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お地蔵さんで待ち合わせ

私は、51歳の知的障害のある長女と暮らしている。
毎朝、長女をバス停に送り、また、日曜日には水泳カウンセリングの付き添いや、お買い物に一緒に出掛けたりする。

出かけるときは、長女が玄関から先に家を出て、私が家じゅうのカギをかけてから、台所口から外へ出る。
玄関を出る時、長女は必ず聞く。
「どこでまってたらいいの?」
そこで、私は答える。
「お地蔵さんで待ち合わせ。」

私の家を出たところには、桜並木に面して、お地蔵さんがたたずんでいる。
今の季節だと、桜の花が満開で、ピンクの雲に包まれたような柔らかい日差しがお地蔵さんを包み込み、ファンタジーの世界に迷い込んだかのようだ。

先に出た長女が、お地蔵さんに手を合わせている。
「何をお祈りしていたの?」と聞くと、
「おじぞうさんのてのまねをしていたの。」と答えた。
そう、そう、このお地蔵さんは両手を合わせている。

そして長女はもう一声。
「うわあ、たんぽぽ。」
道端には、ニホンタンポポが、鮮やかな黄色い花を咲かせている。
夜になったら寝てしまう花。

朝は元気がいいね。
「行ってらっしゃい。」
長女の乗ったバスを見送って、なんだか、絵本の一ページみたいな朝が始まった。


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