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うちのルンバちゃんがサボり始めた

我が家のルンバは働き者である。とても呼び捨てになんかできない。
媚びた声で「ルンバちゃん」と呼びかける。
一代目のルンバは長いこと勤めてくれた。褒めたら伸びるタイプで、バスマットや玄関マットを放り出して頑張って掃除していた。 
電気コードを飲み込み、おえおえしていた時は、コードを放置した私が悪かったと、口からひっぱり出してあげた。
「あー、スッキリした、今度から気をつけてくれよ」というふうであった。

数年が経った。ルンバちゃんはわずかな段差が登れなくなった。
ベースに戻れなくなり、ベッドの下で事切れていたりするようになった。
帰宅後、ルンバちゃんがベースにいなければ「ルンバちゃーん、ルンバちゃーん」と徘徊ルンバを探し回るのである。 

充電が不十分かも知れないと、一回完全放電してみることにした。ベースに戻さず放置したままにした。
深夜、隣の部屋から声が聞こえて目が覚めた。
「ルンバを充電して下さい、ルンバを充電して下さい」と言い続けている。
かわいそうに。自分の非情を責めた。
ついに右足が動かなくなり、同じ所をぐるぐる回るようになった。
哀れであった。あんなに働き者であったのに。
親の老いを見ているような気がして悲しくなった。

二代目がやってきた。元気である。段差なんて軽々と突破する。隅々まで何回も往復し丁寧に掃除して疲れを見せない。
若さって素晴らしいと思った。

ところがである。一年が経った頃から、私が在宅しているのを知ってか知らずか、いつもの半分の時間しか動かないことがあった。3LDKのうち2部屋だけ掃除してベースに戻って、タッタラタターと終わりの合図を送ってくる。アプリでは正常に掃除を終了しましたとメッセージが表示されている。
嘘つけ、と思った。
追加掃除を指示した。自分がサボったことなどなかったように、またですかと掃除を再開した。

二代目デビュー時は、こんなことなかった。次第に数回に一回サボることが常態化した。毎回じゃない所が巧妙である。
このルンバちゃんにはAIが搭載されている。
学習しているのだ。
真面目に掃除したふりをしている。わからないように楽をしようとしているのだ。
「今日はやりたくない」
「たまにはお前がやれ、お前の家だろ」
と思っているのではないか。

「ルンバちゃん」が「ルンバさん」になった。


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