特技。

マッチングの季節だ。

マッチング、と言うのは医学生の就職活動だ。「医学部は就職活動が無い」としばしば言われるし、自分たちでも言ったりすることがあるが実際はそんなことはない。自分の希望病院を受験し筆記試験や面接試験を受け、採用された人が次年度より研修医として病院に勤務するのである。各病院には採用人数があり、人気病院はもちろん倍率が高い。中学、高校、大学と低くはない倍率を潜り抜けてきた猛者たちがやっぱり就職でも高倍率で勝負するのはなんとも厳しいことであるが、それは致し方が無い事だ。

さて、僕は現在4回生なのでマッチング試験を受けるのは2年後という事になるのだが、困ったことに「特技」と胸を張ることができるものが無い。結構真剣に考えてみたのだが本当に無いのである。

いや、あるにはあるのだが、これを特技と呼ぶかどうかは皆さんの判断に任せたい。

反省文を書くことが得意だ。

反省文、と書くと悪ガキアピールをしているイタいやつみたいで嫌なのだが、本当に昔からしょうもないことで反省文を書いてきた。「ガラスを割った」やら「近くの中学生と喧嘩した」などのエピソードではなく、「帰りにマクドナルドに寄っているところを見つかった」みたいなエピソードだ。今でもあまりのしょうもなさに恥ずかしくなる。それでも大学生になっても書いたし、計10本は書いてきたと思う。

まずは弁明なのだが、書いている時は真摯に反省している。「本当に申し訳ないな」「二度と同じことはしないようにしよう」そう思って心を込めて書かせて頂いている。

だが、やはり原稿用紙2枚を埋めるのは難しい。反省文の大まかな流れとしては「オープニング謝罪→事実の説明→中盤の謝罪→今後に向けての考え→〆の謝罪」だと思うのだが、この”事実の説明”をいかに膨らませられるか、”今後に向けての考え”をどう書くかが勝負になる。ここを簡潔に終わらせてしまうと、ただ「申し訳ありませんでした」が羅列される文章となってしまい、文面上では反省が伝わらない。

序盤では本当に反省していたはずなのに、気づけばどう文章を長く書くかを考えている。句読点多用、漢字をひらがなで書く等、反則ギリギリの遅延行為を何度も繰り返しながらなんとか書き上げる。ああ、疲れた。

こんなことをしているからまた新たに書くことになるのだろう。職員室に呼ばれたり、個人宛にメールが来ると大体わかってくる。「今回はこのことで怒られるから、反省文を書くとすればここをキモにして、こう展開して、こう締めよう。」慣れとは実に恐ろしい。

昔本当に一度だけあった話なのだが、レポート作成時の不備についての反省文が相手に感銘を与えた結果、逆に「感動しました。これからの成長に期待しています。」という趣旨のメールが反省文以上の長さで返信されてきたことがある。戦々恐々だ。僕の培った20年の反省文の技術が、大学教授の胸を打ってしまった。その時はさすがに教授の懐の広さと自分の情けなさのギャップで涙が出そうになった。

気づけば今回もこんなくだらないことで1000文字以上書いている。

「要旨を簡潔に」が社会人のマナーなのに「1分の話を10分にする技術」を磨いてしまっている。

ふざけてはないんやけどなぁ。

そうだ、反省文で悩んでいる人がいたら相談に乗ります。「反省文ビジネス」を始めようかな。

もう、反省していない。


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