可視人間
大通りは嫌だ。目で見ることを忘れている人が多すぎる。
裏通りから裏通りへ、残飯でも無いかとフラフラと歩いていた。
すると、行きつけの廃ビルの影に隠れるように何かが倒れていた。全身に手を入れちゃいるがアンドロイドじゃない、人間の女だ。どこか自分の境遇を思い出したのか、柄にもなく手を差し伸べた。
ひっ、と彼女が声を出す。
顔を覗き込んだ。案の定、眼球全てが機械式。ARistだ。外部からの一切の視覚情報を遮断し、建造物も人間も全て自分好みに張り替えられた世界で生きる連中。
そして僕にはどんなサイバネも、その上浮浪者にも孤児にも与えられる個人番号チップすら埋め込まれていない。いるはずのない純粋な人間。僕は彼らにとって、鬱陶しい害虫と変わりゃしない。
「外部入力で見て」と僕。
「嘘でしょ」よろよろと動く彼女。
僕は肩をすくめた。
もう見えるらしい。驚き、逡巡した後、言った。
「お願い、盗んでほしいものがあるの」
【続く】
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