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コロナ総括⓴「第二波は来ない」という上久保説にこれだけの疑問

「新型コロナ《第2波》は来ない」と上久保氏はいうが

日本は欧米よりも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による被害が小さかった。その理由として、いくつかの非常に面白い理論が広まっている。今回と次回、二回にわたりその詳細について、検証していくことにする。
初回は、上久保靖彦氏(京都大学大学院特定教授)の理論を俎上に上げさせていただく。
上久保説の概略は以下の通りだ。
■COVID-19を引き起こしている新型コロナウイルスには3種(S型、K型、G型)がある。
■当初、昨年11月以降に毒性の薄いS型・K型が流行を始めた。そののちに、変異型で毒性の強いG型が広まった。
■K型に罹患して得られた免疫はG型の防御にも有効だが、S型のそれはG型を防がない上に、重症化をさせてしまう。
■日本は武漢以外の中国からの来日を3月9日まで禁止していなかったために、S型とK型が十二分に国内に広がる時間的猶予があった。実際に、11月~3月9日までの中国からの訪日者は184万人にも上っている。彼らから、K型を罹患した日本人たちはG型に対して有効な免疫を有することになり、結果、G型の被害が抑えられた。
■一方、米国は早期(といっても日本時間2月3日)に中国からの入国を禁止したため、S型・K型の蔓延が進まなかった。また、欧米ではインフルエンザが流行していたために、ウイルス干渉(2種のウイルスには感染しにくい)により、同時期に流入したS型・K型が広まり難かった。とりわけ、S型よりも発生が遅れたK型は、インフルエンザ流行期に流入が重なったために、感染が少なかった。こうしたことにより、欧米ではG型の被害が大きくなった。
■白人が多いオーストラリアは、中国との往来が盛んなために、早期にK型に感染した人が多かったと予測される。そのため、死者は約100人程度と少なくなっているちなみにオーストラリアはBCGを行っていない。つまり、被害の重い軽いは人種やBCGではなく、K型の感染履歴によるものと考える。
(7月27日に開催された「コロナ第2波」に関する上久保氏等の記者会見/Daily Will「改めて言う!! 新型コロナ《第2波》は来ない」から筆者抄録)

訪日中国人は11~1月に約240万人
対して2・3月は10万人弱・・・?

私はこの話を何度となく読んできたが、首肯できない点が多々あった。
まず、欧米との違いを解くうえで重要となる中国からの訪日者数の正確な数字を入管データから拾っておこう。
11月:75万951名
12月:71万234名
1月:92万4790名
2月:8万7220名
3月:1万365名

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11~2月までで238万5975名となるので、上久保氏の発言(11月~3月9日までで184万人)とはだいぶ齟齬があるが、これは誤差の範囲としておく。
3月までで合計243万3560名となるが、11~1月分が96.1%を占めている。2・3月来日者はこの間のたった3.9%にしかなっていない(全体のおおよそ26分の一)。2月3日に入国禁止としたアメリカと大差ない状況だ。ちなみに、1月27日に中国は団体海外旅行を禁止にしている。それ以降の中国出国者が激減したため、入管規制以前に、訪日者は大幅に減っていたのだ。上久保氏がいう「入国規制が遅れたことによる日本のみがラッキーな状況」というのはそれほどのものではないだろう。これが一点目の疑問。
さて、次の疑問点に移ろう。中国からの訪日者の圧倒的多数が、1月26日以前の訪日者となる。この時期まてだと、発生がより早かったS型の感染者の方が、日本でも多くなったのではないか?ならば、K型蔓延によるG型防御は成り立たず、欧米同様、S型先行によるG型の重症化、となったのではないか?これが二つ目の疑問点。
この二点はいずれも、2・3月の訪日中国人が、11~3月期全体のたった3.9%しかいないという事実に基づくものだ(関連記事はこちら)。

1月末出航のDP号乗客症例の矛盾をどう考える?


