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ウマ娘シンデレラグレイ、異質なスピンオフを成立させる絵力と神という名の原作者

ウマ娘プリティダービーの快進撃が凄い。2月24日に発売されたゲームアプリは600万ダウンロードを超え、既に300億円超える売り上げを得ているのではという話まで出ている。エンタメコンテンツとしてこのゲームの売り上げは、ほぼ確実に映画「 鬼滅の刃 無限列車編」を超える。発売のタイミングを考えると「エヴァンゲリオン」を介錯したコンテンツともいえるだろう。

※ 「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」にてエヴァンゲリオンシリーズはさっぱりと終わったが、公開後に二次創作での盛り上がりが思っていたより小さく見えるのは、さっぱりと終わったからなのは間違いないが、ウマ娘という大波のタイミングに重なったからとも思っている。

課金ガチャゲーだから金額は……と言われれば確かにそうだが、このゲームは無課金でもちゃんと楽しめる懐の深さもある(上を目指せば高みはドコまでもあるが、個人的な目標「サイレンススズカで天皇賞(秋)を獲る」は無課金でも比較的簡単に届き、十分満足する内容だった)。

発表時は「競馬で活躍した馬たちを擬人化(?)させて、競馬場で徒競走を行う」というシュールな設定と絵ヅラに驚いたが、死産説まで出た中で、事前登録から3年待たせて稼働したそれは、ミドルスペックのCPUでも美麗な3DCGをぐりぐり動かす、あり得なかったはずの描画技術と、そもそものシステムの完成度で度肝を抜かれた。

関節どころか衣服にも破綻が見られないモデリング、疾走感ハンパないカメラワークとエフェクトにSE、ほぼフル実況、勝利者で歌い手が変わる音源…なにより曲の良さが素晴らしい。課金はまだしていないが、勿論アルバム音源は購入済みだ。

もちろん各ウマのストーリーは史実を上手く絡めたものがたっぷりと用意されている。ゲーム内に出て来る目標も中間目標もほとんどが史実に合致したものである。目標クリアしなくても嬉しいとは、どういうコトか(笑)

当然、オグリキャップやサイレンススズカが戦っていた時代、G1レースと札幌記念の時ぐらいは馬券買って、札幌記念で万馬券当てて喜んだりしていたが、今は競馬から離れていたどこかのオッサンの琴線に触れまくるゲームだったのである。

ウマ娘はゲームを待たせる間にマルチメディア展開を進めた。YOUTUBEで流してゴールドシップの人気を不動にした「ぱかチューブっ!」、ニコニコ生放送のアンケートで、1期・2期とも「とても良かった」が、平均90%を軽く超えた(2期の一挙放送では来場110万で99.2%というとてつもないスコアを叩き出した)アニメ「ウマ娘プリティ―ダービー」、製作元Cygamesのマンガ部門、サイコミによる「STARTING GATE!」、そしてこの「ウマ娘シンデレラグレイ」等である。

……今回前置きが長いが、社会現象だからなぁ、もう。

「ウマ娘シンデレラグレイ」(漫画:久住太陽 ・脚本: 杉浦理史 ・漫画企画構成: 伊藤隼之介・(原作:Cygames)・集英社)は、競馬フアンでなくとも知る人が多い名馬をベースとしたウマ娘「オグリキャップ」が主役である。地方競馬場の笠松競馬場をモデルとした、カサマツトレセン学園を舞台に、トレーナーの北原、友人のウマ娘ベルノライトと東海ダービーを目指す物語。もちろん目指した先にはそうそう安々とは行けない、行けないのだがその理由は……。

なんと言っても絵力。ウマ娘でなくても表紙買いしたくらいに1巻表紙のオグリキャップが素晴らしい。そして躍動感あるレースシーン、手抜きの見えない背景、なによりオッサンが上手い。劇画的な硬質な絵だが、このオッサンがしっかり描けるコトが今作には非常に重要なのだ(いや、女の子はちゃんと美麗で可愛く、ギャグシーンのデフォルメも上手いのだけど)。

ゲームを主体とすると、異質なスピンオフである。いや、ウマ娘の根底はそこらの女子スポーツものが裸足で逃げだす王道スポ根なのであるが、可愛さへの比重が高いゲームやアニメよりもシンデレラグレイは、かなり硬質な、シリアスなマンガである。

シリアス展開のものからギャグのスピンオフはよくあるが、スピンオフが硬質でシリアスなものはあまりない。ガールズ&パンツァーとかストライクウィッチーズの野上武志作品くらいだろうか。野上武志先生もオッサンを描くのが上手い。「硬質なシリアス寄りのスピンオフ」はオッサンをしっかり描ける絵力無しに成立させるのは難しいものなのだ。

さてストーリー。マンガの表記上では原作はCygames。だが、誰もが知るとおり、この物語は選りすぐりの競走馬が人間の3倍くらいのスピードで駆け抜けた競技歴と、そのサイドストーリーを神の描いた史実が原作なのである。

※ さらに、当時の競馬関係者・マスコミ・マンガ家・ファンたちがそれを煮込んだ物でもある。

Cygamesはそれを競馬好きに怒られないギリギリの改変で、なおかつウマ娘という意志の分かりやすいものたちにして、強敵と書いてともと呼ぶ競技世界を描いているのだ。全てのウマ娘たちのバランスをとりつつ。

史実のオグリキャップの物語は、地方競馬から中央競馬のてっぺんに上る下克上、まさに日本競馬史上最高のシンデレラストーリー。地方競馬出身といえばハイセイコーという希代のアイドルホースがいるが、芦毛の、灰色の体を持つオグリキャップほどシンデレラ(灰かぶり姫)ストーリーという言葉が似合う馬もいない。

シンデレラグレイでは1巻から登場している、もうひとりの芦毛のライバルがいる。タマモクロス。マンガ好きなら誰もが知るであろう週間少年ジャンプの競馬マンガ「みどりのマキバオー」の主役、マキバオーのモデルとも言われているタマモクロス。

名勝負を繰り広げた2頭のグレイ、芦毛馬をベースにしたウマ娘の物語がどう描かれるのか、どんな画を見せてくれるのか、今後がとても楽しみなマンガなのである。

次の3巻はもうすぐ、5月19日に発売予定。


……ちなみに、「認定NPO法人 引退馬協会によるナイスネイチャ・33歳のバースデードネーション」の終了まで残り2週間。ウマ娘の影響で募金額がものすごく上昇しているが、引退後の馬にはなにかとお金がかかるので、競走馬に興味が出た人は参加してみても良いかも。認定NPO法人 引退馬協会についてはこちらの本も参考に。




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