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怪物中毒 (電撃文庫) 著 三河ごーすと

【真贋入り乱れる化物の街で、当たり前の幸福を願って】 


人々が獣に還り、理性を解き放ち、自由と匿名を謳歌する。

そこは《仮面舞踏街》。

《怪物サプリ》を飲んで誰もがカジュアルに獣人に変身して、好き放題にやらかしていい街。完全監視社会の息苦しさを忘れられる、国が認めた唯一の《官製スラム》だ。

そんな街で、本物の怪物たる吸血鬼の少年・零士は、相棒の人狼・月とともに街の掃除屋として『害獣駆除』を請け負っていた。

轢き逃げケンタウロスの捜索、JKバニー狩り、顕現した都市伝説との死闘。そして《調薬の魔女》との出会いが零士たちの運命を大きく変えていく――。



これは、真贋入り乱れる街で闘い続ける少年たちの物語。過剰摂取禁物のオーバードーズ・アクション開幕!

監視された社会の軛から外れた仮面舞踏街で生きる少年の物語。


人は度重なる刺激を受け入れて呑み込む性質がある。

刺激が当たり前になれば、許容量では満足出来ず過剰摂取する麻薬のような危うさがある。

理性で己を縛った人々が解き放たれる時、本能に従順な一匹の獣となる。

吸血鬼の血筋を引き継ぐ零士は、相棒の月と共に跋扈する害獣共を狩り続けた。

願った幸福さえも普通に享受出来ない葛藤の中、次々と命が失われて。

夜闇に光る命と蛍という運命の賽の目を転がす。

徹底された管理社会で、自由を求めて怪物になるサプリを常飲する者たちが許されたアウトローな街。
欲望や謀略の蔓延る歪な世界で、仮初の自由を謳歌する人々が集う仮面舞踏街から抜け出そうと、ありふれた普通を手にする為に足掻く零士と月。

パンデミックが拡がり、世界が変調をきたす中でも、身に起こる災厄は全て自己責任の冷たい社会で、多種多様な種族が巻き起こす奇怪な事件を解決していく。

そこまで齷齪と闘えるのは何故か?
それは、人として生きたいから。
人間らしさを失っていく世界でも、最期まで人間らしく命を全うしたいから。
冷たい世界で散っていった命の分まで、幸せを掴まなければ、彼らの死は無駄になる。

全てがスコア化される社会でも、人の感情や想いだけは数値化出来ない。
管理社会で、貧困と偏見と差別に苛まれようと、その人間らしさの境界までは踏み込ませない。
人々が獣に還り、理性を解き放ち、自由と匿名を謳歌する、理性を本能が上回る世界の中で、自らの善性を信じて、難敵を討伐していく零士達。

些細な普通の幸福を渇望し、求めた先に広がる僅かに瞬く希望の未来。


自らが希った幸福の為に闘い続ける彼らの躍進に、現実のコロナ禍に晒される読者は、臓腑が熱くなるような滾りを感じられるだろう。







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