児のエコー写真をみるようになった。
少しずつだが、グレイスも幸せに近づいている。
なんとなくだけど、希望を感じさせてくれる映画。

その後、クレットン監督は、マーベルコミックス「シャン・チー/テン・リングスの伝説」を大ヒットさせた。
主演のブリー・ラーソンは、「ルーム」で、アカデミー主演女優賞をとり、同僚役のラミ・マレックは、「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役で、アカデミー主演男優賞を受賞している。

才能ある若い監督や俳優が、グーンと力を伸ばして、魅力ある映画が出来上がる奇跡の瞬間に立ち会ったような、幸福感が味わえる映画って、時々ある。(ギルバート・グレイプもそうだった。)
入所者のティーンエイジャーを演じた、若い才能も見逃せない。

幸せなひとときを持つことができた、忘れられない映画。


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