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映画感想文【大脱走】

1963年 製作
監督:ジョン・スタージェス
出演:スティーブ・マックィーン、ジェームズ・ガーナー、リチャード・アッテンボロー

前回(伊丹十三:お葬式)と同じく、午前十時の映画祭で鑑賞。
有名なので名前とテーマソングは知っていたが、脱走劇であること以上の事前情報無し。
実に60年前の作品である。正直なところ、楽しめるかな?と心配だったのだが、全くの杞憂であったことを一番先に述べたい。

<あらすじ>
第2次世界大戦中のドイツ捕虜収容所。運ばれてきた捕虜たちはみな、脱走の常習犯ばかり。度重なる脱走に手を焼いたドイツ軍は、堅牢な収容所をつくり彼らを一箇所でまとめて監視する策を試みたのであった。
「脱走は将校の義務である」と主張するラムゼイ大佐を筆頭に、筋金入りの脱走首謀者、通称「ビッグX」ことバートレット(リチャード・アッテンボロー)、腕利きの調達屋ヘンドレー(ジェームズ・ガーナー)、脱走歴18回の一匹狼ヒルツ(スティーブ・マックィーン)…。
彼らの計画する大脱走は果たして成功するのか、否か。


壮大な脱走劇ではあるが、テンポは割りとゆったりとしている。
映画は山程の捕虜が収容所に運ばれてくるシーンからだが、背景に流れる往年の名テーマソング『大脱走のマーチ』が勇ましさもありながらなんとなく牧歌的な雰囲気も持ち合わせるからだろうか。
瞬間のアクションで魅せるのではなく、綿密に作り上げられたストーリーで作品に引き込まれる。
様々な特技を持った捕虜たちが各々それを活かしてトンネル掘削に取り組み、計画の変更や先の不安、閉鎖空間での鬱屈などを乗り越えていくうちに絆を強めていく様子には共感必至である。

165分、インターバルが挟まれる長丁場であったが、中だるみすることなくずっと手に汗を握りスクリーンに集中していた。というのもやはり収容所という環境なので、いつなんどきバレるか分からないという緊張感が始終つきまとっているのである。
そしてそういった危機は何度か訪れる。
監視の軍人買収がうまくいきそうでいかなかったり、同時進行で掘っていた三本のトンネルのうち一本が計画直前にバレたり、捕虜たちの絶望や恐怖があったり…。
一人や二人の計画ではない、沢山の捕虜が関わっているだけに、脱走にかける思いも実に様々である。
映画は勿論捕虜たちの視点で描かれるので、全員無事に脱走して欲しい、と願うものの、しかし無情な展開であるのがまたリアルである。

収容所から脱走したのち、捕虜たちは各々の逃げ道を行く。どれほど綿密な計画を立てようとも、そこはやはり捕虜であった彼らよりも包囲網を敷いて追い詰めるドイツ軍たちのほうが有利である。
あるものは列車で、あるものは車で、またあるものは飛行機を奪還して逃げるのだが、そのほとんどは結局捕まってしまう。
ここはスティーブ・マックィーンのバイクでの疾走シーンが有名だが、それ以外の者たちも実にハラハラして目が離せない。

余談だがマックィーンやドイツ軍人たちが扱うバイク、素人目にも挙動が不安定すぎて怖い。リアルっちゃリアル、なのだろうか。
そのほとんどをスタントなし、本人がこなしたというのだから相当だなぁと感心する。

脱走した76名中ほとんどが捕らえられその場で、または移送中に処刑されるシーンは実に辛いが、ここもまたリアルである。
原作となるノンフィクション小説があり、映像化ゆえの脚色はあれどこの数字は事実らしい。
脱走計画の指揮を取ったバートレットが唐突に処刑される直前につぶやいた、「トンネル掘りが生きがいだった」という一言が皮肉であるような、救いであるような。

また、第2次世界大戦中のドイツ軍といえばアウシュビッツ強制収容所を筆頭に、とかく冷酷で残虐なイメージを抱きがちなのだが、作中ではそのような印象は薄い。そもそもドイツ軍側の描写が少ないこともあるが、収容所のルーガー所長は捕虜との折衝役であるラムゼイ大佐やヒルツたちに対し居丈高に振る舞ったりはしないし、脱走した内の50名が死亡、負傷者なしという事実を告げる際も非常に辛そうである。
このルーガー所長には実際のモデルがいて、原作小説によれば人徳者であったことは史実らしい。
同じく脱走劇をテーマとした有名過ぎる作品、『ショーシャンクの空に』を連想するに、ノートン刑務所長とは大きく異なり、また『戦場のピアニスト』で主人公、シュピルマンを救ったドイツ人将校(ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉)とは似たような救いを感じられた。

脱走した76名中、無事逃げおおせた描写があるのは実に、わずか3名のみ。
せめてもの、という思いと、再び収容されながらも不屈の闘志を燃やすヒルツの表情にかっこよさが爆発する大脱走、であった。
名作、間違いなし。
芋焼酎の密造シーン、良かったなァ〜(笑

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