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映画感想文【バックドラフト】

1991年 製作
監督:ロン・ハワード、出演:カート・ラッセル、ウィリアム・ボールドウィン、ロバート・デ・ニーロ
午前十時の映画祭にて再鑑賞。

<あらすじ>
幼い頃、自分の眼の前で殉職した父の後を継ぎ、消防士になる決心をしてシカゴに戻ってきたブライアン(ウィリアム・ボールドウィン)は、消防中尉の兄スティーブン(カート・ラッセル)と共に火災と戦う日々を送っていた。ある日、ブライアンは元恋人のジェニファー(ジェニファー・ジェイソン・リー)と再会、彼女の上司から放火犯罪調査の仕事を勧められる。調査を進める中、ブライアンは2件の火災が殺人を目的とした同一犯の放火であることを突きとめるがーー。

午前十時の映画祭13

「こんなにサスペンス要素ある映画だったっけ…!?」

やはり時を経ると印象もガラリと変わる。映画館マジックももちろんあるだろうが、とにかく凄まじい炎の迫力と徐々に明らかになる真相にハラハラしっぱなしの二時間で、前回の『タワーリング・インフェルノ』同様、観に行ってよかったと思う。

殉職した父や一本気な兄に対する弟ブライアンの劣等感は昔観た時も感じていたが、今回は兄スティーブンの方に特に視線が向かった。
弟ほど幼くなくとも大人とは言えない年齢で父親をなくし、いきなり重い責任を負って生きていかねばならなくなった兄。母親の描写は一切ないので、父親が死ぬより以前に亡くなっている可能性も高い。
なんとか成長して、それなりの普通の人生を営むには、消防士という職業と彼の過去が過酷すぎたのだろう。

現場では大活躍して多くの命を救うスティーブンだが、あまりにも危険を顧みない行動に部下にも遠巻きにされる。唯一の拠り所の家庭、妻にも涙ながらに拒絶される有様。職務に対するプレッシャーと恐怖と、周囲に理解されないストレスに挟まれ、さぞかし生きづらさを感じていたことだろう。

人を助ける消防士も一人の人間であり、助かるべき一つの命であるという事実が理解できない、あるいは理解していても炎に向かっていく衝動を抑えられないのは、どういった心理からだろうか。
ある考察には「父の死の現場に立ち会えなかったから」とある。では「立ち会った」弟ブライアンはどうだろうか。
普通ならば炎を恐れ強く遠ざけると思うが、彼は消防士として現場に戻ってくる。それはやはり、父や兄に対する葛藤を越えた絆を感じたから、彼らと同じように炎に立ち向かい、打ち勝ちたいと願ったから、と言えるかもしれない。

完全に蛇足だけれど、同じく消防士を描いた作品『め組の大吾』(著曽田正人)をまた読みたくなった。

映画の見所は、題名の「バックドラフト」という爆発現象やあたかも意思を持つ生き物のように立ち上る炎の映像表現である。
バックドラフト現象とは、締め切られた空間で火災が起こった場合に、室内の酸素が炎に食い尽くされた時、窓や扉を開放することで、酸素が流入し発生する爆発的な燃焼現象のことをいう。
ドアの隙間から漏れ出た煙がヒュッと、まるで人が呼吸するかのように吸い込まれる一瞬が、次の瞬間バックドラフトが起こることを示唆する。閉じ込められた炎が脱出口を求めて扉をカリカリと引っ掻く音と合わせて、言葉に頼らない見事な表現である。
『タワーリング・インフェルノ』も同じく火事を題材にした映画であるが、あちらは1975年製作。約20年の間に遂げた驚異的な映像技術の進歩には脱帽しかない。

兄弟の葛藤と絆の物語の他、放火の真相に迫るサスペンス部分に関してはほとんど記憶がなかっただけに新鮮で面白かった。
火事現場でタバコをふかす不謹慎さも含め、やたらカッコいい火事調査官がロバート・デ・ニーロだったり、レクター博士(by『羊たちの沈黙』)の如く調査に行き詰まったブライアンに助言を与える放火犯がドナルド・サザーランドだったり、なかなか豪華な俳優陣であることにも驚く。

やはり名作は何時、何度観ても、名作。
次は『ミツバチのささやき』を観たい。フランケンシュタイン!!



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