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マシュハドの旅行計画

登場人物


・私(アイミー):この記事の筆者・作家を目指す朗読家
・ザフロ:農業系の研究者
・ゾフレ:ザフロの母
・モヘセン:ザフロの夫(新婚)・農業製品を製造する会社の経営者
・ゼイナ:ザフロの妹・法律事務所で働きながら会計士の学校で教鞭をとる



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ここまでのおはなし


7年前、イランの深夜特急で同じコンパートメントになったザフロとザフロの母ゾフレ。アイミーは2人と仲良くなり、彼女たちの豪邸に招待されることに。以来、InstagramやSkypeで交流は続き、今回のイラン旅では、新婚のザフロの家にお邪魔することになりました。
もはや旅というよりホームステイになってきた、ヤズド滞在記。


アイミーの旅歴はこちらを見てね


マシュハド旅行計画

  ザフロの夫:モヘセンが仕事に出掛けてから、私とザフロはマシュハド行きの旅行計画を立てた。2人の予定を合わせ、彼女の家族の予定とすり合わせる。私がザフロの家族とも会いたいからだ。ザフロの母:ゾフレは、今、末の娘のゼイナとマシュハドで巡礼しているという。最終的に「ヤズドではなくマシュハドで母と会うことが最適」とザフロは考えたようだった。
 しかし、イランは夏休みシーズンの真っ最中! 電車も飛行機もまったく予約ができない。バスでもいくことはできるが、「バスは危ない」とザフロは言い、乗るつもりはなさそうだった。
「旅行会社経由で取るしかないわ。2泊3日になってしまうけれど」
と彼女は言った。
 私はなんとなく、せいぜい3000円程度の宿に泊まるのだろうと思っていた。ところが・・。
「ねえ、このツアーはどう?」
 彼女が提示してきたツアーはなんと! 日本円で14万円近くもした!
「マジか!たっか!」
 思わず私が日本語で反応すると、彼女は渋い顔で「いつもの倍はするわ」と言った。
 いやいやいやいや、いつもそんなにお金をかけた旅行をしているの? 私の宿、一泊5ドルくらいだよ? 改めて、彼女はイランのリッチなのだと感じた瞬間だった。
 ただ日本を出発する前、ザフロとイランを旅行できたらいいなと思っていた。彼女はもう結婚しているし、旅行はお金もかかる。きっと私と旅行するのは難しいだろうと思って諦めていた。それがまさに、彼女の方からマシュハド行きの提案があったのだ。今、彼女は妊娠している。子供が生まれたらさすがにしばらく国内旅行も厳しいだろう。彼女が良くても、家族の反対にあうかもしれない。夫の実家が口を出すかもしれない。となると、チャンスはまさに今。私は彼女と高いツアーを探すことにした。(もっとも、「妊娠中で旅行なんて!」言われそうな気もするけれど・・)
 しかし、金額以上に困ったことがあった。私の手持ち現金が劇的に少ないことだった。経済制裁の影響でイランでは日本のクレジットカードはほぼ使えない。いつもよりも多めに持ってきてはいるものの、バックパッカーの旅をゆく私に高額な現金支払いは困難だった。
ううん、詰んだ! そう思った時、レザー・ジャリルザデさんを思い出した。レザーさんは日本で旅行会社をしている。イランに来る飛行機で知り合った人で、テヘランにもオフィスがあると言っていた。レザーさんは「なんか困ったら言ってよ。あなたから利益取ろうなんて思ってないかさ」と、テヘランでも随分と私を助けてくれた。レザーさんに頼んだら、日本で後払いができるかもしれない!
 早速レザーさんに連絡すると、快く引き受けてくれた。ただ、「今はハイシーズンだから、マシュハドへの飛行機は難しいんじゃないかな。場合によってはテヘランまで電車で行って、テヘランからマシュハドに行くコースを提案するよ」とのことだった。明日の9時にまた連絡すると言ってレザーさんは電話を切った。
 これで本当に予約が取れたら、なんという出会いの連鎖だろう。私が持っている約20年前の「地球の歩き方」には若い頃のレザーさんが載っている。彼の会社が広告を出していたからだ。私は「地球の歩き方・2016年版」も持っているのだけど、迷った末、2005年版を持ってきた。その「歩き方」に広告を出していた人と隣の席になるなんて。飛行機の中でもめぐり合わせにびっくりしたのだけれど、こうしてまた助けていただくことになるとは、人生は時に数奇なものである・・と思ったのだった。
 今回の旅はめぐり合わせが多い。トラブルや困難が立ちはだかるたび、すぐに問題を解決してくれる人が現れて、勝手に問題は解決されていく。いろんな人の親切に運ばれるように旅は進み、どこか不思議で、どこか狐に摘まれたような気持ちになる。ただ感謝しながら目の前の親切を受け取ってゆくだけで、大いなる流れに乗ったように道が決まっていき、旅そのものが意志を持ったようにふわふわと進んでゆく。
 ふと、「もしかしたら、イスファハーンの両替商の言葉に答えのようなものがあるのかもしれない」と思った。
「20年前、私は日本を旅行しました。東京でヤワタホテルというホテルを取ったのですが、私は道に迷ってしまいました。困り果てていたところ、ある日本人男性が私をホテルまで連れて行ってくれたのです。その時のことを私は今も忘れていません。だから困っている日本人旅行者と出会ったら、私にできることで力になりたいと思っているのです」
 誰かの親切のバトンがリレーされて私にめぐりめぐっている。見知らぬ誰かの思いが私を助ける力になっている。そのことにちゃんと気づけるように、めぐり合わせは起きているのかもしれない。   
 人の親切にはたくさんの祝福が詰まっている。本当のことはわからないけれども、私はそんなふうに捉えることが好きだ。


ザフロが作ってくれた今日の朝ごはん
ザルチューべというスパイスを使った目玉焼き。


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