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単館系が好き:ベルギーワッフルの男

単館系映画などという言葉は、多分もう誰も使っていないだろう。
まだ20世紀のころ、私が好きな映画は、たいてい単館系だった。
今ではミニシアターというふうに呼ぶようになったけれど、単館で上映している場合、単館系という言い方のほうが、正しいような気がする。
まあ、シアターはミニであるが。
単館系映画を見まくっていたころは、インターネットも普及していなかったから、「ぴあ」という雑誌を頼りに見たい映画を上映している映画館を探していた。
単館系映画は、味のある作品が多くて、思い出深い。

単館系のピークは、「ニューシネマパラダイス」あたりだったろう。
ものすごい人気だった。
ウェイン・ワンのように、アジア系の監督が、欧米で映画を撮るようになり、傑作がいくつもうまれた。
その一つが、「スモーク」である。
ポール・オースター原作で、ブルックリンのオーギーのたばこ屋に集まる人々の様子を描いた作品だ。
「スモーク」の撮影が終わり、残ったフィルムを利用して、まだ現場に残っている俳優さんたちで、何かできないかなという思いで作られた映画が、
「ブルー・イン・ザ・フェイス」という短い作品だ。
残り毛糸でモチーフ編みを作ったり、残り切れでパッチワークをするのが好きな私は、フィルムの残りを利用と聞いただけで、ワクワクする。

「スモーク」の出演者だけでなく、ルー・リードとか、ジム・ジャームッシュとかそうそうたる顔ぶれが、スクリーンを飾る。
特にストーリーはない。
私がこの映画で一番気に入っているところは、リリー・トムリン扮する、ワッフル男だ。
「ベルギーワッフル。ベルギーワッフル。」と言って、ワッフルを探している。
リリー・トムリンが演じているけど、ワッフル男なのだ。

当時は、まだそれほど、ベルギーワッフルが、町で売られていなかった。
映画に出てきた食べ物を食べたくなる私は、家に帰って、
「ベルギーワッフル、ベルギーワッフル。」と言い続けた。
1,2カ月ずーっと、「ベルギーワッフル」と言い続けるワッフル女を演じていたら、願いが通じたのか、少しずつだけど、ベルギーワッフルを売るお店が出てきた。
そして今では、ベルギーワッフルはどこでも食べられるようになった。
リリー・トムリンに感謝である。

オーギーのお店には、いつもほうきでお掃除をしている青年がいる。
晴ても、雨でも、みんなにからかわれても、オーギーの店にいる。
青年がどういう人なのか、特に触れていないけど、たぶん、知的障害か発達障害なのではないかなと、思う。
これは私が思うだけで、ほかの観客はないも思わないかもしれない。
そういう感じで、ごく自然に、オーギーの店にいる。
オーギーの店はそういう店だ。
オーギーは、「スモーク」で、毎日同じ場所で写真を撮る。
それがオーギーだ。
私はオーギーが好きだ。

ブルー・イン・ザ・フェイス
ウェイン・ワン
ポール・オースター
1995年


リリー・トムリン
1939年生まれ
最新作、80 for Bradyがアメリカで上映
毎日定点撮影、「スモーク」

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