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児童精神科医の気になる論文:自閉症の性差

Research Review: A systematic review and meta- analysis of sex/gender differences in social interaction and communication in autistic and non autistic children and adolescents

Henry Wood-Downie et al

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcpp.13337

自閉症の性差

自閉症の性差に関するシステマティックレビューとメタアナリシスです。自閉スペクトラム症は男性と比べて女性では異なる症状を示すことを示すことが指摘されてきています。この論文は、自閉症児および非自閉症児と青年、成人における社会的コミュニケーションの相互作用における性差を調査したシステマティックレビューです。なお、こういったレビューで最も大事なことになりますが、研究の質を評価するために、Appraisal Tool for Cross-Sectional Studiesを用いて評価しています。

2,730人を対象とした16の研究を分析した結果は?

女性の方が社会的相互作用と社会的コミュニケーション能力が高い

ASDを持つ女性(対男性)の方が社会的相互作用と社会的コミュニケーション能力が有意に優れており(SMD = 0.39、p < 0.001)、これは非自閉症者においても同様の性別差を認めた(SMD = 0.35、p < 0.001)。非自閉症の男性は、ASDの男性よりも社会的相互作用とコミュニケーションが有意に優れていた(SMD = 0.77、p < 0.001)。非自閉症の女性はまた、ASDの女性よりも社会的相互作用とコミュニケーションが有意に良好であった(SMD = 0.72、p < 0.001)。非自閉症の男性は、ASDの女性よりも社会的相互作用とコミュニケーションが優れていたが、この差は有意ではなかった(SMD = 0.30、p = 0.07)。

この論文の結論は?

 この研究では、ASD患者の社会的相互作用とコミュニケーションにおける重要な性差を強調しています。私たちが使ってきたこれまでの診断ツールでは、その性差をうまく捉えられていない可能性が高く、女性の自閉症の認識不足の可能性が示唆されました。新たな診断プロセスを考えていく必要があるかもしれないとしています。

この論文から考えるべき臨床的な示唆

 この研究では、自閉症の症状は男性と女性で異なることが示唆されています。これは多くの臨床医たちが日々感じていることでしょう。実際に社会的相互作用とコミュニケーションにおける、これまでのメタアナリシスはASD症状を広く評価する結果、ASD症状の性差を小さく捉える傾向がありました。

 臨床医や研究者たちはその診断バイアスを克服し、より微妙な性差を捉える必要があるでしょう。&nbsp;ASDを持つ女性は、社会的相互作用とコミュニケーションが対男性で有意に優れていたという知見は、女性の自閉症についての理解を深め、なぜ女性が遅い年齢で診断されることが多いのかについて考えさせてくれます。