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環状線ウロボロス

起きる。並ぶ。通勤電車に乗る。
ああ、頭が痛い。二日酔いに違いない。部長め、あんな車両に連れていきやがって。
しかも今日は通勤ジプシー達がいやにうるさい。今は彼らの騒ぎに耐えられない。車両を移るか。
貫通扉に陣取る車両入出審査官にパスポートを見せて、さっさと扉をくぐる。

扉の先では露店が所狭しと並んでいた。
クソ、市の立つ日か。ジプシーが多いわけだ。乗車率も高め。ここでもゆっくりできそうにない。車両を戻るのも間抜けを晒す。乗り換えまで我慢か。

慣れない車両で中吊り新聞を読んでいたので、次の駅に着いた事に気付かなかった。外へ押し流される。無関係な駅なのに流れから抜け出せない。クソな日ほどクソが重なる。

突然、隣から声をかけられた。

「58357号車の乗車券、見ませんでしたか!」

必死な女。微かに香る香水。堅苦しいがどこか煽情的なパンツスーツ。そして直視できないほどの美人。
だが言ったろう。クソは重なるものだと。

【続く】

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