そして、3つ目の疑問。仮に、日本で1月末までに何らかの事情により、S型よりもK型が広く流行していたとしよう。この仮説と、かのダイヤモンド・プリンセス号(以下、DP号)での船内感染の状況とを重ね合わせてみると、齟齬が出るのだ。DP船は1月20日に日本を出航している。この時までで多くの乗客は日本にいたので、仮説通りなら、K型に感染して抗体を獲得していた人も多くなるだろう。ならば、DP号の日本人乗客は難を免れたか?
同船での日本人乗船客は1281人となる。そのうち270名が感染し、8名が死亡した。乗船→死亡率は0.62%、感染→死亡率は2.96%となる。若干、第一波の感染→死亡率よりも低いが、それはPCR検査を広く行ったために無症状感染者を広く捕捉した(感染者の約半数)せいだろう。
一方、日本人以外(乗客では多い順に米国人・オーストラリア人・カナダ人、船員ではフィリピン人が最多)では、2430名の乗船者に対して、感染は364名、死亡者は6名となる。乗船死亡率は0.25%、感染死亡率は1.65%といずれも日本人よりも低い。船員が乗客よりも総じて若いことを考えたとしても、上久保説が素直に受け入れられない状況だ。

K型感染のおかげで豪州も被害は少ない・・・?

そして、Willで氏は、自論を補強する傍証として、オーストラリアの被害の少なさについても触れている。「オーストラリアは中国沿岸部の国々と関係が深いため、K型が入りやすく、日本と同じく免疫をもっている」、だから「死者数は約100人」という。ちなみに、オーストラリアはBCGも行っておらず、また白人比率も高い。にもかかわらず、死亡者が少ないことから、BCGや人種などが死亡率に関与しているのではなく、やはりK型感染がファクターとして大きいのだと主張している。
この点について、近況まで含めてしっかり確認をしておきたい。
まず、同国の感染状況を示したのが下図となる。

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こちらも、米国や日本同様、3・4月の第一波と、直近の第二波からなるのがわかるだろう。
確かに上久保氏の言う通り、第一波の死者数は少なく、7月5日時点で104名でしかなかった。この数字をもって(上記抄録を載せた会見は7月27日と多少ずれはあるが)、オーストラリアの死亡者数は少ないと発言しているのは前掲の通りだ。
ところが第二波発生以後は死亡者数が急増し、8月24日現在は502名にもなっている。ちなみに感染→死亡率を第一波と第二波について以下のように簡易試算しみよう。
■感染判明→死亡までを3週間のタイムラグがあるという想定とする。
■第一波を6月13日までの感染(死亡は7月5日まで)
■第二派を6月14日~8月3日までの感染(死亡は7月6日~8月24日)
この簡易試算法で算出すると、第一波の感染→死亡率は0.6%、第二波のそれは4.8%となっている。第二波の死亡率は決して低いものではなく、上久保氏のいう「オーストラリアもK型罹患による獲得免疫で防御できている」という指摘は誤りだ。
ちなみに、多くの国で第一波よりも第二波の死亡率が低い傾向が出ているが、オーストラリアは真逆となっている。この理由は、感染者の年齢内訳や医療インフラの逼迫度など様々な要素を詳細に検討しなければならないだろうが、その一つとして、「高温期は低温期よりも、症状が軽い」ことがあるのではないか。そう考えると、米国・欧州、そして日本の第二波(=夏季)が第一波(冬~春)に比べて低いく

南半球のオーストラリアは反対になることとも合点がいくだろう。逆にいうと、ウイルスの弱毒化はそれほど進んでおらず、このまま北半球でも冬が来れば、また、死亡率は上がるという不都合な未来が予想される。

本当に日本に第二波は来ていないか?

さて、最後に氏はWill誌上で日本では「(高齢者も)間違いなく免疫ができている」と明言し、ゆえに第二波は来ないというタイトルが付されていたが、この点については、前回の「年齢別死亡率」の試算を再度示しておきたい。
日本での試算も、先ほどのオーストラリア同様に、陽性判明者数と死亡者数を下記のように3週間ずらして集計してみた。
第一波/6/10までの陽性判明者(=6/30までの死亡者)
第二波/6/11~7/29までの陽性判明者(=7/1~8/17までの死亡者)
その結果が、下図のようになる。

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これも前回書いたものだが、総陽性者→死亡者から死亡率を出すと、第一波は5.7%に対して、第二波は0.9%とおよそ6分の一にまで低くなっている。この数字だけを見れば、多くがK型に罹患して集団免疫を獲得したため、という説が正しいようにも見える。ただ、年齢内訳を見れば、各年代の死亡率は半減程度だということがわかるだろう。つまり、見た目、死亡率が下がっているのは、若年層の感染が増えたことによる幻惑に過ぎない。
年代別死亡率は半減でしかなく、その理由も、①治療法の確立(シクレソニドやレムでシビルなど)、②(オーストラリアの例でも示した通り)高温期の軽症化、が大きく、その他にPCR拡充による無症状者の陽性判明による希薄化などもある。決して「高齢者も間違いなく免疫ができている」などという状況ではないといえるだろう。

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